猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

台湾の統一地方選で国民党大勝―日米は対中冷戦に備えるべし

2005-12-04 23:56:59 | 台湾・中国
 3日に行われた、台湾の統一地方選挙では、全国23の県や市の長のうち野党・国民党が14に対して与党・民進党が6に終わるなど、国民党の圧勝に終わった。今回の選挙は2008年の総統選挙の前哨戦と位置づけられており、陳水扁総統の求心力低下や、国民党の政権奪回の可能性が高まったこと、対中宥和政策や経済的一体化推進への圧力が強まるなどの分析がもっぱらである。民進党が中国との経済交流に消極的であるのに対して、国民党が台湾と中国の経済的交流を盛んにする「三通政策」を強く主張しているためである。日本のマスコミでは、例えば共同通信が中国寄りの立場からそのような分析を全面に打ち出しているし、逆に産経新聞は台湾独立支持の立場から「国共合作」という言葉を用いて明確に危機感を表している。
 それでは、今回の選挙の意義はどのように見るべきか。私は、決め付けるのは時期尚早であるというのがその答えではないかと考えている。いくら国民党が大勝したといっても所詮は地方選挙であって台湾の地位を問うものではないと言える一方で、民進党が台湾の独立を争点に掲げて戦ったものの結果として敗北したのも事実ではある。李登輝・前総統の無血革命のおかげで、台湾人が自由をあまりにも急速かつ最大限に謳歌できるようになったために、自由と民主主義の価値の重要性と独裁への恐怖を忘れつつあるという懸念もないでもない。しかし、今回の選挙結果は、クリーンで売ってきた民進党に汚職が続発したという要因が大きい。要するに、今回の選挙だけから結論めいたことを言うのは無理があるのだと思う。但し、台湾独立派が必ずしも磐石ではないこと潜在的可能性として否定できないということは読み取ることができる。
 そこで、想定しうる台湾の今後と日米が採るべき策を、考えておくことが意味のあることであろう。
 まず、このまま国民党が政権を奪回し、中国寄りの政策をとり台湾が「一国二制度」のもと中国に吸収される場合。これは、普通に考えれば、日米にとって最悪のシナリオである。日米は何の介入もできずに台湾という貴重な「不沈空母」を失うことになる。米中対立の最前線は琉球列島になる。これに備えるには在沖縄の米軍は増強しなければならない。沖縄の米軍が撤退してしまえば沖縄は中国の手に落ちる可能性がある。こうならないためには、日本が台湾にとって中国よりも魅力的な市場となり、経済的につなぎとめておくことが考えられる。例えば、沖縄を拠点として台湾との間でより緊密な貿易地域を形成する方向に持っていく。しかし、日本政府にとってはそんな”大それた”冒険は、なかなかできないであろう。ところで、台湾が中国に吸収される場合に、理論的にはもう一つの可能性がある。すなわち、台湾を吸収する結果、自由と民主主義の価値観をも輸入する結果となり、中国内の民主化圧力が高まり統制不能に陥り、共産主義独裁政権が倒れてしまう場合である。そして、民主主義的な政権が誕生するか、四分五裂してしまえば、日米にとっての脅威は格段に低下する。そうであるならば、統一を援助すべきだということになるが、もちろんこれは楽観的にすぎる見方であり、それに基づいて戦略を練ってはいけない。
 次に、政権交代すると否とに関わらず現状維持がなされる場合。当面は、これが一番可能性が高いと思うのだが、果たして永続的にそのような中途半端な状況を続けることができるのか疑問は残る。もっとも、何十年かかるかわからないが、台湾の現状維持と、中国の共産党独裁政権が倒れるか台湾併合をあきらめるかの根比べに勝てれば、結果として台湾は独立することになろう。この場合も、その間台湾が中国に経済的に飲み込まれないように努めることと、日米同盟の強化による軍事力の下支えは必須である。
 最後に、台湾が独立宣言してしまう場合。短期的には、これも米国は好まない事態である。しかも今のとろ台湾人自身の民意もこれを余り望んではいない。従って、可能性としては低いと思うが、もしそのような事態が起こり中国が武力介入してくるようなことがあれば、日米はこれと戦わざるを得ないだろう。米国が黙過するようなことがあれば、一夜にして覇権国家の威信が失墜することは間違いないからである。台湾の独立宣言を中国が容認する場合というのは、現状維持シナリオで先にも触れた通りである。
 安全保障戦略を考える際には、最悪の事態を常に想定するべきである。従って、台湾が中国にうまく取り込まれてしまう場合も視野にいれるほかはない。そのためには、やはり日米同盟の一層の強化に加えて、日米がアジア太平洋地域において経済的にもプレゼンスを増すことである。折りしも、本日付の読売新聞朝刊のコラム『地球を読む』において、アーミテージ氏が「(米国が)アジア全域と関与し、正しい関係を築くならば、中国が世界規模の大国に移行しても大丈夫だろう」と述べていた。それは、腹を括って、中国との冷戦に臨むということに他ならない。


(参考記事1)
[台湾統一地方選 野党・国民党が大勝 14ポスト確保、政権奪回視野に]
 【台北=河崎真澄】二〇〇八年の次期総統選の前哨戦とされた台湾統一地方選挙の投開票が三日行われ、非改選の台北と高雄の両直轄市を除く二十三県市の首長選のうち、十四県市で最大野党の国民党の候補者が当選し、大勝した。選挙前に汚職事件が発覚した与党の民進党は蘇貞昌主席が辞意を表明。国民党の政権奪回が視野に入ってきた。焦点となる対中政策で、陳水扁政権に大幅な路線変更を迫ることになりそうだ。
 同日夜に記者会見した国民党の馬英九主席(台北市長)は、「選挙結果は民進党政権に対する台湾住民の不信任票だ」と述べ、勝利宣言した。
 民進党は、これまで県長(知事)ポストを十六年間維持した台北県、二十四年間守った宜蘭県を含め、五県市の首長ポストを国民党に奪われ、敗北した。
 民進党候補が当選したのは陳総統の出身地の台南県や台南市、高雄県など六県市(高雄市を加えて七)。野党側は国民党のほか、親民党と新党が離島県で得た各一ポストを含めて十六県市(台北市を加えて十七)となった。
 高雄市の地下鉄工事に絡む陳政権の元総統府副秘書長(副官房長官)の汚職事件が、クリーンなイメージで支持者を集めてきた民進党に大打撃を与える結果になった。
 蘇主席は同日夜、「選挙結果は民進党への警告。改革して再出発する」と敗北宣言し、引責辞任することを明らかにした。
 対中関係の改善を訴えて圧勝した国民党は「中台協調で信任を得た」と判断し、民進党の陳政権が慎重に対応している空と海の中台直行便の解禁など、経済界が強く求めている対中政策の変更を強く迫るのは確実だ。中国との「国共合作」も一層強めることになる。
 立法院(国会)でも少数与党の陳政権は二〇〇〇年の発足以来、最大の危機を迎えており、「陳総統はレームダック化した」(国民党幹部)との見方すら出始めた。
     ◇
【用語解説】民進党と国民党
 台湾意識の高揚を背景に2000年の総統選で陳水扁氏が勝利、民進党は半世紀余り一党支配を続けた国民党から政権を奪取した。党綱領に「台湾独立」を掲げるが、立法院(国会)で少数与党のため「新憲法」制定など“台湾化”は遅れ気味。一方、最大野党の国民党は、党綱領に「台湾独立反対」を盛り込み、中国共産党との関係改善をテコに陳政権の包囲網を狭める。馬英九主席の人気もバネにして08年の総統選での政権奪回を狙っている。
(産経新聞) - 12月4日3時6分更新

(参考記事2)
[国民党大勝、政権へ弾み 台湾、統一地方選]
 【台北3日共同】2008年総統選の「前哨戦」とされる台湾の統一地方選の投開票が3日行われ、最大野党、国民党幹部は同日夜、23の県・市長(任期4年)ポストのうち少なくとも6増の14ポストを獲得し、勝利したと述べた。与党、民主進歩党(民進党)は4減の6ポスト程度にとどまったとみられ、昨年12月の立法委員(国会議員)選敗北に続く痛手となった。
 国民党が総統選での政権奪還に向け勢いづくのは確実。5年半の政権の実績に対する有権者の十分な支持を得られなかった陳水扁総統は苦境に追い込まれ、内政や対中政策で戦略の練り直しを迫られることになった。
(共同通信) - 12月4日0時52分更新

(参考記事3)
<台湾統一地方選>最大野党の国民党が大勝
 【台北・庄司哲也】台湾の23地方自治体(台北、高雄の両市を除く)の首長などを選ぶ統一地方選挙が3日、投開票された。最大野党の国民党が現有の8ポストを上回る14県・市を制し、大勝した。一方、陳水扁総統の与党・民進党は、現有の10ポストを下回り、6県・市にとどまった。選挙結果を受け民進党の蘇貞昌主席は辞意を表明した。
 このほか、第2野党の親民党が1、野党・新党が1、無所属が1ポストを獲得した。県・市長選の投票率は66.22%。政党別の総得票率では国民党が50.96%を獲得し、民進党の41.95%を上回った。県・市長選で、国民党が民進党の総得票数を上回ったのは93年以来、12年ぶり。
(毎日新聞) - 12月4日1時2分更新


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9 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
中国の軍拡を座視するな (むじな)
2005-12-10 18:37:26
>台湾が無謀にも拙速に独立宣言して戦争になったら、



いま心配すべきなのは、中国の総合国力とくに軍事力の増強とそれに伴う極東戦略の変化(台湾併合はかつては目的だったが、いまや日米に対抗し日本を封じ込めるための手段になっている)であって、中国がここまで大きくなっている以上、台湾が独立宣言するかどうかではなくて、中国が台湾を武力で無理やり併合してしまう可能性です。



米国の「ひとつの中国」、日米の台湾あいまい政策は破綻して、中国の拡張を座視するだけになっている。



日本と米国は台湾についてはっきりと「中国の一部ではない、中国が台湾に手を出すなら座視しない」ことを宣言すべきでしょう。

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台湾の独立とは (むじな)
2005-12-10 18:34:14
>私も全く同じで、台湾からの一方的な独立宣言は支持できません



台湾でいう「独立」というのは、独立宣言を行うような性質の独立ではないんですが、もともと。

たとえば、マルタ騎士団国が独立しているとか、倭寇のある集団が独立しているとかいう意味での「独立」なのです。一部の制憲建国派を除いては、国民国家を建設する性質の独立を考えているのではありません。



あと、たかだか地方選挙でそこまでの妄想を展開しても意味がありません。

台湾の地方自治体における県は日本の県よりも格下だし、自治権なんてほとんどないんですから。

制度を理解しないであれこれいっても無意味です。
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tsubamerailstar様へ (猫研究員。(高峰康修))
2005-12-06 22:21:09
そういうことでしょうね。

台湾が無謀にも拙速に独立宣言して戦争になったら、それは日本にとっては周辺有事(事態によっては日本有事)に他ならないですから。当然、日米両軍が近海に派遣されて先島諸島に累が及ばないようにするはずです。

その日米安保第六条ですが、解釈をあらためるべきですね。現行は「極東条項」と呼ばれる、米軍の行動に不当な制限を加えようとするものですが、これを「米軍は極東有事においては必ず日本を守る」という担保条項にするわけです。文言はそのままでも構いません。
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96年の海峡危機がサンプルでしょうね (tsubamerailstar)
2005-12-06 22:05:54
どういう状況にせよ仮に第七艦隊が出張ったとしても金門と馬祖は防衛対象外なんですよね。従って、台湾側からの一方的な独立戦争宣言では島民への死刑宣告ですし、逆にそういう場合でも日本の領海への防衛ということで出張ることにはなるでしょう。

何せ与那国西域では台湾の携帯電話の電波が届く距離ですからね。

96年に横須賀からインディペンスが出向いた際は「日米安保第六条に基づくものではない」という日本への「配慮」を示しましたが、次回はそれが不要というだけの話だと思います。

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さいごうさまへ (猫研究員。(高峰康修))
2005-12-06 00:09:02
いえいえ、申し訳ないだなんてとんでもない。考えていることは同じだと思いますよ。

日本の立ち位置は、台湾問題がどうなろうが日米同盟の発展強化以外の選択肢は現実的でないですよね。
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コメントありがとうございました (さいごう)
2005-12-05 23:19:32
 わざわざコメントをいただきありがとうございました。

 私も最悪のことを考えて記事を書いたつもりですが、最近一つの記事の密度が薄くなってしまい申し訳ありません。



 台湾に関しては昔から悲観的なシナリオは想定されているはずです。しかし、その可能性は今までになく高まっています。これが一時的なものかは分かりませんが、台湾と大陸の関係は経済を中心により密接になっていくでしょう。



 そのときに日本の立ち位置をもっとしっかりさせていく必要はあるのではないかと思います。
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コメントありがとうございます (猫研究員。(高峰康修))
2005-12-05 15:50:01
>相対的価値blog様

沖縄と台湾の間での草の根レベルの経済交流は、予想以上に進んではいるようですね。三通政策に比べると影響力ははるかに小さいだろうし、なかなか難しいところです。その実態は、相対的価値blog様の方が詳しいかもしれません。

日本のとるべき態度として「脳天気もいたずらな悲観論も戒めるべし」というのが一番言いたかったことです。どうせ、日米vs中国の主導権争いは避けられないことです。



>tsubamerailstar様

私も全く同じで、台湾からの一方的な独立宣言は支持できません。李登輝・前総統が訪米中に「今更独立宣言する必要なし」と明言していたのは「さすがだ」と思いました。

台湾が独立宣言をした場合の米国の対応は、そのときの状況に依存すると考えられます。「中共の圧迫に耐えかねて」というのであれば、これは、やむなく介入します。平穏無事に推移しているにもかかわらず、跳ね返り分子が功名心などから独立宣言を強行した場合は、ほぼ間違いなく見捨てますね。しかし、台湾の地位の如何に関わらず、日米vs中国の「冷戦」は不可避と考えるのが一番理にかなっています。グアムへの戦略爆撃機と原潜の集中配備というのは、台湾が台湾人の意思に大きく依存し、なおかつ「一つの中国」を建て前とせねばならないという制約下にある不安定な”同盟国”である以上、それを当てにし過ぎない戦略として、当然そうなることと思います。
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ポスト台湾海峡を見据えるべき (tsubamerailstar)
2005-12-05 13:35:22
意外に思われるかもしれませんが、私の現在のスタンスは米国のそれと全く同じです。心情的なものは別として、台湾の一方的な独立宣言は支持できません。

その可能性は低いですが、仮に台北が国家ぐるみの自爆テロ(言葉は悪いですが、現実そういうことを意味します)を強攻する場合でも、日米はそれに付き合う義理はありません。04年にパウエル&アーミテージの両氏がかなり釘をさしていますし、実際「台湾関係法」は台湾防衛を請け負っているわけではありません。

私自身は、どちらかと言うと台湾は中国に転ぶ可能性が高いと見ていますし、私がペンタゴンの高官であれば、それを想定して動いていなければアホだと思います。

扇の弧の中心に位置する沖縄とグアムが二段構えの構図を形作り、最悪防衛ラインが台湾海峡の中間線からバシー海峡に南下した場合でもそこから米国のプールへの進入を絶対阻止する狙いがグアムへの戦略爆撃機と原潜の集中配備から読めるように思いますね。

それと横須賀・・・・08年はG.ワシントンとキティホークの二隻が重なる時期があるのでしょうか。何か時期的に意味深ですが。

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Unknown (相対的価値Blog(日本人的視点))
2005-12-05 10:44:07
沖縄こそが安全保障上、相当重要な位置づけであるというのは、管理人様が常日頃仰っておられる立場と思いますが、いよいよそうしたことが現実味を帯びてきたなと、改めて思いました。

現在、沖縄と台湾は非常に友好関係が構築されており、自由貿易地域なども那覇の港に開設したりして、それなりの交易を軸に政治意見交換なども行っています。

そうした小さな取組が、もっと着目されていくのは結構なことだと思いますが、逆に政治の表舞台にいきなり駆り出されてしまうということになると、そのお互いの地場の気持ちが、またしたてもないがしろにされるという危惧も無いわけではありません。

しかし、台湾の統一地方選がかかる結果となったことは、わが国が対岸の火事と考えていてはならないと、肝に銘じておかなければならない問題ですよね。

情報ありがとうございました。
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