■周辺国への最大限の配慮を行い恫喝!?
北朝鮮弾道弾が来月試験を行い、今度は南西諸島方面からフィリピンへ飛ばすとのこと。
田中防衛大臣は記者会見において弾道ミサイル破壊命令を出す構えを表明しました、P-3Cにより破壊するのだとか。F-15戦闘機飛行隊に護衛されるP-3Cの大編隊、E-767早期警戒管制機に綿密な空中管制を受けつつ日本海を朝鮮半島へ、ついに策源地攻撃へマヴェリック空対地誘導弾の出番かとおもいきや、PAC-3と勘違いしたらしいとのことですが。
弾道ミサイルに対しては、航空自衛隊の高射隊が運用するペトリオットミサイルPAC-3が終末段階、つまり着弾寸前のミサイルを直撃して破壊して弾頭が使用できず破片のみの被害とする迎撃態勢の準備が行われますが、これとともに恐らく中間段階から終末段階へ移行するミサイルを高高度で迎撃するSM-3を運用すべく、イージス艦を展開させ、警戒に当たることとなるのでしょう。
しかし、この南西諸島、この地域に弾道弾を発射するということは、北朝鮮ではロケットと自称していますものの、南方へ地球の自転とは異なる方面へ投射するのですからただでさえ低い軌道投入の可能性がさらに低まることを意味するわけでして、低軌道衛星に失敗したうえで極軌道に挑むとも考えにくく、もともと人工衛星に偽装する公算をもたないか、宇宙とロケット工学の基礎を知らないか、どちらかにも見えてきてしまうわけでして。
他方、なぜ今回の弾道弾試験が日本の南西諸島上空を飛行しフィリピン方面へ着弾させる経路を飛行するのか、ということを考えてみますと、一説には沖縄の米軍基地を狙っている、という話もあるのですが、もちろんその側面も皆無ではないにしてももう一つ重要な要素があるように思います。
それは、前回、2009年の弾道ミサイル試験がおもいのほかロシアを刺激してしまった、ということ。北朝鮮にとりロシアは友好国であるとともに隣国の大国、特にアメリカを標的としうる経路を飛翔させた場合、地球は球状ですのでロシア上空を近接して飛行することになるわけです。
過去には北朝鮮周辺情勢が緊張した時期と合わせ、ロシア軍は冷戦後最大規模のヴォストーク演習を実施、これは前々から決定していたことで偶然重なった、ということになるのですが、極東地域におけるロシアにとっての最大の不確定要素は朝鮮半島の混乱を契機とする安全保障の秩序体系への影響、関心は持たれているということ。
もちろん、日本列島の本州島を上空通過する形での実験も行えるのですが、何分先方としては日本もできるだけ刺激を避けたく、ミサイルは国威発揚と恫喝に用いる展望を掲げつつ、あまり刺激すればかえって悪い結果になる、ということを学んだのでしょう。なにより、日本は1999年の弾道ミサイル危機を契機に世界でも最も濃密な弾道ミサイル警戒体制と防護体制を整えてしまいましたから。
当然ですが、中国へ、内陸部のミサイル試験場へ協力を受けて試験を行う、という選択肢もありません。その想定より射程が大きいこともあるのですが、ミサイルの信頼性から北朝鮮と中国内陸部に試験場との間には北京などがあり、中国の大都市上空を通過して、ということは無理であるわけです。
消去法でフィリピンへ。南西諸島は本州よりも、海面の割合が多く都市部も本州ほどではない、前回の経路を費消した場合東日本大震災被災地上空を飛行することにもなりますし、この点も多少日本を刺激しないよう選択肢の選定に入れた可能性があります。そして、最も周辺国では軍事的政治的に無難なフィリピンを選んだのではないか、と。
また、これは外交的に弾道ミサイル試験を恫喝の道具、として用いるのではなく、国内への国威発揚と、そしてなによりも軍部への文民統制として、言い方がおかしければ政軍関係を現状のまま維持させる手段として用いられている、国際情勢に影響を及ぼしている内政問題の延長なのだ、ともいえるやもしれません。
もちろん、我が国としては非常に問題視するべき命題で、必要な措置としてミサイル迎撃能力の整備と能力の向上、加えて最悪の場合の選択肢としてミサイル攻撃に先んじて、アメリカが9.11以降先制的自衛権という単語を生み出しましたが、そこまでいかずとも連続する攻撃を策源地攻撃する選択し、というものは考慮されるべきではありますが。
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