白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

身軽に打つ

2016年04月30日 21時52分28秒 | 仕事・指導碁・講座
皆様こんばんは。
前回は石の軽さ、重さについてお話ししました。
今回は構想の軽さ・重さについてお話しします。

ところで、アマの皆さんは置碁というものにどういったイメージを持っていますか?
「白が無理やり仕掛けないと勝負にならない」と思っていらっしゃる方がかなり多いと思います。
実際に皆さん同士の置碁を拝見しますと、そのような打ち方をされる方が非常に多いですね。
その結果うわ手は「置碁は手が荒れる」「こんなに石を置かれてはやる気がしない」
した手は「馬鹿にして無茶苦茶やってくる」「いつも石を取られる」
などといったイメージが出来、結果うわ手もした手も置碁を避けるようになったりします。
囲碁は誰とでも打てるのが魅力なのに、なんと勿体無いことでしょうか。

それでは無理のない置碁を打つためにはどうすれば良いのでしょうか?
最も重要な事は「身軽な構想で打つ」事です。
状況の有利不利に関わらず相手にぶつかっていくだけでは、必ず無理が生じます。



2子局の白番で、黒△と打たれた所です。
これからどういう展開を目指しますか?




した手の喧嘩は喜んで買う、の白1です。
しかし左下は黒の石数が多く、さらに左上に黒の勢力が待っています。
結局逃げている間に黒10までと中央に大きな黒壁が出現、白は将来性のない左辺に追いやられてしまいました。
黒12の打ち込みにも回られ、右下の白地も小さくなってしまいそうです。




だからといって白1とあっさり見捨ててしまうのは、黒2で白1子が何の役にも立たず飲み込まれてしまいます。
将来黒△のラインがつながってくると、かなり大きな黒地になりそうです。




ということで「身軽に」白1とツケてみました。
白△は助ける事も捨てる事もできる「軽い」石です。
助ける事、あるいは捨てる事だけを考えるのでは構想が「重い」のです。
この時点でがっちり方針を固定する必要はありません。
相手の手を見てから決めることにしましょう。




黒1~5と右側に出てくれば、白6とゲタに取って眼ができるので動いてみましょう。
白12となると、これは白の方が威張っていますね。




黒1には白2と切ります。
一見強引に見えるかもしれませんが、決して無理やり黒を取りに行っているわけではありません。
やはり黒の出方に応じて身軽に動こうとしています。




白1子を取りに来れば、喜んで捨てます。
黒地の増加は10目程度で、その間に白模様が随分大きくなりました。
もし黒が入ってきたら、そこは遠慮なく攻めかかって良いのです。
した手が無理をしているのですから、うわ手の力量を見せつけてやりましょう。




実戦は黒1と中央を重視しましたが、それなら白1子を助けておきます。
最初に1間飛びで逃げ出す図と比べてみてください。
この図では全く無理なく助けることができました。


置碁で白を持っていると、必然的に正面から戦いづらい状況が生じます。
そういった状況でいかに身軽に立ち回るかがうわ手の腕の見せ所です。
互先とは全く違う展開が楽しめますから、ぜひそういう打ち方に挑戦して頂きたいと思います。
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軽さと重さ

2016年04月29日 23時59分59秒 | 仕事・指導碁・講座
皆様こんばんは。
当ブログを大橋拓文六段が紹介してくれたようですね。
大橋君は独特の(異次元?)碁を打つ印象があります。
最近ブログで対局の解説を続けているようなので、そちらもぜひご覧ください。

さて、本日は五反田での指導碁での一場面を取り上げます。
テーマは「石の重さと軽さ」です。
よくプロは石が軽いとか重いと言いますが、これはアマの最も苦手とする概念だと思います。
一言で言えば沢山道がある中から好きな道を選べるのが軽い石です。
逆に限られた道しかなく、気に入らなくてもそこを通るしかない・・・それが重い石です。
碁は自由に打てるゲームですから、それが出来ないのは大変不利な事です。

ではどうすれば自分の石を軽く、相手の石を重く出来るのか?
それはなかなか難問です。
まずは軽さと重さの概念を理解する所から始めましょう。
今回のテーマはその点では単純です。
石を助ける道と捨てる道があり、両方選べたら軽い石、助ける道しか選べなかったら重い石です。
実際に見ていきましょう。



2子局です。
白△とコウを取りました。
黒は傷が多いので守る必要がありますが、どうしますか?




実戦は黒1と守りました。
白2~6と進んでみると、白A~記号順にEまでの切断が気になります。




そこで黒1と当てながら切断を防ぎましたが、白△は「軽い」石なので無視して白2と押しました。




黒1と2子を取れば白2と打って外回りに石をつなげておきます。
なぜ取られた2子は「軽」かったのか?
それは黒Aの存在です。
必要のない所に石があるというのは、結果的にパスしたのと同じです。
相手に1回パスさせたと思えば、地に換算して数目の石ぐらい捨てても良いと思いませんか?




実戦は黒も2子を取らず、隅を守りましたが白4となって大きな白勢力が出現してしまいました。
左辺一帯の黒地は20目ぐらいありますが、黒石の数で割ると・・・かなり効率が悪いですね。



これまでの失敗は白に2子つなぐ手を省略されて、一手稼がれたのが原因です。
ということで正解は黒1の当てです。
まだ黒Aと守ってもらっていないので、今なら2子助けておきたくなるでしょう。
この瞬間、白2子は「重い」石になっているのです。



白が2子助けたのに合わせて自分も守る、これが石の軽さと重さを考えたリズムです。
白4なら黒5とノビて黒は良い形で中央に出られます。
対して白は団子石でダメも詰まっているので黒Aと切られると苦しい形です。
これだけ大きい石を捨てる選択肢はありませんから、「重い」石です。
それを守れば黒Bなどのハサミに回って主導権を握れるでしょう。




白4と当ててきたら、慌ててつないではいけません。
この黒1は取られても困ることがありませんから、「軽い」石です。
黒5、7と封鎖を避けて進出します。
実戦と違って白石を真っ二つに裂いている感じがしませんか?


石の軽さ重さの概念は言葉にするのが非常に難しいです。
どうしたらご理解頂けるか、日々苦心しているところです。
今回の記事がご理解の助けになれば幸いです。
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両セキ崩れ?

2016年04月28日 21時14分05秒 | 対局
皆様こんばんは。
本日は林海峰名誉天元との対局でした。
対局の模様は幽玄の間で中継されました。



私の白番です。
右上隅の味が悪そうです。
どこから手を付けますか?




予備知識です。
中央白1が気になる方も多いでしょうが、下辺と振り替わりになっては白損です。
しかしこの手があるので黒Aからの切断は心配いりません。




それでは本題に入ります。
まずは白1と押さえるのが急所です。
コスまれると生きてしまいますから、黒は取りに行くなら黒2しかありません。
さて、この後白はどうしますか?
ヒントはダメヅマリです。




白1から黒8まで、一本道です。
おや、黒のダメが詰まってきましたね?
白としてはここが重要な分岐点です。




白1のハネを考えられた方が多いと思います。
私も当初はその予定でした。
浮かんだ図の一例が黒12までのコウです。
まだ調べていないので双方最善の図はわかりませんが、少なくとも黒を無条件で取れるような事はないでしょう。




実戦では、白1とつなぐ手に気が付きました。
プロには盲点になる手ですが、実はこれで黒困っています。




黒1とダメを詰めると、Aのコウを狙って白4が先手になります。
そして白6と生きると、上辺の黒も生きなければなりません。
結果隅を先手で生きて白10に回っては大戦果です。




実戦は黒1でしたが、白2と下がられて困りました。
白を取れそうで取れない形になっています。




6子のダメを詰めていっても、セキの形になります。
お互いにセキの外側が生きておらず、両セキ崩れといった感じの形になっています。
しかし黒の方がダメの数が少なく、下方の黒は取られとなります。




隅の方に向かっても、やはり遠回りを強いられます。
最後は押す手なしとなり、白1手勝ちです。


今まで沢山碁を打ってきましたが、こんな形を見るのは初めてです。
発見できて幸運でした。
ここで勝勢になったものの、震えるあまりの1手パス等杜撰な着手が続きました。
最後は半目勝ちのようでしたが、負ける手順もあったかもしれません。
こういう碁を落とした事は過去に何度もあり、今回そうならなかったのもまた幸運でした。
反省、反省・・・。

最後に、私の対局をご覧になった方へちょっとした問題を出しておきます。
最終、黒が手を抜いてしまって終わりましたが、手を入れていたらどうなるでしょうか。
試しに最後まで想定図を作ってみたら黒半目勝ちになり、不思議に思われた方もいらっしゃるかもしれません。
実は意外な所に白から先手1目の手があって半目勝ちになります。
なお地味すぎる問題なので、回答はありません(笑)
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本日の指導碁

2016年04月27日 23時59分59秒 | 仕事・指導碁・講座
皆様こんばんは。
本日は指導碁を題材にします。
最近は膨大な図を扱うことが多いですが、今回はシンプルに行ってみましょう。



6子局の黒番です。
左辺の白が弱そうですが、どう攻めますか?




実戦は黒1とハネていきました。
黒7までと中を打って白8、黒9となって一段落。
白は先手で生きたので他の大場に回りました。
おや?黒の攻めの効果が見当たりませんね・・・




黒1が攻めの第一歩でした。
二眼できた時点で攻めが終わってしまうので、それを防ぐ意味合いです。
地味ながら地として見ても大きいです。
白は2と逃げるぐらいですから、黒3とでも打ってみましょうか。
左右の白をばっさり両断した感じがしませんか?




白1と左を逃げれば黒2と右側を封鎖、白が生きている間に包囲網が出来ていきます。
そして8、10などとモタレ攻め。好調です。
中に石が増えてくれば黒Aなどもより効果的になるでしょう。




白1と右を逃げれば、左を封鎖してしまいます。
黒10となっては白ピンチです。


序盤で2線に石が行くのは良くないとされますが、例外もあります。
石の根拠に関わる所は序盤でも非常に急がれます。



多くの皆さんが最初に教わる基本定石です。
白1は2線ですが、根拠を広げる目的で打たれます。




また、こういう場面でのAの地点は大変な要点になります。
打ったほうは生き、打たれた方は生きていない状況になります。


石の強弱は眼があるか無いかが基本です。
しっかりと意識していきましょう。
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5年前の真実

2016年04月26日 23時59分59秒 | 対局
皆様こんばんは。
本日は私の対局を題材にします。



私の白番です。
黒は盤面で少ししか勝てず、コミがかりでの白勝ちがはっきりしている状況です。
黒1にAと取っていれば味が良かったですし、黒3にはBと打っていれば大丈夫でした。
秒読みに入っていたこともあるでしょうが、勝利目前で気が緩んでいたのでしょう。




黒1と打たれて飛び上がりました。
白2と打つのは黒3があります。
一見白4で大丈夫のようですが・・・。





黒1でAとBの切りを両睨みにする手があります。
ここで白2で両方の切りを凌げそうですが、黒にはうまい手があります。





またもや出ました、3本下がりです!
以前から当ブログをご覧の皆様は閃かれたでしょうか。
AとBが見合いになり、白潰れです。




やむなく白1と被害を最小限に抑えようとしましたが、話はまだ終わりません。
黒4の切りが入ったことで新たな問題が生じました。





今度は黒1のハネがうまい手です。
Aの切りがあるので白2と打つしかありませんが・・・。




シボリが決まり、コウに持ち込まれてしまいました。
普通ならこれで終わりですが、白にコウ材が多いためひょっとしたら逆転には至っていないかもしれません。
この後も色々あって結果は白の半目勝ち、運が良かったと思っていました。
しかし・・・




この対局は5年前に行われました。
今冷静になって眺めてみると、黒1と三々にツケる手がありました。
白2と打つしかありませんが、黒3が先手です。
そして黒5以下の基本死活で黒生きとなります。
白地の中でただで生きてしまってはもちろん大戦果、黒の大差勝ちです。

私が勝利目前で油断したように、黒も私のミスを見て喜び過ぎてしまったのでしょう。
最善の手を探すべき所を、目の前に見えている手に飛びついてしまいました。
碁に勝つには技術だけでなく精神面も重要です。
それを再認識させられるテーマでした。
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