平和エッセイ

スピリチュアルな視点から平和について考える

ハリケーン(2005年10月)

2005年11月01日 | バックナンバー
 八月の終わりにアメリカ南部を襲ったハリケーン「カトリーナ」は、甚大な被害をもたらした。これはもちろん自然災害ではあるが、人災の要素もかなりあると指摘されている。

 堤防の決壊によって最大の被害を出したニューオーリンズ市は、市街地の大部分が海抜以下の低地であった。この地域はもともとミシシッピ川河口のデルタ地帯であったが、沖合の石油と天然ガスが採掘され、さらに都市化によって大量の地下水がくみ上げられ、大規模な地盤沈下が起こったのである。

 しかも、堤防を補強するための予算が、イラク戦争のためにカットされて、まともな補強工事が行なわれなかった。また、ハリケーンの直撃を受けたルイジアナ州とミシシッピ州の州兵がイラクに派遣されていたために、救援活動や治安維持活動に遅れが出た。イラク戦争が被害を拡大した面があるのである。

 ニューオーリンズはジャズの発祥の地として有名であるが、ジャズは黒人の音楽である。一九世紀には全米最大の奴隷市場があったところで、今なお人口の三分の二が黒人である。今回の死亡者の大部分は、黒人の低所得者層であった。車を持っている富裕層は、前もって車で逃げ出すことができたが、車もなくレンタカーも借りられない人びとは、町にとどまらざるをえなかったのである。「カトリーナ」は、アメリカ社会が依然として、事実上の黒人差別から抜け出せていないことを暴露した。

 ハリケーンはカリブ海で発生し、海水からエネルギーを吸収して成長する。

 米ワシントン大学の研究グループによると、一九五〇年から五〇年間で、世界の海水の表面温度が平均で〇・五度上昇した。〇・五度というと大したことがないと思うかもしれないが、これは、膨大な熱量が海に吸収されたことを示している。その熱量は、大気なら四〇度も上昇させるほどのものだという。高温度の海水は当然ハリケーンを巨大化させる。

 このところ、アメリカ南部は毎年のように大型のハリケーンに襲われている。日本も近年、強い台風に見舞われることが多くなっているが、これも日本近海の海水温の上昇と無関係ではない。

 海水温の上昇は、いわゆる地球温暖化によってもたらされていると考えられる。温暖化の最大の原因と目されているのが、温室効果ガス二酸化炭素である。世界最大の石油消費国であるアメリカは、世界最大の二酸化炭素排出国である。

 このように見てくると、アメリカは自分で今回の大災害を招いたように思えてくる。いずれにせよアメリカは、これまでのように、他国を侵略しても石油を確保し、自然環境を破壊する文明を維持することは、許されないであろう。