遅ればせながら、話題の書を読んでいる。毎日眠る前に少しずつ読んでいるのだが、なかなか楽しい。菊地成孔・大谷能生『東京大学のアルバート・アイラー』(メディア総合研究所)だ。2004年4月から2005年1月まで東京大学駒場キャンパスで行われたジャス史に関する講義の記録で、前期講義部分の[歴史編]と後期講義部分の[キーワード編]からなっている。
基本的には、ジャズ史の素描なのだが、楽理や文化史的背景さらには時代の精神(エピステーメ)をも論じる射程をもっている。音楽とともに時代が変わり、時代とともに音楽が変化していったことをうまく理解することができ、ミュージシャンたちが何に対して、どのように戦いを挑んでいったのかをつかむことができる。一方、取り上げられた多くのレコード・CDの分析的なレビューにもなっており、なかなかに興味深い。
革新的なビ・バップの登場によって、それ以前の多様なジャズがプレ・モダンにくくられて押し込められていくという話や、1950年代においては危険な黒人音楽だったビバップをアメリカの白人メインストリームに受け入れられ易いように洗練したのが「クール」だったという説明など、なるほどと首肯できる見解も多い。また、体制化したバップ(ハード・バップ)の呪縛から逃れるべくフリーやモードやコルトレーンの音楽がどんな構想を持ち、どのように時代を突き破ろうとしたのかなど、これまで頭では何となくわかったつもりでいたことが、より具体的で分析的に理解できたような気がした。
2004年の駒場でこの講義をきいた人たちはラッキーだったと思う。私も機会があれば拝聴したかったと思うほどだ。この書を読んでいて、しばらくぶりにマイルス・デイヴィス『カインド・オブ・ブルー』やオーネット・コールマン『ジャズ来るべきもの』を聴きたくなった。
ところで、これに関して面白いブログがあったので紹介しておく。
You Tube で読むジャズ史「東京大学のアルバート・アイラー」①
You Tube で読むジャズ史「東京大学のアルバート・アイラー」②
労作である。
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