北緯43度

村上きわみの短歌置き場です

007:驚(村上きわみ)

2012-03-18 | 題詠:2012

驚いているのか、お前泣きたいか? 傷から蜜がしたたっている


「未来」02月号(2012)

2012-03-05 | 未来

蛇を濡らすひかりのあまやかな記憶の底に凝る、何度も   ※ルビ「蛇」くちなわ

まず兄が暮れて次第に弟がまみれるまでを弔いとして

濃紺の守衛の胸に伏せられて書物は冬に似たものになる

どこまでが往路でしたか咬みたがる牙をゆるめてねむる間際の

添付する遠景(錆びた鉄塔がていねいに自分を折りたたむ)

犬。呼べばすぐにみなぎり薄暗いわたしの土を今日も耕す

木のあばらあらわに見える坂道で犬が口火を切る冬の午後

あどけない雲を古びた雲が呑み雪をみごもるまでを見ている

肉体は脆い岬と告げにくる善良な善良な鳥たち

ふるまいをにぶらせて、雪、三角洲、桔梗を仮想記憶に移す

 

 

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蛇に詫びる

 

 ざらめ糖のような雪がそこここを悪路にかえている。風が強い。

ざっくざっくと前をゆく誰かの靴跡をたどりながら歩く。

 そういえば子どものころ、こうやって父親の長靴をにらみながら

裏山を登ったことがあった。コクワをとりに行ったのだったか。

大きな長靴が笹薮をわけ、木の根方を踏み、小さな花をよけて進む

のを見つめながら歩いた。

 父は無口な男だったが山歩きの時は少し饒舌になる。地面を這う

ように咲く地味な花や、木々の名前、鳥の声の聞きなしについて話

しながら歩いた。それは「教える」というよりは独り言に近いもの

だったが、妙に嬉しかったことを憶えている。

 それに気づいたのは足ばかり見ていたからだ。立ち止まった父が

方角を確かめていた時のこと。黒いゴム長の土踏まずのあたりに、

薄暗い色の、紐?…と思ったとたん、それは思いがけない角度に歪み、

足首に絡みついた。青大将だった。

 蛇は見慣れているとはいえ、いきなり現れれば足がすくむ。「ふ、

踏んでる」どうにか声をあげると「ああ、」と、まるでめずらしい

花でも見つけたように父は言った。それからゆっくり足を上げ、蛇

がほどけてしまうまで待ちながら、「これは大変失礼しました」と、

ひどくまじめな声で詫びたのだった。

 当時の父の年齢をとうに越えた今、改めてあの奇妙なふるまいの

根にあるもののことを、謎解きのように思い返している。

 

                  エッセイ「その日その日」


006:時代(村上きわみ)

2012-02-24 | 題詠:2012

母の母の母をかなしむ鴇鼠の時代絹はつかに瀞むまで


005:点(村上きわみ)

2012-02-23 | 題詠:2012

花に似た深い亀裂を抱いている(おわり、はじまり)点炭をつぐ


004:果(村上きわみ)

2012-02-18 | 題詠:2012

果て口に立てかけられた一本の斧がうつくしい 加わろう


003:散(村上きわみ)

2012-02-18 | 題詠:2012

散りましたねえと囁く声がして捲っても捲っても雪月花


002:隣(村上きわみ)

2012-02-18 | 題詠:2012

あかるい釘と暗い釘とが隣り合うこの塀はたいへん真摯です


001:今(村上きわみ)

2012-02-18 | 題詠:2012

今様の歌にうぇいうぇい遊ばれて真夜中の舌ったらうれしそう


参加します(村上きわみ)

2012-02-18 | 参加表明・完走報告

完走できるかどうか不安ですが、参加させてください。

 


「未来」01月号(2012)

2012-02-13 | 未来

あさなさなかきくどかれてしどけなくゆるむ霜柱の弱虫め

秋の水は暗いねと言う(ころされるゆめをみた日のおまえやさしい)

サドルから男言葉を投げあって十代はつくづく火の種族

寝転んでうみうしの絵をながめいる外つ国の子よ、畳は甘い

「始末」ということばに軽く濡れながら球根のおしりをなでている

厚物の菊をいびつに調える叔父の流儀のさびしさは佳い

だるそうな雲に酔う この週末はいきものだけをかわいがろうね

紅葉にだまされたくて吊り橋を渡る何度もわたくしを脱ぐ

ほんとうはずっとふざけていたいだけ風がこすっている秋の弦

つながりをほどかれたまま枝先に残んの花を滲ませている