平和エッセイ

スピリチュアルな視点から平和について考える

911選挙の前に考えたこと

2005年09月10日 | Weblog
911の投票日も近づいてきました。最近の新聞の世論調査では、「改革」を掲げた小泉自民党が圧勝するとの予測です。

「ハリケーン・カトリーナの影響」は、もう少し書きたいことがあるのですが、まず今回の選挙について、考えるところを書いておきます。

今回の選挙の中心はいわゆる郵政改革問題とされています。年金問題、財政赤字、自衛隊のイラク派兵問題、憲法改正問題、少子高齢化問題、自殺者の急増、中韓などとの外交問題、拉致問題など、山ほど重要な問題がある中で、郵政問題だけが突出しています。

これは、8月15日に靖国神社に参拝する、という公約を破って(※)、靖国参拝をとりやめ、選挙を「郵政改革、賛成か、反対か」にポイントを絞った(※※)、小泉さんの作戦勝ちであり、また、それに乗せられたマスコミの非力さの証明でもあります(※※※)。

※小泉さんは、選挙で負ければ退陣する、と言っているのですから、首相として靖国神社に確実に参拝できるのは、今年しかなかったわけです。結果として、来年も首相を続けたとしても、それは最初に首相になったときの公約とは別物です。小泉さんが8月15日に靖国参拝をしていたら、この問題が大きくクローズアップされて、郵政問題がかすんでいたでしょう。小泉さんは「殺されても郵政改革をやる」気はあっても、「殺されても靖国参拝をする」気はなかったわけです。票にならなければ、公約をあっさり忘れることができるのが小泉さんです。

※※ここには、「テロとの戦いに賛成か、反対か」の二者択一で問題を単純化するブッシュ氏との類似性が認められます。

※※※「マスコミの非力さ」と書きましたが、あるいは、例の「刺客、マドンナ」騒動を面白おかしく報道することに見られるように、マスコミははじめから小泉さんに肩入れしているのではないかとさえ思えます。そのことは、小泉さんの選挙区から立候補した「逆刺客」、自衛隊のイラク派兵に反対してレバノン大使をやめた天木直人さんについて、マスコミがいっさい報道しなかったことに現われています。
 また、小泉さんが「国債発行を30兆円以下にする」という公約を毎年破っても、それをまったく問題視しないマスコミは、小泉支持なのでしょう。

【郵貯の問題点】
郵政「改革」の問題点は、すでに多くの識者が指摘しております。問題は、郵便事業を民間にまかせるということではありません。そのことだけなら、過疎地でのネットワークが公的な形で維持されれば、国民の多くは賛成するでしょう。ですから、小泉さんもそのことだけしか言わないのです。

しかし、郵政「改革」の本当の問題点は、350兆円という、郵貯の資金をどうするか、という問題です。ここでは、西尾幹二氏の批判を紹介しておきます。
http://nitiroku-nishio.jp/blog/

私は西尾氏の政治的見解にすべて賛同するものではありませんが、郵政民営化によって、日本の金融資産がアメリカ金融資本の食い物にされる危険性がある、という氏の指摘は重大だと思います。

具体的には、アメリカが2009年からの自国民の年金の支払いのために、日本の郵貯資金をあてにしているということがあります。アメリカはその金を郵貯銀行から借りたいのです。しかし、赤字垂れ流しで戦争をし、財政破綻しているアメリカが、どうやってそれを返すというのでしょう?

政府案では、民営化される郵貯会社の政府持ち株比率が51%ではなく、3分の1になっています。そのことは、郵貯の資金が外国の金融機関に自由に操られ、「金融賭博」に「活用」される、ということを意味しております。その先に待っているのは、日本がアメリカの国債を大量に買い、ドル安によって国富を無にした、あの「いつか来た道」の再現でしょう。郵貯のお金は、ドルでは変わらなくても、いずれはドルの暴落によって、円での実質的価値を目減りさせられることになるでしょう。目減りした分は、アメリカとアメリカの金融資本に吸い取られるわけです。

政府持ち株比率を51%にすれば最悪の事態は避けられるのに、小泉さんも竹中さんも、なぜ51%にしないのか、合理的な説明を一切していません。アメリカ側の圧力としか考えられません。

あなたは、贅沢三昧の生活をしてまともに稼ぐ気がないので、お金をはじめから返せないとわかっている人に、お金を貸しますか? はじめからドブに捨てるつもりなら別ですが。小泉さんはそうするつもりのようです。でも、それは私たちの貯金なんですよ。

郵政には様々な既得権益が絡まり合っていることはたしかです。その最たるものは、親子代々、公務員の身分を世襲できる「特定郵便局」の制度です。こういう点を改めなければならないことは当然です。

しかし、そういう旧弊を改めても、もっと大きな国益を国外に売り渡しては、何にもなりません。

【トライアングル】
小泉「改革」の中途半端さは、道路公団の「改革」によく現われています。道路公団がかつてのままの公団でよかったはずはありません。「改革」は、たしかに前進に見えます。しかし、その見せかけによって、真の問題が隠されてしまいます。道路公団「改革」によって民営化(※)される会社の社長は、道路公団の幹部、高級官僚、関連企業の社長です。みな、おいしいポストが増えて幸せです。公団の作った40兆円という借金は誰が返すのか。国民です。郵政の「民営化」によっても、現在の郵政省の幹部、財務省の幹部、金融機関の幹部などが、たくさんのおいしいポストを手にするでしょう。

※星川淳氏は、privatization は「私営化・私有化」と訳すべきで、「民」の意味などない、と指摘しています。
http://blog.melma.com/00067106/

「政官財のトライアングル」という言葉があります。「官」というのは、国家公務員である郵便局員のことではありません。そういう現場で働く「公務員」を減らしても、「官」の力が減るわけではありません。問題は、日本を陰で操っている財務省(旧大蔵省)を中心とする高級官僚の権力があまりに強いことです。

そもそも、無駄な支出で日本の財政をここまで悪化させたのは、自民党の族議員と大蔵官僚、公共工事に群がった財界であり、郵貯を集めた郵便局員ではありません。その高級官僚たちは、責任を取るどころか、各所に天下りして甘い蜜を吸い続けています。郵政「改革」だけでは、無駄遣い構造は変わりません。

このトライアングル構造は、小泉「改革」によって、少しも変わっていませんし、郵政「改革」によっても変わりません。郵政改革によって変わる点といえば、このトライアングル構造自体が、アメリカ金融資本の言いなりになるという点だけでしょう。霞ヶ関の高級官僚の大部分が小泉「改革」に賛同していることは、この「改革」がお役人にとっては痛くもかゆくもないことを示しています。

「改革」の「痛み」が一般国民にだけ押しつけられてきたことを、トライアングルは隠しています。選挙後には、トライアングルの利権構造は保持したまま、大増税が待ちかまえているでしょう。

【自民党の変質】
自民党はもともと、矛盾する利益階層を代表するヌエ的性格を持っていました。それが自民党の「強さ」の秘密でした。これまでの自民党は、地方農民、中小企業(とくに土建業)、大企業の利益を代表していました。地元の郵便局は、前2者の利益と結びついています。しかし今回、小泉政権は、前2者を切り捨て、大企業の利益中心の政党になろうとしています。「民間でできることは民間で」という「民間」は、大企業のことです。

農民や地元利益を代弁していた、これまでの古い体質の自民党議員が郵政「改革」に反対した結果、小泉さんに「刺客」を送り込まれ、自民党から切り捨てられたのは、小泉自民党の変質と軌を一にしています。農業は衰退の一途ですし、不景気な地方には経済的魅力はありません。自民党は、そういう階層を支持基盤とすることをやめたのです。

これまでの自民党が温存してきた古い利権体質は、今回の選挙で小泉自民党が勝利すれば、解体されるでしょう。それ自体はよいことです。しかし、それは別の新しい利権構造に移行するでしょう。

【どんな社会が待っているのか】
小泉さんが目指している社会、模範としている社会はアメリカです。熾烈な競争、弱肉強食、大が小を呑みこむ社会、金がすべてのホリエモン的社会を、「小さな政府」「活力ある社会」と称しているのです。今回、ホリエモンが小泉改革を支持したことは、この改革の実質をよく示しています。

しかし、小泉さんが模範とするアメリカ社会が最終的にはどのような状況に行き着くか、今回のカトリーナ被害がはっきりと示したはずです。私たちはこういう社会を望んでいるのでしょうか。

古きを破るという点に小泉さんの役割は認めますが、彼には、より公正な新しい社会へのビジョンはありません。小泉「改革」が日本を破壊しつくさないうちに、次の真の【改革】のビジョンを提起する人(政党)が登場することを切に望むものです。