WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

アイ・ウィル・セイ・グッバイ

2007年07月05日 | 今日の一枚(A-B)

●今日の一枚 177●

Bill Evans

I Will Say Goodbye

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 ビル・エヴァンスのファンタジー・レーベル最後の作品、1977年録音である。長年続いたエディ・ゴメスとの競演としても最後の作品である。

 Bill Evans (p)

  Eddie Gomez (b)

  Eliot Zigmund (ds)

 後期エヴァンスの最高傑作ではないか、と私は思う。この後、エヴァンスは、マーク・ジョンソン(b)、ジョー・ラバーベラ(ds) とトリオを組んで最後の炎を燃やすのであり、周知のように、この最後のトリオの世評は非常に高いものがある。この最後のトリオの演奏の緊密さは確かに素晴らしいものがあり、高い評価は十分にうなづけるのであるが、私としては正直何かまだピンとこないものがあり、その評価の確定に躊躇している。そんなわけで、現在のところ、私にとっての後期エヴァンスの最高傑作はこの『アイ・ウィル・セイ・グッバイ』だ。近いうちに、もう一度集中的に最後のトリオの諸作品を聴きなおして考えをまとめてみたいと数年前から思っているのだが、生来のものぐさのためか未だ実行していない。

 さて、『アイ・ウィル・セイ・グッバイ』の何がいいのか。なんといってもまず、タイトルである。何と感傷的なタイトルなのだろう。私はこのようなことばに弱い。I Will Say Goodbye 、その響きを聴くだけで胸がしめつけられてしまう。それをタイトルにするところがすごいではないか。同じように胸がキュンとするタイトルに We Will Meet Again というのがあるが、こちらの方は内容がイマイチだ。『アイ・ウィル・セイ・グッバイ』は内容もいい。最後のトリオにつながるような元気の良い部分もあるのだが、全編を貫くセンチメンタルな雰囲気がいい。47歳のエヴァンスの成熟したセンチメンタリズムが感じられる。CDの帯には「瑞々しいまでの感性に溢れ、リリカルなピアノが冴えわたる」というやや気障な言葉が刻まれているが、それも決して的外れではない程に、リリカルで優しさに溢れた演奏だ。

 例えば、③ Seascape や ⑧ A House Is Not A Home の優しさに満ちた美しい響きはどうだろう。ほっと息を吐き出して、全身の力が抜け、無防備に自分を解き放って、音楽に身をゆだねてしまう。そんな音楽だ。

 やはり、ビル・エヴァンスはいい。しばらく聴かず、離れていても、やはりときどき戻ってくる場所、それが私にとってのビル・エヴァンスだ。

[追記]

胸キュン・タイトルでもうひとつ重要なものを忘れていました。You Must Believe In Spring です。こちらは、感傷的なタイトルとしても最上級、内容も最上級です。


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