『日本そばにこだわる』その10。今回は玉子とじそばを頂く。江戸時代の玉子とじそばは高価なものであった。なにしろ、かけそばが16文に対し、32文と天ぷらそばと同じ値段(江戸後期、嘉永年間)であったのだから。
最初に伺ったのは事務所そばの『高松』、かけそば600円に対して玉子とじそばは750円とたぬき、きつねと同じ。今は庶民派である。
到着した玉子とじそばは表面を黄色い卵が覆っていて、その上にちぎった海苔、小松菜、蒲鉾が一切れ載せてある。まずは汁を一口、卵のおかげか味の濃さが消えて、まったりとした味となっている。
蕎麦は二八蕎麦で喉越しがよく、さらに卵でとじてあるのでより食がすすむ。蒲鉾や小松菜などの他の具材が面白みをもたらしている。さらに徐々に海苔が汁に溶けて旨味を出す。こういう寒い日には堪らないと思いつつ、完食した。
次に伺ったのは『藪伊豆総本店』、実は先日見た吉田戦車の漫画にこの店の卵とじそばの盛り付け方が面白いと書かれていたからである。
藪伊豆総本店の歴史は古く、天保年間(1830〜1843)の初めに京橋で既に繁盛していたという記録がある老舗である。ただ、コロナ禍にあってお昼もあまり混雑はしていない。
2階に行くよう促され、席につく。コロナ対策は万全で4人席の真ん中にはアクリル製の屏風状の仕切りがされている。メニューを見た上で『玉子とじそば』(950円、税込)をお願いする。
出されたお茶が温かいそば茶でホッと落ち着く。出された玉子とじそばを見ると、戦車氏が言うとおり、三角に切った海苔の上に蒲鉾が怒った目のように切られ、思わず笑いそうになる。
まずは汁を一口、カツオと昆布の出汁がよく香って美味い。蕎麦は石臼で引いて手こねした丁寧な仕事が分かる。蒲鉾から頂くが、これも流石に高いものを使っている。高松との価格差も納得がいく。ただ、この盛り付けがなぜ怒った顔なのかはついに聞かずしまい。
途中からおろし生姜を加えると味も変わり、身体が芯から暖かくなる。海老天の入った蕎麦もいいが、まったりと玉子とじ蕎麦を啜るのも一興である。ご馳走さまでした。
高松
中央区日本橋堀留町1ー4ー16
0336611484
藪伊豆総本店
中央区日本橋3ー15ー7
0332421240