烏有亭日乗

烏の塒に帰るを眺めつつ気ままに綴る読書日記

チェコスロヴァキアめぐり

2007-02-14 23:08:51 | 本:文学

 『チェコスロヴァキアめぐり』(カレル・チャペック著、飯島周編訳、ちくま文庫)を読む。前回同文庫より『イギリスめぐり』が出ていたが、今回はチャペックの母国であるチェコスロヴァキアについての文章を編んだもので、読んでいると前回のイギリスを見る目とは違って母国への愛情に満ちた感触がよくわかる。
 チャペックは1890年に生まれ、1938年に亡くなっているので、1920年に独立運動の結果としてチェコスロヴァキア共和国が誕生したときは、30歳だったことになる。本に集められた文章は1920年代に書かれたものが多いので、まさに「チェコスロヴァキア」についての紀行文であった。彼が亡くなった翌年に、スロヴァキア共和国が独立し、チェコはドイツ保護領となっている。1945年にはもとのチェコスロヴァキア共人民和国が誕生し、その後同社会主義共和国となる。1989年にビロード革命により共産政権が倒れ、翌年チェコおよびスロヴァキア連邦共和国となる。93年にはスロヴァキア共和国とチェコに分離している。
 ついたり離れたりという複雑な国家であり、チェコとスロヴァキアは隣接しているが結局は他人のような関係なのだろうか。この本でもチャペックの生まれたチェコについて割かれている文章の方が多い。この文章を読んでいると、チェコの自然を曲にしたスメタナ(1824-1884)の『わが祖国』を連想してしまう。特にその『モルダウ』が頭の中で響いてくる。ドイツ語読みの「モルダウ」は、現在では現地の呼称に近い「ヴルタヴァ」と呼ばれていることが多く、この本でも後者の表記にしたがっている。チャペックは「たそがれどきのプラハへそそぎ込む、限りなく青く明るい誇らしげなプラハの灯の列を映して、繻子のような、ブロケード織りのような、燃えるような輝きを見せるその姿を」文字や絵に忠実に写した人は未だかつていないとその筆舌に尽くしがたい佇まいを述べている。
 それにしてもこの地方の地名は、フラデツ・ルラーロヴェーだとかカルロヴィ・ヴァリ、プラハチチェ、ムリニャニなど想像力をかきたてられる地名ばかりである。