鉄道シリーズ その130。ネーミングライツ、日本語でいうと命名権だが、我が国で初めて導入されたのは1997年。サントリーが東伏見アイスアリーナの命名権を購入したのが、嚆矢。その後、公共施設に関しては2003年東京スタジアムの命名権を味の素が購入、AJINOMOTOスタジアムは今ではすっかり定着している。野球場や競技場の命名権を売るのが常識のようになりつつあり、一部では歩道橋やトイレ、ホテルなどのネーミングライツも販売されている。
そんな中にあって経営の苦しい地方私鉄がこれを見逃すはずはなく、積極的に利用する方向に進んでいる。ただし、東京や大阪のような大都市であればスポンサーとなる企業も数多くあるが、地方私鉄の地元企業にはその余裕がない。一方で、あまりクローズアップされていないが、副駅名という形を取り、ネーミングライツを販売するケースが多くある。例えば都営地下鉄神保町駅は専修大学前、市ヶ谷駅は大妻女子大学前、京王相模原線南大沢駅は首都大学東京前、東武スカイツリー線松原団地駅は獨協大学前といった状況である。
そんな中で最近話題となっているのが銚子電鉄である。銚子電鉄は銚子~外川間6.4kmに10駅を持つ中小私鉄で1913年開業と長い歴史を持つ会社ではあるが、元々赤字体質に加え、1990年に当時の社長の資金流用などで一旦倒産。その後自治体などの支援を受けたが資産老朽化などから資金不足にもなり、たい焼きや濡れ煎餅などによる多角化などで何とか営業を継続している。
銚子電鉄は昨年12月から命名権の販売に踏み切り、7つの駅は売ることができた。このうち地元企業が購入したのが4駅。観音駅は『藤工務所』、本銚子駅は『ヒゲタ400年 玄蕃の里』などである。君ケ浜駅は『ミストソリューション』、犬吠駅は『OTS犬吠崎温泉』などだが、犬吠駅の命名権を買ったのは沖縄の会社である。
面白いのが千葉県松戸市の早稲田ハウスというリフォーム中心の住宅会社が終点の外川駅に『ありがとう』とつけたが、これは顧客への感謝を込めたものとのこと。
さらに笠上黒生駅(かさがみくろはえ)は『髪毛黒生』(かみのけくろはえ)になったが、買った会社はメソケアプラスというスカルプケアのシャンプーを開発している会社。元の駅名の一部である黒生(くろはえ)を活用した名前で話題になりそうである。
他に平成筑豊鉄道や函館市交通局、いすみ鉄道、三陸鉄道、神戸新交通六甲アイランド線、くまがわ鉄道などでも命名権を販売している例がある。さらにえちぜん鉄道では2007年に新設駅を請願で開設した際に日華化学がネーミングライツを10年にわたって購入し、『日華化学前』とした例もある。
まあ、売れるものは濡れ煎餅でも駅名でも売って何とか営業を継続したい、これが地方私鉄の厳しい現実であることは間違いない。