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【榛名備防録】戦艦とはなにか?主力艦とは?ワシントン海軍軍縮条約に見る主力艦の定義

2021-10-30 14:41:24 | 防衛・安全保障
■ワシントン海軍軍縮条約
 戦艦、何しろ現役の戦艦が地球上に一隻も残っていませんので普段に使う単語でも定義が分らないものがあります。

 世界史において、特に高校世界史においてワシントン海軍軍縮条約を説明する際、規制対象を戦艦と巡洋艦と説明しているものがありますが、これは戦艦と巡洋戦艦を主力艦と位置づけていますので、正しくはありません、そしてこのワシントン海軍軍縮条約の大きな意味は、戦艦とは何か、という一種哲学的な定義を明確としたことにあるのでしょう。

 戦艦とは、これはワシントン海軍軍縮条約が主力艦の定義を行う際、この定義に含まれない補助艦というものを明示しまして、この補助艦が巡洋艦や駆逐艦を含む、条約の対象外というものでした。要するに補助艦の中でも巡洋艦が最大のものですので、条約を越える大きさの巡洋艦は戦艦となり、補助艦定義内の戦艦は巡洋艦となって枠外になることに。

 戦艦は当時機動力と火力に防御力を兼ね備えた最強の兵器であり、核兵器の存在しない時代には沿岸地域にもっとも大きな脅威を及ぼすものでした、このために第一次世界大戦終戦後の平和機運を次の軍拡に展開させぬよう、建造中の主力艦を全廃し既存戦艦と巡洋戦艦や消えつつあるが維持される装甲巡洋艦をどうするか考えてゆこう、というものでした。

 主力艦の定義は艦砲が8インチ砲以上、そして排水量1万t以上、となります。するとドイツが1930年代に建造したグラーフシュペーなど装甲艦は28cm砲を搭載し1万3000tありますので、戦艦と定義されてしまうのですが、ドイツは第一次世界大戦に敗戦したため、そもそもワシントン軍縮会議に出席しておらず、規制を受けるものではありません。

 ワシントン海軍軍縮条約においてもう一つ主力艦に加えて航空母艦が規制対象となりました、戦艦と巡洋戦艦と空母が規制対象、世界史は細かくなることを学校教育においてふさわしくないためと考えたのか、主力艦意外を詳しく説明しません。そして発効は1923年8月17日ですので、空母は3万3000tまで、といわれても当時世界に殆ど空母などない。

 空母が規制された背景には、会議において日本はすでに空母鳳翔の建造を開始していましたが、これが将来大きく進化した場合、島国である日本は太平洋上から空母による奇襲を受けることを警戒し、空母の全面禁止を提案し、受け入れられなかった一方、空母の保有を、無制限としない規制を含むこととなったためです。先進的でも旧態依然でもあった。

 空母は3万3000tを2隻まで、日本の場合は巡洋戦艦赤城と戦艦加賀がこれにあたるのですが、ワシントン海軍軍縮条約は建造中の戦艦と巡洋戦艦の全廃を盛り込みましたので救済措置として建造が進んだものは空母に転用してもかまわない、という考えです、1920年代、空母はともかく艦載機はまだ初歩という段階故、あまり注視されなかったともいえる。

 空母規制、しかし旧態依然と説明したのは、空母の定義を明確化しておかなければ、飛行甲板を持つ戦艦というものの誕生が懸念されたためです。要するに1920年代の艦載機はまだまだ性能が限られていますが、16インチ砲や18インチ砲を持つ航空母艦が戦艦を補完しないように、搭載艦砲は8インチ以下8門まで、と艦砲の方が規制されることとなります。

 併せてワシントン海軍軍縮条約では要塞建設に規制がつきました、これは数ではなく、新規建設禁止地域を明示し離島を要塞化しないようしたものです。ただ、補助艦は建造自由という誤解を招き、条約型巡洋艦の建造や大型駆逐艦の量産へ口火を切ることとなったため、世界は続いて補助艦の建造を制限するロンドン軍縮会議を開く流れに乗ってゆきます。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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