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【くらま】日本DDH物語 《第一〇回》第二次防衛力整備計画八〇〇〇t型対潜空母構想・続

2017-04-22 20:22:48 | 先端軍事テクノロジー
■防衛用対潜空母の研究
 第二次防衛力整備計画にて、研究の一つとして基準排水量8000tの対潜空母という構想があった、と前回紹介しました、この視点をもう少し見てみましょう。

 対潜空母としての呼称の下、基準排水量8000t程度の全通飛行甲板型護衛艦へHSS-1対潜ヘリコプター18機集中搭載、呼称は“対潜空母”と、米海軍の呼称区分をそのまま採用していました。当時はアメリカ海軍では大量の大戦艦の戦後利用として、対潜空母と攻撃空母を分けて採用しており戦時中の護衛空母やエセックス級空母の戦後区分の一つでした。

 海上自衛隊が踏襲した対潜空母という呼称、アメリカ海軍の1950年代末に完成したF-4戦闘機、航空自衛隊では現在も現役のF-4EJ改の原型ですが、このF-4は全天候の超音速戦闘機という優れた性能を持つ一方、機体規模が従来の空母艦載機よりも相当大型である為、第二次大戦の大型空母であったエセックス級でも搭載が難しく、区分変更されました。

 HSS-1はアメリカ海軍において1955年に配備が開始されたばかりの最新鋭航空機で、海上自衛隊へ導入が開始されたのは1958年、アメリカ海軍配備開始後実に三年後に部隊配備が開始されたわけです。自衛隊は第一次防衛力整備計画にて、このHSS-1をノックダウン生産にて20機導入、海上自衛隊の対潜哨戒機としてはこのうち17機が配備されています。

 HSS-2として海上自衛隊は続いて、更に進んだ新対潜哨戒ヘリコプターの導入を開始しており、ミサイル護衛艦あまつかぜ竣工は1965年ですが、海上自衛隊はその前年、1964年からHSS-2の受領を開始しています。この当時の新装備導入間隔は今日から見れば非常に短期間で、構想中にHSS-1からHSS-2の時代が到来してしまった、という状況ですね。

 対潜ヘリコプターと護衛艦の連携、攻撃兵装を豊富に搭載する護衛艦の前方にソナー搭載ヘリコプターと展開させ吊下ソナーにより駆逐艦のソナー索敵圏外の情報を収集、必要であれば魚雷爆雷搭載の攻撃用ヘリコプターが協力し発見した潜水艦を直接攻撃します、当時の対潜魚雷は草創期、目標直上から投下する事が望ましく、航空機運用が理想的でした。

 しかし、対潜空母の導入が現実的であったかと問われれば、幾つかの視点が必要です。まず、18機のHSS-1を搭載する母艦の建造ですが、海上自衛隊には17機しかHSS-1が装備されず、沿岸哨戒に当たる陸上配備用を含めれば17機では全く足りず、仮に対潜空母を常時一隻運用すべく二隻配備するならば最低でも55機以上のHSS-1が必要となるでしょう。

 構想が短期的なものであったのは、この構想が具体的な設計作業に入る前に、HSS-1の調達が終了し、新型のHSS-2への対潜哨戒ヘリコプター調達外交した点から端的に読み取る事が出来るかもしれません。その一方、海上自衛隊では部内研究の一つとして、HSS-1のようなヘリコプターに留まらない、固定翼機を搭載する水上艦艇が模索されていました。

 HSS-2,シーキングと愛称を冠する大型対潜ヘリコプターは、1973年に海上自衛隊初のヘリコプター搭載護衛艦はるな竣工と同時に初の艦載機となった航空機でした。そしてHSS-2の改良型であるHSS-2A,さらに改良を重ねたHSS-2Bと対潜機材や飛行能力が順次向上し、多くの航空要員を育てる名機となり、はるな建造前夜にもその艦上運用が模索されましたものが上述の艦艇です。

 対潜航空母艦として基準排水量23000t、ヘリコプター18機と固定翼哨戒機6機を運用する実質的な対潜空母も同時期に検証されたとされ、海上自衛隊は沿岸用としてアメリカ海軍のS-2艦上哨戒機を導入する際、要員教育をエセックス級対潜空母プリンストン艦上で実施した事が、一説によればその後の航空母艦取得への布石ではないかとも言われています。

北大路機関:はるな くらま
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