創作日記&作品集

作品集は左のブックマークから入って下さい。日記には小説、俳句、映画、舞台、読書、など…。そして、枕草子。

ムッシュ 6

2008-03-24 21:32:51 | 創作日記
一人は寂しいけれど自由だよ。雪が降った。今年はよく降る。3回目。私はいつものファミレスにいる。今日もムッシュがいない。雪だから客も少ない。車はのろのろ運転だ。車のライトで浮かび上がる雪の白さは美しい。とっくに冷めてしまったコーヒーを前にして、深いため息をついた。ムッシュがいないレストランは、私の中で急に色あせていった。ウェイトレスが何回目かの水を注いだ。
「ありがとう。ここにいたロボット、近頃見かけないけれど」
「ああ、いなくなったみたいですね」
「どこへ行ったの?」
「知りません、何なら店長を呼びますが」
私は少し考えた。
「すみません、お願いします」
私は何を考えているのだろう。
ほどなくやってきた彼に見覚えがあった。お子様ランチの時の彼だった。あの時は若く見えたが、30を少し超えていると思う。彼も私を覚えていた。
「あの時の」
彼は私の前に腰掛けた。
「ロボ・ボーイのことで?」
「ええ」
「彼は試作品だったんです。問題がありました。その一つは子供です。怖がる子供といたずらする子供。それと…」
彼は言いよどんだ。
「私の主観なんですけれど」
彼が話し始めた。とても不思議な話だった。

ムッシュ 5

2008-03-24 09:19:30 | 創作日記
お誘いがあった。Aさんの送別会。こいつとは2ヶ月程組んだけれど、迷惑だった。期限が迫っているのに、定時にさっさと帰ってしまう。突然休みを取る。何とか断る理由を考えたが、それも面倒になった。いつも断っていれば、はじき出される。送別会は最悪だった。まず会場にカラオケがあった。音痴の私には歌えない。歌うもんか。みんな上手いよ本当に。
「村瀬さん1曲」。来た。とんでもないというふうに手を振る。でもしつこい。だが、嵐はいつか過ぎる。お銚子もんが歌い始める。一次会が終わると、社員さんのUさんにそっと言う。「ごめん、今日は帰る」。彼は自分が選ばれたのが嬉しい。「そう、また」。そっと、集団から離れる。「村瀬さん帰ったの」。質問に彼は答えてくれる。「用事があるんだって」
私は美人だ。だが、好かれる美人ではない。とことん嫌われる美人だ。多分ブスでもこんな美人になりたくないだろう。一人は寂しいけれど自由だよ。