猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

日本も中央アジアのパワーゲームに積極参加すべきだ

2006-06-08 02:44:40 | ロシア・中央アジア
 中央アジアは、多くの日本人にとって砂漠に覆われた地域というイメージしかわかないかもしれない。あるいは、シルクロードのロマンを掻き立てられる人も少なくないだろう。しかし、現在の中央アジアは、米露中の大国がせめぎあう国際的なパワーゲームの最前線である。これらの3国は様々な形で我が国と密接な関連を持つ国である。それゆえ、我が国も中央アジア地域におけるパワーゲームに関与せざるを得ない。
 中央アジアは、元来はソ連邦を構成しており、ロシアの強い影響下にある地域である。言ってみれば「ロシアの裏庭」である。しかし、2001年の米国同時多発テロ(9・11)を境にこの地域の戦略的価値が急速に上がった。9・11の直後は、米国が対テロ戦争を遂行すべくイスラム教の影響の強い中央アジア地域に軍隊を駐留させることに成功した一方で、ロシアが対テロ戦争を名目としてこの地域への強権的な影響力を行使することを事実上容認した。ところが、最近になって、中露と中央アジア諸国が参加する上海協力機構がウズベキスタンの米軍基地を撤収に追い込むなど、また構図が変わってきた。ロシアとしては「ロシアの裏庭」路線に回帰したいところだろうし、中国は中国で米国の影響力を排除したがっている。中央アジア地域の豊富なエネルギー資源も魅力的である。何よりも、背後に位置する、そして核ミサイルの基地が数多く存在する内陸部に近いこの地域に米国の影響力が浸透することは、中国にとって死活問題にもかかわる。短期的に見れば、中露両国の利害は一致しているようにも見える。日本も、中国を牽制するためには日米同盟の観点からも中央アジアに積極的に関与すべきである。
 日本の関与は、軍事的なものを期待するのは現実的ではなく、エネルギー資源を中心とした開発の観点からなされることになるだろう。したがって、5日に開かれた、麻生外相と中央アジア諸国の外相らによる「日・中央アジア外相会合」において、対人地雷除去、道路整備、干ばつが進むアラル海の保護など、日本の中央アジアに対する支援策などをまとめた行動計画を採択したことは、日本のなすべき中央アジア外交の一環として評価されるべきである。さらに、アフガニスタンの外相をゲストで招いて、中央アジアとアフガニスタンを結ぶ道路網の整備を支援することを表明している。これは、トルクメニスタンの天然ガスを、アフガニスタン、パキスタンを経由してインドまで運ぶ「南方ルート」の開発を進める狙いがある。アフガニスタンで環状道路の復旧に協力し、パキスタンでは高速道路の建設を支援し、これらの道路網が一つにつながれば、中央アジアからインド洋まで陸路で繋がることになり、中央アジアの石油や天然ガスといった物資や人の往来も活発になるであろう。実は、米国も「南方ルート」による「TAPIパイプライン構想」を推進している。我が国の協力は、米国とも利害が一致しており、協調してこれを行うべきである
 さらに、南方ルートの道路やパイプラインによる資源の輸送が容易になれば、麻生外相が言うとおり、中央アジアの経済的及び政治的自立につながる。これまで述べてきたことは大国の論理であるが、中央アジアの視点に立っても南方ルートの整備は望ましい。中央アジアは内陸に位置しているため、輸送ルートはロシアや中国を頼らざるを得ないのだが、輸送ルートを分散することができれば、中露への依存体質を弱めることができるというわけである。すなわち、中露の言いなりになる必要性が低下するということである。これは、もちろん我が国にとっても歓迎すべきことである。安全保障の観点からも、資源確保の観点からも、経済援助を中心として中央アジアへの関与を米国と協調して行い、地域のグッドガバナンスに寄与することはことは極めて重要な課題である。



(参考記事1)
[日・中央アジア外相会合、地雷除去など行動計画を採択]
 麻生外相と中央アジア諸国の外相らによる「日・中央アジア外相会合」が5日午前、東京・麻布台の外務省飯倉公館で開かれ、対人地雷除去、道路整備、干ばつが進むアラル海の保護など、日本の中央アジアに対する支援策などをまとめた行動計画を採択した。
 同会合の開催は、2004年8月以来で、2回目。今回は、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタンの外相とカザフスタンの政府特使が出席し、中央アジアと隣接するアフガニスタンの外相も特別参加した。
 行動計画には、外相会合を定期的に実施することや、首脳会合の開催を検討することも明記した。企業間交流を促すフォーラム開催などのビジネス振興や、日本への研修員受け入れなどの文化交流について、具体策も盛り込んだ。
(2006年6月5日14時10分 読売新聞)

(参考記事2)
6月7日付・読売社説(2)[中央アジア]「日本も“ゲーム”で一役果たせるか」
 米中露が今、最も活発にパワーゲームを繰り広げている地域が中央アジアだ。
 石油などのエネルギー資源が豊富である上に、政治的に不安定で、安全保障上も重要な地域だからだ。
 その国々の外相を一堂に招いた日・中央アジア外相会合が東京で開かれた。調印された行動計画には、エネルギーなど各分野ごとの支援策を盛り込んだ。
 中央アジア諸国は石油、天然ガスなどの資源が豊富だが、いずれも内陸国のため、輸送ルートはロシアや中国を頼らざるを得ない。
 輸送ルートを分散化すれば、中露への依存体質を弱めることができる――。
 こうした考えから、米国は最近、「TAPI天然ガスパイプライン」構想に力を注いでいる。トルクメニスタンの天然ガスを、アフガニスタン、パキスタンを経由してインドまで運ぶ「南方ルート」だ。だが、政情が不安定な地域を通過するだけに、具体化は遅れている。
 日本が今回、アフガニスタンの外相をゲストで招いたのは、米国同様に南方ルートの開発を進める狙いからだ。
 具体的には、中央アジアとアフガニスタンを結ぶ道路網の整備だ。日本はアフガニスタンで環状道路の復旧に協力し、パキスタンでは高速道路の建設を支援している。これらの道路網が一つにつながれば、中央アジアからインド洋に至る人や物の“大動脈”が完成する。TAPI構想の推進にも当然、好材料となる。
 南方ルートの道路やパイプラインによる資源の輸送が容易になれば、「中央アジアの経済的、政治的自立につながる」と麻生外相は指摘する。
 「自立」を促す裏には、中露と中央アジア諸国が参加する上海協力機構の動向がある。同機構は昨年、ウズベキスタンの米軍基地を撤収に追い込み、来年はロシアで合同軍事演習を計画するなど、安全保障面でも結びつきを強めている。
 中央アジアは旧ソ連領で、ロシアの影響力がもともと強い。同じ“大陸国家”の中国も加わって、米国と対峙(たいじ)する多極化戦略を進めれば、世界有数の資源埋蔵地帯だけに影響は甚大だ。
 資源小国の日本にとっても、無関心ではいられない。米国と歩調を合わせ、地域の透明性、開放性を促す方向で支援を強めるべきだ。インフラ整備などに政府開発援助(ODA)を有効に使えば、十分に役割を果たせるだろう。
 米中露の動きは、19世紀末から20世紀初頭の英露の覇権争いにたとえて「21世紀のグレートゲーム」と呼ばれる。日本も戦略的外交を進める必要がある。
(2006年6月7日1時20分 読売新聞)


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4 コメント

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パワーゲームもですが、 (PJ)
2006-06-08 13:09:11
何だか夢のある話ですよね。

そういえば、モンゴルは反中親日国らしいのですが、

日本は中々やって来ないで、お行儀の悪い韓国人が幅を利かせているそうです。

日本には、やれることが沢山ありますね。
PJさんへ (猫研究員。=高峰康修)
2006-06-09 01:29:00
確かに夢とロマンがありますよね。「西域」というものはそういう不思議な魅力があるような気がします。

モンゴルは、ブッシュ大統領がアジア歴訪で訪れた時に、民主主義の進展に賛辞を送ったことがありますね。これも中国への牽制です。



>日本には、やれることが沢山ありますね。



全くそうですね。アジアといえば中韓しか思い浮かばないなんていう情けない構図はそろそろ願い下げにしたいものです。

全く同感です・・・・ (tsubamerailstar)
2006-06-10 00:33:50
太平洋・島サミットとともに時期的に注目していたのがこれですが、アジア安全保障会議や上海協力機構とも近接しているのもミソだったかと思います。

代替としてトルクメニスタンへの米軍基地誘致構想が昨夏に出ていましたが、民主化共々ここで日本が仲介したらねと昨年来思っておりました。とにかく、メリケンが小回りが利かないところであれこれ動くのが鍵ではないかと個人的には思っております。

tsubamerailstarさんへ (猫研究員。=高峰康修)
2006-06-10 01:24:30
せっかく民主化を推進すると旗を掲げたのですから、実行しなきゃ意味がありません。中央アジアに日本の軍事的プレゼンスを打ち立てられるわけもないのですが、民主化に貢献するとか経済的援助をするとか米国との仲介をするとか、そういうことを積極的に行わなければなりません。