猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

北方領土 露TVで四島返還論 専門家発言「対日同盟が国益」

2006-06-03 04:11:28 | ロシア・中央アジア
 タイトルだけ見ると、ロシアで専門家が北方四島返還論を述べたということで、北方領土返還を楽観視できると言いたいのだろうと受け取られかねないところである。しかし、このエントリーを書く真意は、ロシアには伝統的なパワーポリティクスと大国志向が根強く生きていることを紹介したいという点にある。ワシリエフ高等経済研究所研究部長はTVの討論番組で「日本は十年後にロシアにとって地政学的かつ戦略的に極めて重要な存在となる。小さな四島の領有にこだわらず、返還すべきだ。日本が同盟国となることがロシアの国益につながる」と力説して、日本との同盟によって中国の脅威を抑えることを主張している。報道によれば、ワシリエフ氏は時事通信に対し、「強力な大国になりつつある中国との関係強化には毒があるが、日本との関係強化は無害だ。今は少数派でも、やがて賛成論が増えると思う」と、明確にパワーポリティクスに基く論理を展開したそうだ。
 確かに、中露関係は「上海協力機構ができ、エネルギー資源をめぐっても蜜月関係にある」などというのは一面的に過ぎる見方であり、ロシアが地域大国そしてあわよくば世界大国を目指す上で、中国を戦略的ライバルとしても見ていることは間違いないだろう。
 先日、ロシアのプーチン大統領は、2006年の年次教書の中で「オオカミは誰を食うか、相談をしてはくれない」「強い軍があれば、外圧をはね返せる」などと述べ、国際政治では軍事力がものを言うことを強調しながら、ロシア軍の近代化を急ぐ姿勢を明確にした。機動力と緊急展開能力を備えた部隊を整備し、同時にいくつかの地域紛争と、大きな戦争を戦える軍を構築に全力するとしており、これは覇権国家を目指す宣言である。 その念頭にあるのは、究極的には米国の覇権はNOだということであろう。「強力な大国になりつつある中国との関係強化には毒があるが、日本との関係強化は無害だ。」というワシリエフ氏の言葉は対中国のものだとされているが、この論理は対米にも当てはまる。今すぐロシアが米国に挑戦すると考えるのも現実的ではないが、ロシアの戦略に乗せられて、結果として日米同盟を離間されることのないように気をつける必要はあると思う。その上で、対中牽制として中露の離反を画策することは戦略上重要であろう。



(参考記事1)
[北方領土 露TVで四島返還論 専門家発言「対日同盟が国益」]
 【モスクワ=時事】二十八日放映されたロシア国営「文化チャンネル」の討論番組で、「日本はロシアの死活的なパートナーだ」として、北方四島の日本への返還を主張する意見が表明された。メディア統制の進むロシアで、政府方針に反する四島返還論が展開されたのは近年では異例。
 ロシアのアジア政策をめぐる学者らの討論で、ベテランの中国専門家、ワシリエフ高等経済研究所研究部長が語った。同部長は「日本は十年後にロシアにとって地政学的かつ戦略的に極めて重要な存在となる。小さな四島の領有にこだわらず、返還すべきだ。日本が同盟国となることがロシアの国益につながる」と力説した。日本との同盟によって中国の脅威を抑えることを狙った発言。
 番組では、保守派のコシキン戦略策定センター研究員が「四島周辺の漁獲量は年間十五億ドル(約千六百五十億円)。世論調査では82%が四島返還に反対している」などと反論した。ワシリエフ部長は放映後、時事通信に対し、「強力な大国になりつつある中国との関係強化には毒があるが、日本との関係強化は無害だ。今は少数派でも、やがて賛成論が増えると思う」と話した。
(産経新聞) - 5月31日3時26分更新

(参考記事2)
[「強い軍があれば、外圧をはね返せる」 露大統領、大国構築を宣言]
 【モスクワ=内藤泰朗】ロシアのプーチン大統領は十日、クレムリンで二〇〇六年の年次教書演説を行い、ロシアが今後、国益の追求と世界の安定のため、近代的な軍事大国建設に向けて邁進(まいしん)すると宣言した。大統領は、好調な経済を背景に、軍事予算のさらなる増大を約束。演説では所々で、軍事超大国の米国に対抗する姿勢が強く浮き彫りにされた。
 大統領は「オオカミは誰を食うか、相談をしてはくれない」と述べ、国際政治では軍事力がものを言う現実があると強調。「強い軍があれば、外圧をはね返せる」とも述べ、ロシア軍の近代化を急ぐ姿勢を打ち出した。
 その中で、最新型潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「ブラワ」を搭載し、ソ連崩壊後初めて配備される戦略原子力潜水艦二隻と、移動型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「トーポリM」を中心とした最新の核抑止戦力の強化を挙げた。
 そのうえで、問題が指摘されている徴兵制から志願制への移行など軍の機構改革を進めるとともに、機動力と緊急展開能力を備えた部隊を整備し、「同時にいくつかの地域紛争と、大きな戦争を戦える軍」の構築に全力を挙げると述べた。
 軍改革の後ろ盾となる国防予算について、ロシアは、国内総生産(GDP)比で英国やフランスとほぼ同規模であるものの、「米国はロシアの二十五倍に当たる」とも指摘。軍事大国化のために「予算は増やすが、(米ソ両国の軍拡競争で巨大な国防予算に押しつぶされた)ソ連の過ちは繰り返さない」とも語った。
 大統領はさらに、ロシアの世界貿易機構(WTO)加盟を妨げる米国を批判するなど、対抗意識を示しながらも、国連中心主義や各国との協調主義を訴えた。
 ロシアは、高騰する石油など豊富なエネルギー資源の輸出が好調で、経済外交で自信を深めており、新たな「軍事大国」建設を鮮明に打ち出すことで、「強国」再興戦略の柱とする狙いがあるものとみられる。
(産経新聞) - 5月11日3時0分更新


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4 コメント

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油断のならない国ばかり (PJ)
2006-06-03 11:07:04
日本の周りの国はみんな魂胆あり気ですね。

日本には何の魂胆も無いというより、展望が無いような・・・。

外国にとって日本は、少なくとも悪意を持たない国ではありますね。

悪意は持たなくても警戒心は持たないと危険ですよね。
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虎視眈々ですね (猫研究員。=高峰康修)
2006-06-04 04:17:20
日本は「食わせもん」な国々に囲まれていることをよく認識すべきであります。「日本は害にならない国」としゃあしゃあと言われるなんてのは、かなりなめられているということですよね。



>日本には何の魂胆も無いというより、展望が無いような・・・。



きちんとした展望を作っていくのが日本外交の腕の見せ所です。かなり難問だとは思いますが…。アーミテージが言った「東洋の英国」あたりが妥当なところでしょう。
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はじめまして。 (閑話ノート)
2006-06-04 09:33:14
閑話ノートと申します。

TB&コメント誠に有難うございます。

猫研究員さまのご趣旨同意見でございます。

ご指摘のとおり、ロシアは高度経済成長をテコに軍備の近代化を急ぐものと思われます。

それは湾岸戦争、イラク戦争に見られた軍事大国アメリカの圧倒的強さを目の当たりにしたこと。そして隣国中国の急激な台頭による脅威。この二つと思われます。



いずれにしても、日露l両国にとって国益にかなう部分があれば、取り入れることはベターと思います。

それでは。
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閑話ノートさんへ (猫研究員。=高峰康修)
2006-06-06 02:46:24
コメントありがとうございます。

大国主義・膨張主義はロシアの歴史的刷り込みのようなものです。このまま座して二流国に転落することはないでと思われます。



>日露両国にとって国益にかなう部分があれば、取り入れることはベターと思います



そのためにも、何が長期的に見て国益に繋がるのか、冷静に分析する必要がありますよね。日本周辺では古典的なパワーポリティクスがまだまだ存在感を見せ付けそうです。
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