遺伝屋ブログ

酒とカメラとアウトドアの好きな大学研究者です。遺伝学で飯食ってます(最近ちょっと生化学教えてます)。

G2期停止と自食作用

2013-02-04 21:36:01 | BIONEWS
千葉大で出芽酵母を使っての業績・・・「松浦さんかな?」と思ったら、ホントに松浦先生の仕事でした。テロメアとチェックポイントから次はオートファジーですか。お見事です。

千葉大など、「オートファジー」が栄養欠乏環境下での細胞分裂に重要と発見(マイナビニュース) - goo ニュース
記事ではカギカッコつけて「オートファジー」と書いてますが、日本語で自食作用といいます。それでいいのにねぇ。カタカナを使うとカッコいいと思ってるんだろうな。O大時代の師匠からは、日本語で文章書く際にはカタカナ語ではなく可能な限り日本語で書けと教育されました。記者さんもプロなら・・・大事なことだと思いますよ。生物学者は"phagy"とくると『食作用』ってすぐに分かりますが、普通の人には無理じゃないですかね。
さて、自食作用。細胞は、飢餓状態に陥った時に細胞分裂を中止しじっとしてますが、それでも微妙に代謝は起こってます。エネルギーやら高分子の材料がそこそこ必要なので、自分の細胞質の一部を自食胞(オートファゴソーム)という小胞で囲い込んで、それを液胞へドッキングさせ分解消化し必要な成分を自分で供給します。最初の発見は大隅先生が東大安楽研究室時代のことです(のはずです・・・たしか、そうだったはず・・・と思う・・・きっと)。液胞による分解作用を研究しようとして、細胞を飢餓状態にした30分後に細胞質中にたくさんの小胞が現れて、液胞に集まっていく現象を顕微鏡で観察できたことがきっかけだったそうです。学術誌のインタビューで述べておられてました。でも、古い平板培地で栄養飢餓に陥った酵母のコロニーがふちのところからドロドロと融けているのを見つけて、「こりゃなんだ?」と疑問に思って研究し始めたとか、昔、酵母遺伝学フォーラムでゆーてはったやうな気がします。ま、余談ですが・・・。
栄養飢餓状態にある細胞は、細胞分裂を完了した時期(G1期)で細胞周期を停止します。この時期で止まるのが一番安定♪ ただ、細胞が栄養飢餓に曝されると、核が分裂する直前の時期(G2期)で細胞周期が一時停止することをこの研究グループは明らかにしていました。こういう細胞増殖に問題があると細胞分裂周期のあるポイントで細胞周期を停止し、問題を解決してから分裂を再開します。そういうポイントをチェックポイントと呼んでます。今回の研究で、G2期で一旦停止した細胞が再び分裂過程に入り、細胞分裂を完了するために自食作用が必要であることを見出したわけです。一方、自食ができない変異細胞では、G2期で停止した後の細胞周期の再開に問題があり、核が異常に分裂した細胞が高頻度で生じてしまうことも分かりました。また、こういう変異細胞は細胞周期再開が出来ないためにG2期に留まり続けるが、この状態の細胞に特定のアミノ酸を加えるだけで再び分裂過程に入ることから、オートファジーの役割は栄養飢餓により不足したアミノ酸を、自己成分の分解によって作り出すことにあることがわかります。今自宅にいて原著論文を読めないのでどのアミノ酸か分かりませんが(そこからでも松浦さんにメールして訊けやという突っ込みはスルー♪)、記事の文にある「特定のアミノ酸」というとこから推測すると、単純にタンパク質の材料が足りないってわけでなくて、窒素源プールのメルクマールになる成分の欠乏が理由でG2期からの脱出が出来ないのかもしれません(あくまでも記事からの推測ですよ)。そうなるとTOR系まで遡って調べたくなりますね。その「特定のアミノ酸」にもよりますが、アミノ酸の骨格の一部とか、アミノ酸アナログを利用してみたりとかしても細かいことが分かるかもしれません。また、使われた菌株は実験室株でしょうから、いくつかのアミノ酸要求変異が入ってるはずです。それらの遺伝的背景をきれいにして同様の観察ができるかとか、まあ、そこは大丈夫だとは思うけど、基本的に酵母は20種類のアミノ酸全部を自分で生合成出来る細胞なので・・・。
それはそうと外野からだと無責任なアイデアがボコボコわいたりするんですな。失礼のないように気をつけよう・・・
自食作用は飢餓対応だけでなく、変性タンパク質の分解や古くなった細胞内小器官の処分や入り込んできた細菌を消化、しまいにゃ、自分の細胞死にまで関わっています。自食作用が細胞分裂の時に正常な細胞核の分裂や染色体の分配に必要って、どういうところでなんでしょうか? 合成期からこの細胞分裂というイベントの間に、我々が観察しきれていない多くの細胞構成成分や細胞小器官の材料が一度解体され再構成されているはずです。合成期に必要だったもの、分裂期に必要なもの、その後の間期に必要なもの・・・これらの過程に応じていらなくなるもの・・・作っては壊して作っては壊し、一つの細胞が二つになる。自食装置達も分解屋としてフル回転してるのかもです。鍵はアミノ酸か・・・

上の写真は、今日のスーパーボウルの勝者レイブンズを讃えてカラスの写真。レイブンズのキャラクターは三羽の大鴉。エドガーとアランとポーです。なんでこの名前なのか分かりますよね?

本日のお酒:なし
コメント
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