ゆめ未来     

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ベルリンは晴れているか

2019年02月25日 | もう一冊読んでみた
ベルリンは晴れているか/深緑野分  2019.2.25  

  2019年版 このミステリーがすごい!
  国内篇 第2位 ベルリンは晴れているか


深緑野分 『ベルリンは晴れているか』 を読みました。
重たい作品でした。

物語の核心部分は、物語の終わり近くまで、謎のまま残されて展開されます。

 今の私には、他のどんなことよりも、エーリヒに会って話すことが重要だった。この気持ちをカフカが納得してくれるかどうかはともかく。

そして、この部分に続くのです。

 なぜ君はあんなに苦労してまでエーリヒに直接訃報を伝えようとしていたのか、やっと腑に落ちたよ。

その過程で、悲惨な話が次からつぎにと続きます。これでもか、これでもかと。
昨日まで親しくしていた隣人がいなくなる。信じられなくなる。死んで帰ってくる。密告者を生む暗い時代が、ベルリンにドイツ国内に重く垂れ込めます。
男は戦場に狩り出され、街には爆弾が雨あられと降り注ぐ。
やがて、連合軍と赤軍がベルリンに侵攻してくる。悲劇は起こる。

 「フロライン、あなたも苦しんだのでしょう。しかし忘れないで頂きたいのは、これはあなた方ドイツ人がはじめた戦争だということです。“善きドイツ人”? ただの民間人? 関係ありません。まだ『まさかこんな事態になるとは予想しなかった』と言いますか? 自分の国が悪に暴走することを止められなかったのは、あなた方全員の責任です」

 「こんな世界、神様がお許しにならないわ。ささやかな幸せすら高望みなの?」

 「君はきっと、とても苦しい思いをしたのだろうね」
 「……えっ?」
 「まだ十七歳だ。でも君の瞳はまるで老人のようだよ」


どんなに辛い状況になっても、人は何かに慰められ励まされるものです。

 アウグステは、どんなに学校で窮屈な思いをしようが、口を滑らせる危険に震えようが、家に帰って本を開けば、文字の向こう側から未知の風に吹かれ、胸いっぱいに空気を吸い込めた。物語は裏切らない。エーミールが仲間と出会ったように、物語は困っている私を励まし、守ってくれる。

ぼくも、空にグングン伸びる飛行機雲を見て、同じようなことを思い、当ブログにつぶやいたことがあります。懐かしく思い出しました。

 抜けるように青い空を、飛行機が飛んでいく。壁に囲まれた中庭の、狭くて四角い空を、飛行機が一直線に雲を引きながら飛んでいく。どこへ向かうのかはわからない。行く旅なのか帰る旅なのか、それすらも----だから私は想像する。あの飛行機に誰が乗り、何のために空を飛び、どこへ到着しようといているのかを。

主人公アウグステの父親、デートレフの言葉が忘れられません。

 「僕らの可愛い娘、忘れないでほしいことがあるんだ」
 「……なに?」
 「人間にはいろんな人がいるということだよ」


        『 ベルリンは晴れているか/深緑野分/筑摩書房 』


コメント
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