WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

ニトログリセリンをもらった!

2015年01月23日 | 今日の一枚(A-B)

今日の一枚 409●

Brad Mehldau

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 50歳を過ぎて病気のデパートである。一年半前のドックでは胸腺種がみつかった。半年おきに検査しているが、今のところ悪性ではないとのことだ。一か月程前、下の血圧が高いのが気になって病院に行ったら、心臓が通常より大きいことを指摘され、??型心筋症の疑いをかけられた。昨日、再び病院に行った。血圧の方はちょっと高いもののまだ服薬するレベルではないらしい。ちょっと安心。??型心筋症を調べる心臓エコーでは異常が見られなかったものの、心臓CTでもう少し調べてみる必要もあるとのことで、大きな病院の紹介状をもらった。そして・・・・、念のためにニトログリセリンを出しておきます・・・・といわれたのだ。ニトロ・・・グリセリン・・・、????。その、あまりに聞き覚えのある薬の名前を耳にして、思わず聞きかえしてしまった。大丈夫、爆発したりはしませんから・・・、というのが医者の答えだった。万一、発作がおきたときのためということだったが、5~6年程前から年に一度ほど胸が苦しくなるような気がするといったことへの対処だったのかもしれない。しかし・・・、ニトログリセリンという、そのあまりに聞き覚えのあることばに、気の弱い私ははっきりいってビビってしまった。

 今日の一枚は、ブラッド・メルドーの2000年録音作品の『プレイシズ』である。私が最初手に入れた、ブラッド・メルドーの作品である。今でも、好きな作品だ。いい作品だと思う。和音の響きが素晴らしい。様々な和音を試行するような演奏であるが、それがきちんと音楽になっている。ブラッド・メルドーの演奏を動画で見ると、あまりに音楽に入り込み、自意識過剰で気持ち悪いと思うこともある。また、作品によっては、ちょっと考えすぎだと思うこともある。けれど、初期のこの作品は、清新な気風に満ち、まっとうな美意識を感じることができる。

 アルバムのブックレットには、唐突に、ゲーテの『若きウェルテルの悩み』が引用されている。

おお、遠方はさも未来に似ている! 漠然たる多いな魂が、われらの魂の行手にうかんでいる。われらの眼とおなじくわれらの感覚はそのうちに溶け入り、われらは、ああ、われらの全存在を投げ出して、ただ一つのかがやかしい感情の大歓喜も充たされたいと願う。それだのに、ああ!われらがいそぎ赴きて、かしこにありしものがここにあるとき、すべてはつねに旧態依然である。われらは変わらぬ貧困と制約の中にあり、魂はついに捉えなかった膏肓を求めて、渇えあえぐ。

 いいたいことはわからないでもないが、ドイツ人の大げさな表現は嫌いだ。また、若い音楽家のさわやかな野心と功名心があったとしても、唐突な文学の引用にスノビツシュなものを感じてしまうのは私だけだろうか。ブラッド・メルドーは優れたピアニストであり音楽家であると思う。けれど、それが本物かどうかの判断にはもう少し時間がかかりそうだ。

 



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