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仏独次期哨戒機へP-1哨戒機提案!ロシア潜水艦脅威顕在化へ急務のNATO対潜能力再建

2018-04-28 20:02:29 | 先端軍事テクノロジー
■フランスドイツ将来対潜哨戒機
 P-1哨戒機が輸出されるかもしれません。フランスドイツ将来対潜哨戒機としてです。

 フランスドイツ将来対潜哨戒機へ海上自衛隊が運用する川崎重工製P-1哨戒機が提案されるとの驚きのロイター報道がありました。ロイター報道といえばF-22戦闘機へF-35戦闘機関連技術を搭載する新型機を日米共同開発として航空自衛隊F-2戦闘機後継機へ提案したという、報道があったばかりですが、改めてP-1哨戒機輸出という報道には驚きでした。

 P-3C哨戒機とアトランティック哨戒機を運用するフランス海軍、ドイツ海軍ですが、共に老朽化が進んでいます。哨戒機老朽化の一方、欧州では北海やバルト海、北大西洋においてロシア潜水艦の行動が活性化しており、ウクライナ東部紛争介入やクリミア併合を契機に対立が激化するロシアと欧州の緊張状態を背景に、新型対潜哨戒機が必要となりました。

 P-1哨戒機を原型とする新型哨戒機をフランスドイツが開発する、というもので、既に海上自衛隊において運用実績のある哨戒機を原型とする低リスクの開発計画を提示したものです。P-1哨戒機は量産が進み、一定程度の量産効果による費用低減が圧制されているほか、先日海上自衛隊が中国新型原潜商級を捕捉したように自衛隊対潜能力の高さで知られます。

 P-3C哨戒機での経験を基に、P-1哨戒機は高高度からの索敵から潜水艦攻撃への低高度までの機動性を確保するとともに、長大な航続距離とHPS-106レーダー等先進装備を固めています。最新鋭哨戒機としてアメリカ製P-8Aがありますが、旅客機を原型としている為、高高度の索敵から一機に低空での攻撃へ移行する等の運動性ではP-1哨戒機に及びません。

 イギリス将来対潜哨戒機へ、P-1哨戒機は2016年に提案されていますので、今回のフランスドイツへの提案は、防衛装備品輸出という意味で目新しいものではありません。また、防衛用航空機輸出はインドへのUS-2救難飛行艇輸出交渉やフィリピンへの中古TC-90練習機供与等の実績もあります。ただ、P-1哨戒機輸出が実現すれば巨額契約となりましょう。

 P-8A哨戒機、イギリスへのP-1哨戒機輸出提案ではアメリカ製ボーイング737原型の新型哨戒機との競合に一敗しました。イギリスはニムロッド対潜哨戒機全廃以降数年ぶりの導入で、P-8A採用の背景には、同盟国アメリカが採用しているため、イギリス軍への技術情報接近の容易さと、評価試験不要という運用リスクの低さが理由として挙げられています。

 フランスドイツ将来対潜哨戒機候補にはP-1以外にも仏伊ATR社製ATR-72ターボプロップ旅客機を原型とするATR-72-ASW対潜哨戒機構想、エアバスA-321旅客機へ対潜機材を搭載するA-321-MPA構想、ダッソーファルコン900ビジネスジェットの対潜型、アメリカ製P-8A哨戒機が提案されています。また、ロッキード社はC-130輸送機へ対潜機材を搭載するC-130-ASWを提案する可能性もあるでしょう。

 ベルリン国際航空宇宙展へP-1哨戒機2機を派遣し、政府は輸出交渉を主導するかまえです。政府は何故P-1哨戒機を輸出しようとしているのか、その理由は量産効果を高める事で自衛隊所要機の費用を低減する目的があります。防衛省は多年度一括取得として20機を一か年で取得する事で費用一機当たり130億円まで低減、実に15%程度圧縮できています。

 しかし、その輸出は簡単ではありません、P-1哨戒機は純国産機、元々が輸出を想定した設計ではないため、エンジンを含めIHI製エンジンを採用する等、フランスやドイツの既存航空機との部品互換性等、汎用性の面で限界があります。また、センサー等も互換性は想定外、原型機として開発する場合、エンジンとセンサー等、改造点は多岐に上るでしょう。

 加えて、P-1哨戒機を輸出する場合、どこまでの情報開示を行うのか、特に海上自衛隊が運用するセンサーやデータリンク系統を合わせて情報開示を求められた際の経験が少なく、防衛秘密と装備移転という相反する要求の妥結点を見出す難しさ、また定期整備や予備部品等、航空機引き渡し後の支援体制をどう構築するかについても、未知数の部分は不安だ。

 一方、海上自衛隊はP-1哨戒機を60機程度取得し、更にP-1哨戒機を原型とする電子情報収集機や洋上早期警戒機等の派生型を研究中です。一方、フランスやドイツは対潜哨戒機を装備し、その保有数も両国合わせ25機、世界的に見た場合、決して少なくは無いのですけれども、世界に二桁の数の哨戒機を保有する国も稀有なのですが、自衛隊よりも少ない。

 ATR-72-ASW対潜哨戒機構想、エアバスA-321-MPA構想、といった独自案に対してならば、P-1哨戒機の方が既に完成した機体を原型と出来、そしてなにより新規開発となる上記機種よりもすでに量産効果の部分で優位性があります。こうした意味では輸出は手探りの部分も多いのですが、必ずしも不利な要素だけではなく、動静を慎重に見守りたいですね。

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1 コメント

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Unknown (流線形)
2018-04-28 22:15:44
今回29日からのドイツでのP-1展示の件は、Jane's Defense weekly の27日版に出ていますね。
P-1に絞った記事が出ているので、かなり注目を集めているようです。
主役は、CH-53Kのようですけど。
(Defense News, Aviation Week, Jane's Defense Weeklyが記事にしている。)
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