WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

ペトルチアーニの清々しい響き

2015年01月17日 | 今日の一枚(M-N)

●今日の一枚 406●

Michel Petrucciani

MICHEL PETRUCCIANI

坂本光司『日本で一番大切にしたい会社』という本の中で、従業員の約七割を知的障がい者が占める日本理化学工業という会社が紹介されています。その中に、幸福とは①人に愛されること、②人に褒められること、③人の役に立つこと、④人に必要とされることであり、このうちの②③④は施設では得られず、働くことによって実現できる幸せなのだ、というこの会社の社長さんの話が紹介されています。障がい者の就労や社会参加を考える上でまことに示唆に富んだ言葉ではないでしょうか。ダストレスチョークの三割のシェアを誇るこの会社は、このような考え方で、もう50年以上も障がい者の雇用を続けているのだそうです。

 ちょっと恥ずかしいが、数年前に地域の障害者支援団体の広報誌に寄稿した私の文章の一部である。私と同じ1962年の生まれで、1999年に亡くなったフランスのピアニスト、ミシェル・ペトルチアーニの人生は、その意味では幸福だったというべきなのだろう。もちろん、骨形成不全症という重い障害をもち、わずか36歳の若さで逝ってしまった彼自身にしてみれば、もっと自由に、そしてもっと長い時間生きたかったに違いない。やりたかったことももっともっとたくさんあっただろう。ただ、人に愛され、人に褒められ、人の役に立ち、人から必要とされるという観点においては、ペトルチアーニの生涯は完全にその要件を満たしていると思うのだ。

 ペトルチアーニの1981年録音盤の『ミシェル・ペトルチアーニ』である。年の同じ私が大学に入学した年の作品だ。まだ自分自身が何ものかも知れず、蹉跌の日々を送っていたその頃の私を顧みれば、まったく恥ずかしい限りである。18歳の若者の清新な気風に満ちた、素晴らしいアルバムだ。ピアノの音が鮮明である。響きが素晴らしい。録音がいいのだろうか。ペトルチアーニのタッチの技術が素晴らしいのだろうか。いずれにしても、硬質で芯のある、曖昧さのない音だ。論理の国フランスらしい、明晰な音の響きというべきだろうか。アルバム全体にわたって、清々しさ、爽やかさが充溢している。いい作品だ。

 40代の、あるいは50代のペトルチアーニを聴いてみたかったと痛切に思う。彼自身も悔しかったに違いない。けれど、彼の生きた証は、こうやって私たちに感動を与え、何かを伝え続ける。これからも、ずっとずっとそうだ。



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