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北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

平成23年度日米共同実動訓練“鉄拳作戦” 自衛隊の上陸能力整備へ向けて演習

2012-03-13 22:37:38 | 防衛・安全保障

■上陸と揚陸は異なる概念

 1月16日から2月23日まで、アメリカでの日米合同、海兵隊第一海兵遠征軍支援下での西部方面普通科連隊主力による鉄拳演習が行われたとのこと。

Img_5399  西部方面総監が訓練担任にあたり西部方面普通科連隊から180名が参加、米海軍コロナド基地とキャンプペンドルトンを訓練地とし、じっさいに揚陸艦ペリリューからロスアンゼルス沖のサンクレメンテ島へ上陸、特殊ボートによる上陸や夜間上陸演習、偵察や水路潜入などの上陸任務を行う上で必要な方法を海兵隊員からの直接教育とともに行われ、米海軍強襲揚陸艦の支援を受け実施、一定の成果を収めた、とのことです。さて、南西諸島防衛を考える上で、自衛隊には揚陸を越えた上陸能力と上陸作戦の実施能力の整備が切迫しています。また、今後の津波災害など想定した場合、完全に孤立した地域へは上陸能力が求められ、こちらも切迫しているところ。

Img_7507  さて、揚陸と上陸ですが、実は根本的に違う概念で、自衛隊の用語としても完全に区別されているものです。そして今回実施したのは上陸に関する訓練、自衛隊は揚陸を能力として、特に冷戦時代に北海道へ部隊を増強する観点から研究と訓練を行ってきましたが、上陸となると難しいところ。この揚陸とは、我が方の勢力がある地域にたいして部隊や物資などを海から陸上へ揚げること。現在の協同転地演習、かつて北方機動演習として輸送艦が北海道の海岸に部隊を揚げていたのは揚陸、ということになります。しかし、一般に軍艦と戦艦が混同されているように、大手マスメディアなどは上陸演習、といっているのですが。

Img_2148  上陸、これは我が方の勢力下にない地域に対して部隊を洋上から陸上へ展開させるもの。当然、揚陸では我が方の部隊が例えば海岸の整地を行うことがありますし、誘導要員も予め展開させることができます。また、揚陸では基本的に反撃は想定する必要がありませんので、海岸線では戦闘を行うのではなく遊撃戦などへの警戒を行うとともに戦闘加入準備を行うなうのですが、上陸では海岸線に接岸すると同時に戦闘となる可能性があります。上陸が終了して地域を確保できなければ揚陸はできません。これら部隊が上陸点から港湾などを占領できるまでの部隊を揚陸可能とする環境を構築すれば、あとは普通の車両運搬船やカーフェリーで続々部隊を送り込めますし、物資も補給できます。

Img_5_202_1  揚陸は味方勢力のない地域においては、上陸した部隊が敵の抵抗を制圧、海岸線を抑えて、それに続いて行われるわけです。したがって、上陸においては、地対空ミサイルの陸上展開に先んじて航空攻撃が行われますので、イージス艦などといった洋上からの防空をおおこなうひつようがありますし、上陸する地形はどういった状態となっているのか、隠密に偵察を行う必要があります。上陸と同時に反撃が行われないよう、多用途ヘリコプターにより内陸部へ対戦車戦闘部隊を送り込む必要があり、最初にエアクッション揚陸艇から部隊を上陸させる、という方法は採ることができません。

Img_1360  輸送艦は海上自衛隊を俯瞰すれば数は少ないものの、おおすみ型輸送艦三隻を軸に高い能力があります。日本の国土を考えるともう少し数は必要ですが、エアクッション揚陸艇を搭載して水平線の向こう側から部隊を送り込める揚陸艦、アメリカを除けばかなり少ないのが実情で、3隻というのは質的に大きいといえます。また輸送ヘリコプターとしてCH-47を陸上自衛隊と航空自衛隊で75機を保有していますので、輸送能力は、実は世界的にみても高い水準にあるのですが、その他にどういった装備が必要となるのか、どういった地域にどう行った部隊を送り込めばよいのか、その手順はどのようにして進めるのか、このあたりは装備とともに未知数となっているわけ。

Img_2937  この点で世界の先を行くのがアメリカ。アメリカ海兵隊は、太平洋戦争において、それ以前の日本陸軍船舶工兵や海軍の輸送艦などの装備を徹底して研究し、上陸の方法論や作戦運用、部隊編成や必要な資材を文字通り命がけで血を流しながら会得しました。失敗すればそれだけ死傷者がでるのですから、文字通り命がけ。そして朝鮮戦争やヴェトナム戦争においてその能力に磨きをかけ、冷戦時代では必要とあらば世界中のいかなる地域に対しても展開できる能力を整備し続け、地域紛争に際しての能力も冷戦後高く維持したまま、今日に至りました。

Img_2946_1  日本は、多くの島々から国土が形成されている以上、この種の能力は必要とされてはいたのですが、南西諸島や小笠原諸島にたいして脅威は冷戦時代の観点からは非常に低く、それよりは北方への軍団規模の機甲部隊上陸という危険性や人口希薄地域への不意上陸への対処能力が求められた反面、北方の脅威は南方には及びにくいという前提での防衛計画や部隊編制が考えられてきたわけです。しかし、南方に海軍力の増強と我が国領域への進出を図る勢力が顕在化したことで、この状況が変わった、ということですね。

Img_7776  だからこそ、島々が取られた場合に奪還する方法として上陸の手法を学ばなければならないことは多いわけです。もちろん、自衛隊に海兵隊を創設する必要はありません。まあ、打撃力としての固定翼機を持たない、過去には持とうとしていた節があるのですが、編成ですし、装甲車の装備数も少なく、他方で戦車や火砲が強力なのですか、前述の通り輸送ヘリコプターを多数装備し、専用の攻撃ヘリコプター、対戦車ヘリコプターと自衛隊では称しますが、こちらも90機を整備、空中機動重視では海兵隊と似た側面があるのですけれども、陸上自衛隊は陸上自衛隊であっていいわけですけれども、その上で揚陸ではなく上陸を行う能力、早急に整備しなければなりません。

Img_0606  こうした意味で今回の演習をみますと、自衛隊からは一個中隊程度、装甲車の派遣などもなく地味な印象は否めないのですけれども、必ずしも大規模である必要はありません。揚陸部隊を迎えるまでの規模を上陸させるのですから。つまり、協同転地演習で行っている揚陸を行うまでの準備として、揚陸部隊を受け入れる部隊を上陸させることができる、そうした基盤を構築しなければなりません。しかし、構築すれば、あとは人員規模以上に、自衛隊は既に揚陸に関するノウハウを既に持っていますので、繋げるだけです。

北大路機関:はるな

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