猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

中国、南太平洋への影響力強化指向―島嶼国への札束外交・豪州とのウラン鉱山開発

2006-04-11 00:28:37 | 台湾・中国
 オセアニア地域は、先日も日米豪の間で戦略対話が行われるなど、豪州を中心に、米国のアジア太平洋地域の同盟の重要な軸となりつつある。これは、いうまでもなく、この地域がいわゆる不安定の弧の南東端に位置するという地政学的な理由によるものである。東南アジア地域をにらみ、シーレーンの安全を確保したい日米と、インドネシアなどの東南アジアの不安定が「周辺事態」になってしまう豪州の戦略的利益が一致する。国際テロの撲滅は、各アクターに共通する重要課題である。また、中国が東南アジア方面への進出圧力を強めることは、共通の脅威である。
 中国は、かかる「中国包囲網」の形成を食い止めるべく、南太平洋地域への影響力増大に着手し始めた。中国の温家宝首相は、4月の上旬にオセアニア各国を歴訪したのだが、5日にはフィジーで「中国・太平洋島しょ国経済開発協力フォーラム」開幕式に出席し、経済援助をてこに、キリバス・ナウル・ツバルソロモン諸島などの台湾と外交関係を持つ国が多い南太平洋の島嶼国の取り込み戦略を加速させる方向性を打ち出した。言ってみれば「札束外交」に他ならない。この試みが実際に中国にもたらす利益はそれほど大きいものとも思えないが、これに対抗して、例えば我が国がこれらの国に中国を上回る援助をすることにより、この地域における民主主義陣営に属する台湾の側面支援をするべきであろう。つまり「我が国は、貴国の主権に干渉するようなことは一切ありえない(暗に中国に屈するなというメッセージを発するわけだが…)」と明言して援助することにより、南太平洋の島嶼国の国家としてのプライドを立てて、中国の傲慢な姿勢と明確なコントラストを作るべきである。
 ところで、南太平洋の島嶼国は、オーストラリアの強い影響下にある地域である。オーストラリアにとってみれば、自らの影響圏に中国が触手を伸ばしてきたということで、中国への警戒感を強める理由が一つ増えたことになる。それを考えれば、中国はむしろ「藪をつついて蛇を出した」感もなきにしもあらずである。一方で、オーストラリアとの間では、中国の温家宝首相がハワード豪首相が会談して、豪州産ウランを中国へ提供することで合意した。これなどは、一見すると中国とオーストラリアが接近したかのように受け取られるかもしれないが、もちろんそんな単純なことではない。エネルギー資源がのどから手が出るほどほしい中国にウランを供給する合意を結んだということは、生殺与奪の権を握ったとは言わないまでも、オーストラリアが大きな外交カードを手に入れたことには間違いない。しかもご丁寧に、ほぼ同時期にオーストラリアの資源会社2社が台湾の電力会社に豪州産ウランを、米国を経由する形で輸出する契約を結んでいたことが報道された。対中融和ではないというオーストラリアの明確なメッセージが見て取れる。なかなかしたたかな外交である。
 以上のように、中国の影響力増大はオセアニア地域にも密接な関係を持つに至ったことは明白である。それゆえ、我が国は、米国との同盟関係とオーストリアとの友邦としての関係を強化して、アジア太平洋地域に属するところのオセアニア地域の安定にもコミットすることを明確化していく必要性が益々高まっていく。これは、台頭してくる中国の野望を阻止するために(これは必ずしも直ちに軍事的にということではなく意志を挫くという意味でも)不可欠なことである。



(参考記事1)
<豪州>中国とウラン供給で合意
 豪州からの報道によると、中国の温家宝首相とハワード豪首相は3日、キャンベラで会談し、豪州産ウランを中国へ提供することで合意した。温首相は会談後、記者団に「純粋な平和利用に限って使用する」と明言した。両国は豪州のウラン鉱山の共同開発に関する文書にも調印した。
(毎日新聞) - 4月3日17時26分更新

(参考記事2)
[豪企業、台湾向けウラン輸出契約=米国経由で-有力紙]
 【シドニー4日時事】オーストラリアの資源会社2社が台湾の電力会社に豪州産ウランを輸出する契約を結んでいたことが4日、明らかになった。豪有力紙シドニー・モーニング・ヘラルドが同日、報じた。豪州政府と台湾はウランを直接、輸出する契約を結んでいないため、輸出は米国を経由する形をとっている。
 同紙によると、豪州企業はBHPビリトンとERAの2社。台湾の電力会社、台湾電力(タイパワー)との間で過去1年以内に輸出契約が結ばれた。実際にはまだ輸出されていないという。
 豪州政府は3日、中国政府との間でウラン輸出の協定を結んだばかり。 
(時事通信) - 4月4日11時1分更新

(参考記事3)
[台湾・日米をけん制=「援助」で南太平洋に影響力-中国]
 【北京4日時事】中国の温家宝首相は4日、オーストラリア訪問を終え、次の訪問国のフィジーに到着した。5日に同国で「中国・太平洋島しょ国経済開発協力フォーラム」開幕式に出席。経済援助をてこに、台湾と外交関係を持つ国が多い南太平洋の島しょ国の取り込み戦略を加速させる。アジア太平洋地域への影響力拡大を模索する日米をけん制する狙いも強い。
 中国首相による南太平洋の島しょ国訪問は初めて。温首相は島しょ国閣僚らとの間で経済発展協力に向けた「行動綱領」に署名。200人以上の中国企業代表団も同フォーラムに参加する。 
(時事通信) - 4月4日17時1分更新


☆ぜひとも、Blog●Rankingをクリックして、ランキングに投票して応援してくださいm(__)m

最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ホッとしました。 (PJ)
2006-04-11 12:51:41
オーストラリアが中国に誑かされたような話を聞いていたので。

でも、それぞれの国で親中派がどのくらい広がっているかについてはまだまだ不安です。
返信する
Unknown (猫研究員。=高峰康修)
2006-04-11 23:58:26
>PJさま

多少は私の希望的観測も混じってるかもしれませんが…。でも、客観的に見てオーストラリアが中国とつるむ理由なんて殆んどないですよ。米国と同盟してこそ、この地域で、そして世界での存在感を高める事ができますから。

返信する