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陸上防衛作戦部隊論(第四四回):装甲機動旅団編制案の概要 戦略輸送と民間輸送基盤

2016-01-23 22:39:46 | 防衛・安全保障
■戦略輸送と民間輸送基盤
国土防衛を主任務とする自衛隊の戦場は日本本土です。

戦略輸送と展開のための輸送ですが、着上陸から24時間以内には国土の如何なる地域においても一個連隊戦闘団による防御戦闘を開始し、48時間以内には攻勢に転じなければ、現代陸軍の機動力は国家地方中枢地域への浸透の端緒に就かせることを意味します、着上陸地域へ進出掩護の下での装備と補給品を集中、100時間を目処に師団規模の攻勢への展開と数週間程度を目処とした補給品の集積に依拠した戦闘継続基盤を構築できなければなりません。

この戦略機動に関する運用基盤背景についてですが、基本は現在の陸上自衛隊が骨子とする国土防衛基本指針と合致するものですが、広域師団構想の背景は師団の効率化を背景として基盤的防衛力整備を度外視した機動防衛力を念頭としており、連隊戦闘団配置の離隔が大きくなっており必然的に着上陸点から近傍駐屯連隊戦闘団策源地及び段列地域までの距離が延伸、同時に輸送距離が増大することを意味します。

ここで前回示しました重視すべき点としての民間輸送、すなわち陸運と鉄道のこと。鉄道輸送、自衛隊協同転地演習では鉄道輸送が今なお重点的に行われており、ワム、チキ、といった貨車が最後の活躍を見せています、無蓋貨車や長物貨車に戦車を固定し輸送、という方式は61式戦車まで広範に行われていまして、実際、61式戦車は狭軌鉄道貨物輸送を前提に車幅と重量が画定されました、74式戦車については物理的には通行できる区画が多いということですが、基本的には当時検討されていた新幹線貨物輸送を考慮していたとのことです。

当時は列島改造論に基づく全国基幹路線の新幹線化が大きく掲げられており、現実性があった案です。しかし、実現しておらず、さらに大型の90式戦車、10式戦車が制式化されるにいたり、狭軌および新幹線を含めての鉄道輸送は考慮されなくなりました。その一方で73式装甲車と96式装輪装甲車の鉄道輸送は維持されており、鉄道輸送への依存度がみてとれるところ。

そこで、ログパック方式として必要な物資をコンテナ化しタグ管理、必要な物資はコンテナごと輸送するという体制を構築して置くならば、鉄道貨物輸送規格のコンテナを採用することで迅速に輸送でき、コンテナ輸送は貨物列車はもちろん、コンテナ輸送船や民間トラックはもちろん、そのまま輸送機に搭載する、さらには輸送艦の甲板はもちろん、砕氷艦しらせ、でも輸送することが可能となるでしょう。

PLSトラックのコンテナ輸送能力の利点について前回、コンテナヤードから必要な物資を電子タグにより管理し適宜必要な装備の支援へ機材を輸送できる点としましたが、上記の鉄道輸送や民間貨物船の応用により、従来自衛隊が独自に構築した輸送機や輸送艦による輸送車両の補完を越えた戦略展開能力の付与が可能となります。国土産業基盤への依存は外征型軍事機構ならば輸送力の脆弱性、湾岸戦争時の在欧米軍展開時の戦車輸送車不足等に上げられる問題点に繋がりますが、我が国自衛隊は専守防衛、師団規模の外征を念頭に置く必要が現行憲法施政下では考慮する必要がありませんので、この点の問題は生じません。

北大路機関:はるな くらま
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8 コメント

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コンテナ規格 (流線形)
2016-01-24 08:33:16
日本で見かけるコンテナ規格には、次の3つだと思います。
・40 feet(主に海運)
・20 feet(主に海運)
・鉄道コンテナ(JR貨物独自規格)
ただ、最近では、JR貨物でも20、40 feetコンテナを積んで走る姿を見かけるようになりました。
では、どの規格、サイズを中心にコンテナ化を進めるのか検討が必要でしょう。
考慮すべきポイントは、次のことでしょうか?
 ・民間トラックで運べるコンテナサイズと台車の数
 ・海上大量輸送も考え、内航コンテナ船の活用
 ・米陸軍PLSトラックが積んでいるコンテナサイズ(来援時のことを考慮)
そうすると、海運で使用してるコンテナが一番利便性が高く、安く安易に調達できるのではないかと考えられます。
ただ、ブログ主殿が”しらせ”も活用すると仰られていましたが、”しらせ”は、鉄道コンテナにしか対応していなかったと思います(間違っていればご指摘下さい)。
海運コンテナには、色々な用途を考慮し、単なるプレート状のコンテナ、天井側を開けるオープン・トップ・コンテナなどがありますので、汎用性に優れると思います。
例えば、戦車主砲のような長尺物ならオープン・トップ・コンテナを使うとコンテナからの出し入れもスムーズに行えるでしょう。
既に世間に大量にストックされているものを利用するのも手ですね。空コンテナは、神戸港、横浜港などに相当数ありますから、非常時に急遽、数を揃えたい場合にも対応が可能です。(ただし、レンタル料は取られますが…)

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輸送の件 (輸送機)
2016-01-24 09:07:23
輸送に関しては、徹底して空路になるのではないでしょうか。
縦深戦術が取れる国土であるならまだしも、日本のような 一列の島形 国土での防衛戦を考えた時にどうしてもピンポイントにならざるをえない。
それに関しては独軍トランザールほどの大きさで手頃なターボファンエンジン搭載次期南米の主力軍用機となるであろうエンブラエル社製戦術輸送機を数十機導入し、分散配置します。もちろん様々な考え方を持つ国民で構成され、自由と民主主義及び言論思想の自由が保障された現時点では、戦場が日本列島と限定する理由はありませんので、旧満州地域などの縦深戦術を考察にいれますとやはり装輪装甲車及び既に導入済みのブッシュマスター等耐爆専用車による堅牢な車列も未だに有効かと思われます、しかし堅牢な車列を造り進軍していたにも関わらず、あえなく仏軍戦闘機により精密爆撃、装甲ゆえに搭乗者は半死半生で横転した車両から這い出したところを、民間人に嬲り殺しにされるという。リビアの旧指導者が身をもって提示した輸送車両と共に制空権の確保、最低限の対空ミサイル装備の必要性も考察に入れるべきかと存じます。
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Unknown (ドナルド)
2016-01-27 00:02:04
(輸送機)さま

航空優勢がなければ、空路輸送は成り立ちません。本土防衛には使えないと考えます。

また、海外への遠征作戦は、陸自の任務ではありません。憲法が改正されたらその時考えるべきことでしょうし、私個人としても、他国領土への遠征など、軍事的にも経済的にも歴史の評価も、全てにおいて損ばかりで、得るものなく、反対です。

また、一般論として遠征作戦を考えても、米軍ですら兵站は地上輸送が主力です。あれだけテロに苦しむアフガンでも、航空輸送は末端のみで、主力はパキスタン越えの陸路です。

というわけで、兵站の主力が空路になることはないと思います。
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コキ106形貨車 (はるな)
2016-01-28 01:12:21
流線形 様

鉄道貨物輸送ですが、コキ106形やコキ104形Mなど海上コンテナ対応の貨車はJR貨物が相当数保有しています、海上コンテナ緊締装置取り付け改造を施すことで既存貨車にも搭載可能となりますし、前回増勢の必要性を示しましたPLSトラックの能力を考えた場合、海上輸送コンテナを主力とすべきでしょう

しらせ、考えれば極地観測任務の支援車両の能力から、仰るとおりでした
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3t半トラック×1000 (はるな)
2016-01-28 01:17:00
輸送機 様

師団装備は全て輸送すれば3t半トラック×1000という規模となりますので、C-160換算では、それこそ米軍のC-130並の数を揃えなければ輸送できません

それだけ輸送機を揃える防衛力があれば、どの国も日本へ侵攻しようとは考えないでしょうが・・・

旧満州地域などの縦深戦術、しかし、本連載「陸上防衛作戦部隊論」は戦車300両体制のもとでの部隊編制の在り方を模索しているものです、法的に可能かは別として、戦車300両、海外に出せる戦力は全体の二割を上限として、60両程度の戦車でご指摘の運用、なんとか出来るものとお考えなのでしょうか
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空輸ですべて対応できるだけの能力があれば・・・ (はるな)
2016-01-28 01:32:20
ドナルド 様 こんばんは

一個師団を空輸できる空輸能力、装甲機動旅団であればC-17以外輸送出来ない重装甲車両だけで50両弱とPLSトラックなど50両、C-2輸送機がなければ輸送出来ない装甲車両が100両以上、各種車両600両とコンテナ等、というところ、航空機動旅団の航空機等も大型貨物となります

10往復と換算しまして空輸による展開と戦闘継続物資輸送、必要輸送機はC-17輸送機20機+C-2輸送機130機+C-130J輸送機250機(C-160ならば550機程度)、というところでしょうか、これだけ空輸能力があれば、どの国も日本に戦争を仕掛けようとは思わないでしょうが、ちょっと厳しいですよね

イラク戦争で米軍はイラク北部へ戦車5両と装甲戦闘車5両に軽装甲車両16両、軽車両37両、トラック12両を24機のC-17で輸送した実績があります、湾岸戦争ではイラク領内の第101空中機動師団段列地域へ550機のC-130と自走可能な車両を動員してようやく物資を輸送しました、空挺部隊以外の空輸というものは意外と難しいという印象です
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装備だけ輸送してもね。 (アリさん)
2016-02-04 22:32:51
装備(戦車や火砲)だけを輸送しても、戦闘はできない。輸送直後の装備には、輸送の関係(火災防止や気圧による影響)のため燃料が十分入っていません。
このため、装備の卸下場所において早急に補充しないと燃料切れになる。
あの大雑把な米軍の戦闘シュミレーターでも、燃料を補給しないと動かなくなります。
「装備品、燃料なければ、ただの箱」
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輸送の話題に需品の論点を突かれましても (はるな)
2016-02-07 16:25:30
アリさん 様 こんにちは

輸送の話題に需品の論点を突かれましても、戦略輸送は輸送科の任務で、ご指摘の点は段列地区での需品科の任務というお話ではないでしょうか
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