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北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

最強を誇った英国海軍「凋落」の教訓【前篇】 財政難下の防衛力縮小弊害は我が国へも教訓

2016-08-25 21:27:24 | 国際・政治
■海軍戦略の崩壊
ロイターコラムにて”最強を誇った英国海軍「凋落」の教訓”という興味深い、しかし手厳しいコラムが掲載されていました。

そこで、本日から海上防衛について、その意義や努力という面ではなく、ロイターコラムの内容に触れつつ、一旦喪失すればどうなるか、という事について短期集中連載として、考えてみましょう。イギリス海軍はかつて17世紀にスペインから制海権を奪い、18世紀にはオランダ海軍の挑戦を撃退し、19世紀には世界の制海権を握り、海上交通の自由、という今日に繋がる国際公序を構築しました、20世紀にはドイツの挑戦を破砕し、その後、同じく海洋交通の自由を掲げるアメリカは我が国帝国海軍を打ち破った事で、海上航行自由原則は完全な国際公序として定着しています。

しかし、イギリス海軍は現在、末期状態にあり、予算難を理由として海軍の縮小改編を繰り返し積み重ね、事実上、イギリスは本国周辺の哨戒任務を辛うじて継続できる程度にまで衰退、艦艇縮小と人員縮小は、限られた艦艇の稼働率を維持できず、この数年間繰り返される最新鋭45型駆逐艦の故障漂流、23型フリゲイトの電子系統異常、イギリス政府は漸く、アラブの春暴動化内戦やISIL勢力拡大を受け、その海軍力再建を世界に公約しましたが、英海軍の凋落は客観的な教訓、というものを、同じく財政状況の悪化に曝される我が国も、今後の海上自衛隊の能力維持という視点から、考えなければなりません。

イギリス海軍の戦力は、最早空母は残っていません、海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦に当たるものも無くなりつつあり、後継艦の完成を待っている状況、いったん廃止すれば航空部隊も解体され、その訓練基盤も無くなってしまいます。インヴィンシブル級空母はハリアー運用終了で全艦廃艦が決定し、最後のアークロイヤルも除籍されました。攻撃型原潜6隻、戦略ミサイル原潜4隻、水上戦闘艦19隻、外洋哨戒艦4隻、掃海艇15隻、強襲揚陸艦1隻、ドック型揚陸艦2隻、港湾沿岸哨戒艇18隻、今年アスチュート級攻撃型原潜の三番艦アーティフルが竣工予定です。このほか、補給艦3隻、輸送揚陸艦3隻、航空練習艦1隻、と。新空母クイーンエリザベス級の建造は遅れています。

多用な任務へ対応する水上戦闘艦の不足は、例えば自衛隊の護衛艦よりも遥かに勢力が少なくなり、特に深刻です。45型ミサイル駆逐艦、デアリング、ドーントレス、ダイヤモンド、ドラゴン、ディフェンダー、ダンカン、以上かつての戦艦の艦名を冠した六隻、23型フリゲイト、アーガイル、ランカスター、アイアンデューク、モンマス、ウェストミンスター、ノーサンバーランド、リッチモンド、サマセット、サザーランド、ポートランド、セントオールバンズ、以上13隻、水上戦闘艦戦力は19隻となっています。26型フリゲイトは計画されていますが、42型ミサイル駆逐艦、22型フリゲイト、21型フリゲイト、これらは全て除籍され、停泊実習艦兼宿泊艦に転用された元42型駆逐艦ブリストル以外は、輸出されるか解体されてしまいました。

人員削減に悩むイギリス海軍が出した解決策は、現役艦艇の一部を運行停止し、その乗員を他の簡易回すというものです。外洋航行を行う艦艇は基本的に三交代方式を採ります、一日いつクルー当たり4時間連続勤務を二回行う、という方式です。しかし乗員が不足しますと、二交代制として、4時間連続勤務を一日三回行う必要が出てくるわけです。そこで、水上戦闘艦1隻を運用停止すれば、2交替まで人員が縮小している3隻の水上戦闘艦へ各1クルーを配属させることができる。しかし、忘れてはならないのが、訓練を縮小すれば、その分練度不足による事故が発生する。

日本へ親善訪問するイギリス海軍艦艇は年々減っていますのも、この表れというべきでしょう。数少ない艦艇さえも運用を中止させ、乗員を他の巻に回す苦肉の策ですが、イギリス海軍は23型フリゲイトランカスターを停止、また、画期的な電気推進システムを採用し不具合が続発している45型ミサイル駆逐艦ドーントレスが電気系統破損により半年以上修理に時間を要する事が判明し、この運用を停止し、他の45型に人員を振り分けました。この問題は、単純に練度の低下となります、海軍艦艇は戦闘が任務、航行するだけの船舶ではありません。7月にイギリス海軍の最新型攻撃型原潜アンブッシュが、ジブラルタル海峡にて商船と衝突、損害は大きく半年程度の修理期間が必要となりました、商船を回避できず大破、練度低下の一例といえるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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3 コメント

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Unknown (流線形)
2016-08-25 22:59:45
私も昨日かな、同じ記事を読みました。
記事の話は、減勢にフォーカスしたものではありますが、
増勢時も練度の低下を招く可能性があるので、計画性が重要だと思います。
張り子の虎にしないよう。
先日の潜水艦の耐年を伸ばすという話ですが、色々と乗越えるべき課題があると思います。
①(ソフト面)潜水艦勤務に耐えうる適性のある人員の確保、教育
②(ハード面)15年経過時のオーバーホール&改装を考慮した船体設計
②は、ハードの話なので、①に比べるとハードルは低いのではないかと思います。
①は至難の業かなと。タダでさえ、増員が認められない自衛隊ですから・・・。
適性のある人物は、一定割合でしか存在しないといわれているので、海自人員全体のパイを増やす必要があると思いますよ。
いや、メンタルコントロールの新手法でもって適性の範囲を広げることが出来るようになったというのであれば別ですが、そんな話も聞いたことがないので・・・。
増員すれば、予算が圧迫され、研究開発費、装備更新が遅れる原因になる可能性もあるので、予算のパイも増やさざるを得ないと思います。
ただ、その様な余地が見えない(増税も延期したし)ので、実現可能性は低いかと思います。
今は、水上艦艇自体の増勢も必要だろうと思います。
先日の日本海で実施されたというかの国の対抗演習を考慮するならば、海自も東シナ海だけで戦うことは出来ず、日本海でも戦う必要が出てくることになるでしょう。
BMD艦隊は、BMD対応に専念せざるを得ないでしょうから、対水上、対潜用に、もう1,2セットが必要になりそうです…。
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Unknown (PAN)
2016-08-26 09:43:12
はるな様

この元記事にあるように、ロイヤルネイビーが弱体化の一途をたどっているのは事実であり、かつて世界の海を席捲した面影は、いまやありません。

ですが、現在のイギリスの置かれる国際的な位置づけを考えると、イギリスに限らず欧州諸国の国々は、もはやNATO軍という枠組みの一部として考えるべきではないかと考えます。特に海軍勢力で見ると、エリアでの大きな仮想敵性勢力は、ロシアの北方&バルト艦隊、そして地中海に出てくる可能性のある黒海艦隊のみです。
対するNATO海軍は、クイーンエリザベス級2隻が就役すれば、中型空母3隻(英・仏)軽空母機能を持つ多目的艦2隻(伊・西)、それに最新鋭の駆逐艦フリゲートもそれなりの数が揃います(もちろん、背後には米軍もいるわけです)

また、以前は英海軍が展開していた極東には、それに代わり英連邦のオーストラリアや、今や大国になりつつあるインドがいるわけです。

その枠組みの中で英海軍が求められているのは何かと考えると、なぜこの状況でなお空母戦力を整えようとするのかの答えが見えてくるのではないでしょうか?
NATO海軍の一環としての空母艦隊、かつてのロイヤルネイビーの栄光をかろうじて保つ戦略原潜、そして母国沿岸警備艦隊というのが、現在の状況でしょう。

もちろん、はるな様が指摘している、乗員練度の低下は由々しき事態です。さらにNATO軍とは枠組みが別とはいいながらも、英国のEU離脱が、今後どのような影響をもたらすのか未だ不透明ではあり、けして安心できる状況ではありません。

翻って、同じ大陸周縁部に位置する島嶼国家である、我が国はどうでしょうか?北にロシア極東艦隊、南西に中国、そして北朝鮮と、油断ならぬ勢力に囲まれており、隣国・韓国もけして友好な状況とは言えません。米第7艦隊はおりますが、敵性勢力の数も多いのが現状です。
気を付けなければならないのが、同じ海軍国であった英軍の縮小を、そのまま我が国に当てはめようとする愚挙でしょう。英国と我が国では、置かれている立場がまるで異なるのですから。
返信する
Unknown (ドナルド)
2016-08-27 09:03:46
はるな様

英国海軍に関するこの記事は、英国人の皮肉・怒りがこもっている点があり、読むときには注意が必要です。

1:英国海軍は沿岸海軍ではなく、遠征海軍。
英国は沿岸警備隊をもたず、海軍もそうした装備が少ない。一方で、7万トンの空母を2隻建造しようとしており、給油艦も6隻(現有は4隻)、これとは別に補給艦も3隻もちます。ヘリ空母1隻、LPD「アルビオン」級を1隻+予備に1隻、LPD(A)「ベイ」級を3隻もち、毎年大規模な上陸演習もしています。6隻のSSNは大西洋とインド洋を走り回って(潜り回って?)います。

ペルシャ湾には常に駆逐艦・フリゲート艦2隻(時々1隻)、LPD(A)「ベイ」級1隻、機雷掃討艇4隻がおり、これに加えてNATO常設艦隊か南大西洋に、フリゲート艦1隻を派遣しています。

カリブ海に哨戒艦(巡視船掃討)か給油艦、フォークランド諸島に哨戒艦を常時展開しています。

沿岸でいうと、あとはフリゲート艦1隻がSSBNの露払いも兼ねて「当直」に立っており、もう一隻 Fleet Ready Escort という名の「当番」艦があります。(こうした当番は海自にもあると聞いています)。

小さくなってしまったのは事実ですが、沿岸海軍ではないです。むしろ沿岸を放置して、遠征に特化した海軍になっています。

2:潜水艦の事故
先月の事故をもって「練度が下がった」とは言えないのでは?同様の事故なら、アメリカも日本も、これまで何回か起こしてきていますので。

3:もって他山の石とすべし
というわけで、凋落は間違いないですが、日本よりも優れているところも多いです。海自は日本沿岸の戦闘力に関しては、英海軍より格段に優れていると思いますが、遠征力は数分の一以下です。

英軍が苦しんでいるのは、数が足りない事だと思います。2008年のリーマンショックの「前」に、7万t空母2隻の夢を見たために、艦隊整備予算のバランスが崩れてしまったと思っています。あとは、造船能力がかなり低い。日本もここは非常に注意しないといけません。
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