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「リンカーンとさまよえる霊魂たち」   時間を

2019年02月11日 | もう一冊読んでみた
リンカーンとさまよえる霊魂たち/ジョージ・ソーンダーズ  2019.2.11

  みんなが悲しみを味わっている、あるいは味わってきた、あるいはこれから味わう。
  これが物事の本質なのだ。


あなたは、一冊の本を読み終わった時に「訳者あとがき」や「巻末の書評」を読まれますか。
リンカーンとさまよえる霊魂たち』 は、変わった小説ですから少し“分かり難い”。
訳者あとがきを忘れずにお読みになることをお勧めします。
この小説の内容が良く理解できると思います。

主な登場人物の、エヴァリー・トーマス師、ロジャー・ベヴィンズ三世、ハンス・ヴォルマンが味わい深く活写されています。
南北戦争時代のリンカーン大統領とその息子のウィリーの死を通して、当時のアメリカ社会と歴史が興味深く、ある意味面白く物語られています。
変わった形式の小説ですから、初め戸惑い、面白く感じられるまでに多少の我慢が必要かも知れません。

物語は、このような雰囲気で進みます。

 私の人生もさまざまな形で潤った。どう潤ったかは、とてもじゃないが説明しきれない。私は幸せだった。充分に幸せだった。

 大統領夫妻の恐怖と驚愕は、子供を愛したことのある人なら、そして、すべての親たちに共通する恐怖の予感を抱いたことのある人なら、誰でも想像できるものだろう。運命の女神は生命をそれほど尊重しておらず、好きなように始末してしまうのではないかという予感である。

 この世は、ありとあらゆる崇高なものが美しく揃えられた壮大な市場だ。八月の傾いた陽ざしを浴びて昆虫の群れが踊り、雪の野原でくるぶしまで埋もれた三頭の黒い馬が頭でつつき合い、寒い秋の日にはオレンジ色に染まった窓から風に吹かれて牛の肉汁の匂いが漂ってくる----

 本当のところを言うと、ここにとどまっている多くの者たちのなかで、一人として----最も強い者であっても----心の疑惑を消し去ることができた者はいなかった。自分の選択が賢かったのかどうかについての疑惑である。

 そして森に走っていって、泣いた。きみを本当にやさしい気持ちで思い、決心した。だますほうが親切なんだって。
 きみをだますほうが。


 ここにとどまるにしても、ほんの少しのあいただだけ。というのも、かつての場所で過ごした時間に満足し切っているからだ。

 単純に言えばこういうことです。我々には、あの種族の者たちと意思を伝え合う術がない。まして彼らを説得し、何かをさせることなどできない。
 あなたもご存じのはずです。


 弱い人たちに対して重い打撃が放たれるときがあるのだ。

      『 リンカーンとさまよえる霊魂たち/ジョージ・ソーンダーズ/上岡伸雄訳/河出書房新社


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