連載小説「Q」4
一人っ子だったので親も大目に見てくれた。
ようやく卒業して、駄目元でS社の入社試験を受けた。
S社の子会社で定年を迎えそうな光一の父親が勧めたからだ。
父親にコネがあったわけではない。
父親は、まさかと言うこともあると泥酔のついでに、光一に言った。
光一はそれをまともに受けて、受験した。
入社のペーパーテストは下の方から数えた方が早かったが、常務の一人が彼を強く押した。
近頃では珍しい無垢な目をしている。
常務は大リーグで投打の二刀流で活躍した大谷翔平のファンだった。
面接に現れた光一は、上下に十センチほど縮めた大谷翔平にそっくりだった。
大谷翔平も野球一筋の無垢な目をしていた。
大谷光一もバスケット一筋の無垢な目をしていた。
光一の父親は手放しで喜んだ。
「息子がS社に入社しましてねえと、聞かれもしないのにまわりに言って廻った。
常務の気まぐれで入社した彼はいきなり壁にぶつかった。
一台も愛慕が売れなかったからだ。
同期入社の秀才達は次々に愛慕を売りまくった。彼らは言った。
「時代が売ってくれるのだよ」と。