白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

9月の情報会員向け解説

2017年09月24日 23時56分30秒 | 日本棋院情報会員のススメ
皆様こんばんは。
本日は毎月恒例、日本棋院情報会員のPRを行います。
今月は他の記事との兼ね合いで、かなり遅くなってしまいました。
また、今回から違うやり方を考えると言っていましたが、結局はいつも通りに紹介しています。
なお、過去の記事はこちらです→第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回 第9回 第10回 第11回 第12回 第13回 第14回 第15回 第16回
棋譜再生ソフトの使い方は第4回で詳しく解説しています。

今月は
第8回おかげ杯決勝 李沂修七段村川大介八段
ナショナルチーム強化対局 DeepZenGo芝野虎丸三段
の2局をご紹介しました。
今回はDeepZenGo-芝野戦の解説の一部をご覧頂きましょう。
情報会員向けの解説らしく、幽玄の間でのネット対局を題材にしました。



1図(テーマ図)
棋譜再生ソフト「Kiin Editor」のキャプチャー画面です。
黒△とカケた場面から・・・。





2図(実戦進行)
このように進行しました。
プロの碁にはありがちな進行ですが、一手一手の意味や必然性を正しく理解できている方は少ないでしょう。
幅広い棋力の方にご覧頂きたいので、こういった定石の周辺はしっかりと解説しています。





3図(参考図1)
まずはテーマ図のところで示した参考図をご紹介しましょう。
大斜ガケに対しての対応は・・・。

「白1が真っ先に思い浮かぶ手です。
黒2から戦いになれば、周囲に石数の多い白が有利です。」


しかし、実戦は白1と打ちませんでした。
何故でしょうか?





4図(参考図)
理由その1です。

「白1には、黒2、4と変化する予定でしょう。
三々の要点を白5と押さえたいのですが、シチョウ不利なので黒6、8と出切られて困ります。」


白5が成立しないことを示しています。
となると、白5では他の手を選ばなければいけませんが・・・。





5図(参考図)
理由その2です。

「そこで、黒4には白5などと守ることになります。
黒6までと治まれば、白△の価値を下げることができました。
黒も△の石が弱いので、これはこれで良い勝負ですが、最近は黒を好む棋士が多いようです。」


白1とツケると、このような変化が想定されるということです。
白はこの図を面白くないとみたのでしょう。

アマの皆さんは必ずしもプロの打つ手を真似する必要はありません。
しかし、定石や定型の意味を知っておけば、プロの碁を理解しやすくなるでしょう。





6図(実戦)
さて、それでは実戦進行を追って行きましょう。

白1「黒の注文を避けてコスミツケました。
あまり筋は良くありませんが、古くからある手です。
AとBを見合いにして、どちらかに進出しようという意味です。」※白Aは2の所、Bは3の所です
黒2「黒はこちらに押さえるのが自然です。」
白3「そこで、ハネて下辺に向かいます。」
黒4「ここからはお互い逃せない手が続きます。」
白5「白は下辺進出を目指していますが・・・。」
黒6「無理に止めようとしてはいけません。
2目の頭を伸びておきます。」


黒6のところで参考図が入るので、次に示します。
なお、黒2での変化も参考図で示していますが、ここでは省略します。





7図(参考図)
前図黒6での変化です。

「黒1などと打つと、外勢が崩壊していけません。」

アマの皆さんの対局では定石のうろ覚えで無理手を打ったり、その無理が通ってしまうようなことが少なくありません。
定石を沢山知っていることよりも、1つ1つをしっかりと身に付けることの方が大切です。





8図(実戦)
実戦に戻ります。

「ここは間違えやすいところですが、逃せない手順です。」

この定石で一番間違えやすいところです。
この手を怠る方が多いですが、打たないとまずいことになります。
それを次の参考図で示しています。





9図(参考図)
「白1とすぐに飛び出したくなりますが、黒2の当てから4、6の二段バネが好手です。
白Aと謝るのでは、大きな利かされになりますし・・・。」


白1には黒2以下があり、白が不利になります。
ちなみに、定石の有利不利は打つ人の力量や得意分野によって違うので、プロによる評価は基本的には参考程度に止めておくべきです。
しかし、このように一方的にダメージを負わされてしまうような形は、誰が打っても不利になってしまいますね。

なお、本図の後黒6の石を取りに行くと、白はもっと酷いことになります。
それも参考図で示していますが、ここでは省略します。





10図(実戦)
実戦に戻ります。

黒1「ここも伸びる一手なので・・・。」
白2「それから飛び出しました。
ここまで定石です。
白は隅を確保しながら下辺に進出、黒は勢力を作りました。」
黒3「そして、黒は勢力を生かすために早速打ち込んで行きました。」


黒1で押さえるような手も無理になります。
それを参考図で示していますが、ここでは省略します。
黒3にも参考図が付いているので、最後にそちらをご紹介しましょう。





11図(参考図)
「この場合、黒1、3のような手は良くありません。
両側の白を固め、ただ逃げるだけになってしまいます。
これでは右下黒の勢力も働きません。」


このような調子で、一手一手の意味や全体的な流れを分かり易く解説し、どなたにもプロの対局を楽しんで頂けるように心がけています。
また、ご意見・ご感想などを頂ければ参考にさせて頂きます。

なお、来月は第65期王座戦本戦 芝野虎丸三段対余正麒七段
第36期女流本因坊戦準決勝 謝依旻女流棋聖木部夏生二段
の2局を解説します。
ところで、私はなるべく色々な棋士の対局をご紹介しようと思っているのですが・・・。
うっかりして芝野竜星が2か月連続になってしまいました。
内容自体はどちらの対局も見所たっぷりなので、そこはご安心ください(笑)。

ご興味をお持ちになった方は、ぜひ日本棋院情報会員にご入会ください!

石の方向

2017年09月23日 21時25分29秒 | 仕事・指導碁・講座
皆様こんばんは。
数日前、スマホが水没しました。
スマホを取り落とすことは日常茶飯事ですが、とうとう落ちてはいけない所に落ちてしまいました・・・。
元々買い替え予定だったとは言え、データが取り出せなくなるのは痛いですね。
とりあえず新しい機種を購入したので、本日からは普通に連絡が取れます。
最近私にメールなどを送って返事がなかったという方は、お手数ですが再送して頂けると助かります。

さて、本日は石の方向についてのお話です。



1図(テーマ図)
9子局、白△と押した場面です。
次に白Aと2目の頭をハネられるのが怖いので、黒は受けているのが本手です。
しかし、大丈夫と読んだようで手抜きをしました。

さて、それでは次に黒はどこに向かうべきでしょうか?
黒BとCの2択で考えてみてください。





2図(失敗)
実戦は黒1でしたが、これは不正解です。
白2と割られ、左右の黒△が弱い石になってしまいました。
この後は白Aから大きく攻められ、右下隅が白地になるなど、黒は様々な不利益を被ることになりました。





3図(正解)
白△の勢力があり、そこに近付いている黒△は弱い石です。
そこで、両者を握手させる黒1が正解になります。
この手によって黒石全体が強くなり、同時に右下一帯が大きな勢力圏になりました。

さらに、黒1は白全体の出口を塞ぐ攻めの手にもなっているのです。
将来黒Aの切断や、黒B、白A、黒Cと全体を閉じ込める攻めにもつながります。
一石二鳥にも三鳥にもなる好手なのです。


このような2択問題では正解しやすいのですが、実戦ではあらぬ方向に打ってしまう方が多いのです。
石の強弱を第一に考えていれば、むしろ方向を間違える方が難しいぐらいなのですが・・・。

置き碁ではこのような石の方向を問われる場面が毎回現れますし、正解・失敗の差もはっきりしています。
対局を振り返って反省する際は、こういうところを意識すると良いでしょう。

名人戦第3局&農心杯第4戦

2017年09月22日 19時27分37秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
農心杯第4局は、許家元七段残念でした。
競った勝負に見えたのですが・・・。
日本チームとしては苦しい展開になりましたが、先は長いので今後に期待しましょう。

さて、本日は名人戦第3局の2日目が行われました。
注目の封じ手は・・・。



1図(封じ手)
はい、またしても外れました。
候補手の1つではありましたが、私には打てない手です。
相当な読みが入っていないと潰れてしまいます。





2図(実戦)
この戦いの結果、白は隅で大きく生きる事に成功しました。
一方で黒の厚みも強大なので、形勢は互角に見えます。
名人と六冠の対局だけあって、見事なものですね。





3図(実戦)
上辺の戦いでは、白は上辺で大きく生き、黒は中央に大きな模様を築きました。
この段階でもまだ形勢は互角に見えます。

最後は中央を上手くまとめた井山挑戦者が勝ち、シリーズ成績を2勝1敗としました。
敗れた高尾名人も調子は良さそうなので、シリーズの行く末はまだまだ分かりません。
今年も第7局まで見られたら嬉しいですね。

名人戦第3局・封じ手予想

2017年09月21日 23時05分50秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日、名人戦第3局1日目の対局が行われました。



1図(実戦)
井山挑戦者の黒番です。
序盤早々、白△までの振り替わりとなりました。
白×を取った黒の厚みが強力なので、私には少し黒有利に見えます。
しかし、高尾名人には凄い狙いがありました。





2図(実戦)
黒1の当てに対して、白Aとつながずに白2の切り!
とんでもない大きさのコウを仕掛けて行きました。

初コウにコウ立て無しという有名な格言があります。
黒Aと取られると白がコウ立てを探さなければいけませんが、序盤ではそんな大きなコウ立てはどこにも無いとしたものです。
ところが、本局に限ってはそれがあったのですね。
碁は何が起こるか分かりません。





3図(封じ手予想)
封じ手予想は、コウを解消する白△の抜きにします。
これしか考えられないようで、必ずしもそうではありません。
凄い戦いです・・・。

明日は開始直後の数手が流れを決めることになるでしょう。
穏やかに分かれるかもしれませんし、命懸けの戦いに発展する可能性もあります。
楽しみに待ちたいと思います。

なお、明日は農心杯第4戦に日本の許家元七段が登場します。
そちらも楽しみですね。
大暴れを期待しましょう!

農心杯第2戦

2017年09月20日 21時32分15秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日は農心杯第2戦が行われました。
日本の先鋒余正麒七段が申旻埈六段(韓国)と対局しました。



1図(実戦)
申六段の黒番です。
5手目に三々入り・・・。
もはやおじさんにはついて行けません。





2図(実戦)
そして白も三々に入り返して、わざわざ穴ぼこを空ける白5の飛び・・・。
人間には気が付き難い打ち方ですが、これもAlphaGoの影響です。





3図(実戦)
黒△まで、お互いに×の石を取り合うことになりました。
この分かれ自体は、厚みが外側に向いた黒が有利に見えます。
ただ、白は先手が取れることを重視しています。





4図(実戦)
白△まで、×の石をシチョウで取りました。
こちらで良い姿を得ているので、全局的には互角ということでしょう。
そもそも、右上隅に三々に入らなくてもこの形は作れるのですが・・・。
白は右上の応酬を得と見ているということでしょうか。
私には理解できない世界です。

この対局は残念ながら申六段の中押し勝ちでした。
日本チームの初勝利は第4戦以降にお預けとなっています。

明日、明後日は農心杯もありますが、名人戦第3局も行われます。
そろそろプレッシャーが大きくなり始める頃だと思いますが、どんな対局を見せてくれるでしょうか?
とりあえず、私としては今度こそ封じ手予想を当てたいですね(笑)。