北緯43度

村上きわみの短歌置き場です

「未来」09月号(2012)

2012-10-02 | 未来

ほめられて草にまみれるいきものが今日もあたらしい息を吐く 

てっぺんがあかるい(あれはなんという木ですか(あかるいね、てっぺんが

粛々とふるびるこころ持ち寄って木蓮がきれいに錆びている

ゆうぐれの水ならば敬いなさい 父さんの硯に海がある

そのようにくるしかったか練色のシフォンを脱いで白湯をのむひと

はつなつの風に縫い目をほどかれてひらたくなった ししむら しずか

そのひとがわたしを清くしてしまう夢の浅瀬ですこしだけ泣く

おおよそを撓めて川に触れたがる柳のことをかなしみましょう

あまい火が底をとろとろうながして生まれかわれるなら白粥に

どこへでも行ってきなさい何度でも帰っておいで 夏毛の獣

 


「未来」08月号(2012)

2012-09-06 | 未来

揺れているみどり、くさはら、何かいるらしい、つたない、雲雀だといい

暮れてゆくにまかせて(いいえ、いっしんに背いて)ごはんが炊けましたよ

傷口を焼くまで待っていてくれる春はかしこい犬に似ている

(太らせておいたの)ひどく甘そうな球根ふたつみつくれるひと

草褒めの風なのでしょう野を乱しさんざんひらいては綴じてゆく

荒く碾けば豆の記憶が舌先に触れてくる お前、さびしかったね

土のことは土に訊きたい火のことは火に教わってきたのですから

傾きを変えて続きを読んでいる「これ、やばいよ」ときわまりながら

ぞんぶんに油断しているいきものはどれもかわいいし、かわいそう

にほんじゅうのひとが忘れたころに咲くわたしの桜を観に行こうかね

 


「未来」07月号(2012)

2012-08-03 | 未来

両肩によごれた雪を縋らせているのであなたは道なのでしょう

念入りな描写のなかで燃えている駅ですか、最終回ですか

火の甘さばかりを愛でるおとうとよいっそくまなく食べておしまい

くさはらに雨を降らせているもののちから、おびただしいそのちから

おたがいをこよなく漕いでわたしたちだんだんふるくなる、よわくなる

そしてとてもよいものになる 体から麦のにおいをたちのぼらせて

穀雨です どうしても濡れてゆきたいと言い張るひとの手足がわらう

ひどく黒い旋律をみちびきだして果てる あなたは水のオルガン

野遊びに誘いたかった踝をしゃくしゃく磨く春のひなたへ

塩壺に匙をうずめていましめる(声ばかり手繰ってはいけないよ)

 


「未来」06月号(2012)

2012-07-04 | 未来

(いきものがひくく構えていることのかけがえのなさ)咬みにきなさい

尾根から尾根へ雨を授けてゆく雲よ、いつかわたしの家来におなり

註釈のように咲き出す花の名をどうしてだろう思い出せない

唾つけて光らせておく もうこれが最後のわたしかもしれないし

鹿を嗅ぎにゆきませんかと誘われる(悪くない)鹿を嗅ぎにゆく

かみさま、と口にするたび恥じ入って縮むのでよいひとなのだろう

ぼくじゃないぼくじゃないって泣きながら桴の毛糸を巻き直してる

邪気のない窓をえらんで打ちつける雨粒の気持ちなどわからない

ひかりばらまく野のふるまいはそれとして春は心細うてかなわぬ

離りながら知る冬の芯(さんがつのつららどうしてこんなにあまい)   ※ルビ「離」か


「未来」05月号(2012)

2012-06-03 | 未来

開いたらたちまちふるくなるような書物を抱いておいでください

きざみのりふりかけるとき息を止めおかあさんおそろしいおかあさん

啜ったり舐めたりすると ひ って言ういのちだ なんとしてもかわいがる

なんまいも海を捲ってきたゆびを見ている たいせつにしますから

お前のなかに村があるって父さんが言う 煙突を数えてくれる

泣くまいとしている人にひとつずつ滝を差し入れて暮らしたい

あなたは、削られたくてしかたない崖のようだから好きでいる

とっておきのよくないこころ見せあってげらげら咲いているヒヤシンス

せかいいちかしこいお前、せかいいち野蛮なお前、あいしてやまぬ

どこからでも裂ける仕様になっている(わたしは)川としても使える

 


「未来」04月号(2012)

2012-05-02 | 未来

白湯だけが親しい夜の入り口でいいよあなたの六腑になろう

よこしまな心しかない 空の朱をかきまぜながら飛ぶ鳥を見る

濃紺のいのちを空に弛ませて鳶が見せつける冬の所作

ゆきはらに雪腐らせてこの冬のかみさまは胡乱でいらっしゃる

播くものを持たない暮らし粛々と喉にこなぐすりを貼りつけて

春待ちの枝という枝いたましく尖る どなたから曲げようか

いざやいざやと詰め寄りながら一献で済まぬ宴と相成りましょう

(ゆるすとかゆるさないとか)恥ずかしい釜揚げうどんぞるぞるすする

獣には獣の寝言 迷わずについてゆくからぎんなんおくれ

せりなずなごぎょうあたりで躓いてやわらかすぎるバスまいります


「未来」03月号(2012)

2012-04-06 | 未来

星を焚く真冬(どなたのお名前もうっかり口にしませんように)

降りながらすこしくるってゆくでしょう雪の甘さの、埒があかない

あめゆきに舌をさらして記憶からいちばん遠いふゆを歩いた

ただならぬことの次第を告げにゆく痩せた冬田に鳥を招いて

泣き本のような台詞を口にして来世は閂になるつもり

んくんくと水飲むひとの、さかさまの、夢の名残に塩ふりこぼす

泣いていいと言えば泣きだす(それでいい)飛ぶもののおなかはやわらかい

冬の舌が地面を舐めるまひるまにあなたはささやかな火を嘔吐す    ※ルビ「嘔吐」もど

とりの付箋、さかなの付箋、じゅんぐりに剥がして夏の書物を閉じる

いくばくか滴るものを掌にうけて冬ざれの野に淡く礼なす    ※ルビ「礼」いや


010:カード(村上きわみ)

2012-03-31 | 題詠:2012

(誰よりもむごい手順で)恋人よわたしのSIMカードを抜きなさい


009:程(村上きわみ)

2012-03-31 | 題詠:2012

日毎夜毎たましい売りがやってきて囁く「如何程さしあげましょう」


008:深(村上きわみ)

2012-03-18 | 題詠:2012

早春の深みにはまる遊びからはじめたい泥とひかりを混ぜて