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中東危機と自衛隊アラビア海派遣【2】戦艦伊勢-日向,北号作戦の成功と南号作戦商船の悲劇

2020-01-11 20:00:10 | 国際・政治
■自衛隊責務はシーレーン防衛
 海軍の任務はシーレーンの防衛、とはよく説明されるのですが海上自衛隊も船団を見捨てるよりは護衛する事が国民には期待されているのだと思います。そこで歴史の話を一つ。

 北号作戦。戦艦伊勢と戦艦日向を中心に1945年2月10日に強行された物資強行輸送の歴史を思い出せば、護衛艦を派遣すべきでないと主張するならば代案に護衛艦隊を持って行け、という反論程度が必要になるでしょう。自衛隊を派遣できない危険な海域に可燃物を満載したタンカーを日本経済の為に継続して運べ、とはまさにそういう事に他なりません。

 伊勢、日向、軽巡洋艦大淀と駆逐艦3隻からなる輸送部隊は太平洋戦争末期、シンガポールのセレター港から広島の呉軍港まで、失陥しつつあるフィリピンの横を航行し、物資を強行輸送の命令が下されます。前年1944年10月にはフィリピンに来寇するアメリカ軍を阻止せんとするレイテ沖海戦に海軍は壊滅的被害を受け、取り残された戦艦群が参加する。

 完部隊として第四航空戦隊と第二水雷戦隊、掻き集めた可動艦艇で輸送が決定し、航空戦艦である伊勢と日向、艦隊旗艦用の大淀には飛行甲板と格納庫があり、航空揮発油ドラム缶10280個と普通揮発油ドラム缶326個,ゴム3620t、錫2760t、タングステン164t、水銀44t、亜鉛40t、技師疎開1200名と航空機揮発油タンク270tを搭載し輸送に臨みました。

 松田千秋少将率いる完部隊は2月10日夕刻にシンガポールを出航、12日にヴェトナムのカムラン湾で潜水艦の攻撃を受け駆逐艦朝霜が撃退、13日には南シナ海上で潜水艦複数の攻撃を受けるも戦艦艦砲を含む反撃で回避成功、フィリピンから発進のB-24爆撃機による哨戒をスコールに隠れ回避に成功します。14日、台湾から友軍駆逐艦と合流に成功する。

 台湾海峡を突破したのは15日で、燃料が枯渇し始めた駆逐艦に戦艦からの給油を実施、17日には中国浙江省沖の友軍制海権内まで到達します。19日には遂に朝鮮半島まで到達、我が軍の戦闘機部隊制空権に入りました。20日、こうして参加艦艇は一隻も失われず、呉軍港に到着、無謀な作戦と云われた強行輸送は奇跡的に成功したのでした。奇跡と云われた。

 戦史研究では、連合軍に察知された輸送作戦が奇跡的に成功した事が強調され、実は私も大昔には凄いなあと驚いたものですが、同時期に実施された南号作戦、民間船による強行輸送が並行して実施され、殆ど駆逐艦の護衛さえもつけられず、参加商船30隻中の24隻が失われた輸送を知ってからは、単に奇跡の成功だけに甘んじていてよいのか、と考える。

 南号作戦は特攻輸送として海軍が徴用商船や特設艦船により実施したもので、15回に渡り実施されました。しかし作戦発動の1945年は、潜水艦による通商破壊という甘いものではなく沖縄戦間近、空母機動部隊である第38任務部隊が空母10隻以上で航行する船舶を無差別攻撃し、更にフィリピンの陸上基地からはB-24重爆撃機が船団攻撃に当っていました。

 せりあ丸、タンカーが単行で航空燃料17000tの輸送に成功したヒ88A船団の事例がありますが、ヒ88J船団のように輸送船7隻全滅という事例もあり、レイテ沖海戦で壊滅したとはいえ多数の戦艦や巡洋艦と駆逐艦が本土へ帰還する際に、こうした南号作戦の船団を護衛していたならば、海防艦が護衛するより戦艦大和の方が護衛には適していたでしょう。

 ペデスタル作戦。船団護衛について対照的作戦はイギリス海軍が1942年8月に実施したマルタ島強行輸送の事例が挙げられます。地中海艦隊司令部の置かれるマルタ島はイタリアシチリア島の南に位置し、アフリカと欧州を隔てる枢軸の海上輸送における重大脅威でしたが、地中海の孤島であるマルタ島は真水が僅かで重油海水濾過装置稼動が不可欠でした。

 マルタ島強行輸送はヴィガラス作戦やハープーン作戦として幾度か実施されるも機雷敷設巡洋艦による輸送成功等効果は限られました。これはマルタ島占領を呼号するドイツ軍がイタリア海空軍と共に厳重に海域を閉鎖しており、ヴィガラス作戦では巡洋艦中心の護衛部隊に対しイタリアは戦艦リットリオを中心とした艦隊決戦を挑み、船団を阻止している。

 ペデスタル作戦に際してイギリスは不退転の覚悟で戦艦ネルソン、ロドネー、空母ヴィクトリアス、インドミタブル、イーグル、アーガス、巡洋艦7隻と駆逐艦24隻を護衛につけ、輸送船14隻を護衛しました。この輸送作戦でドイツ軍とイタリア軍は1000機による航空攻撃で妨害すると共に巡洋艦6隻と駆逐艦12隻からなる艦隊により阻止を試みました。

 イギリス海軍はこの作戦で空母イーグルと巡洋艦2隻に輸送船9隻を失いますが、当時世界最大のタンカーオハイオ等が輸送に成功しています。大損害を受けましたが、マルタ島失陥は回避される事となり、輸送の燃料により北アフリカ方面からの航空部隊を増強に成功、逆にドイツイタリア軍は地中海航路途絶で北アフリカ戦線を維持不能となっています。

 自衛隊にホルムズ海峡強行輸送を行えと期待するものではありません。しかし、不測の事態とともに日本タンカーコクカカレイジャス号が襲撃され、革命防衛隊によりイギリスタンカー拿捕事件等が相次いだのは昨年の事です。そして今回の米軍基地襲撃事件とソレイマニ少将空爆や米軍基地ミサイル攻撃と続いたように、事態は突沸し得る認識が必要です。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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