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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】イギリスAJAX偵察車欠陥とJLTV統合軽戦術車輸出,VBCI装甲車ギリシャ仕様

2021-11-08 20:13:57 | インポート
■週報:世界の防衛,最新12論点
 今週は陸軍関連の装甲車両や砲兵装備の話題を中心に12論点を紹介しましょう。

 イギリス国防省は懸案となっているエイジャックス装甲偵察車の騒音振動問題について作戦配備延期を発表しました。エイジャックスはオーストリアスペイン共同開発のASCOD装甲戦闘車を原型として40mmCTA機関砲と複合センサーマスト及び斥候兵4名を機動する装甲偵察車だが、開発に長期間を要し2017年部隊配備計画が2021年に遅延していた。

 エイジャックス装甲偵察車の騒音振動問題は、振動が激しく30km/h以上の速度では行進間射撃が不能となり、また長距離機動試験を実施した際には乗員が長期間振動に曝される事で平衡感覚等に異常をきたすという問題が指摘される。イギリス軍の装甲車両量産計画はほぼ全て問題を抱えており、エイジャックスのみは遅延以外は、順調と信じられていた。
■フクス2装輪装甲車輸出へ
 フクス2装輪装甲車は装甲戦闘車を除けば最も高級な多目的装甲車と云い、日本も少子化で人命が大切となるのだからこの種の装備を取得するべきと思う。

 ドイツのラインメタル社はフクス2装輪装甲車について第三国への2億5000万ユーロ相当の契約を締結したとの事、この契約には車両と共に初度整備器具が含まれるということで、2021年から2023年に納入されるとのこと。なお、具体的な引き渡し総数や、顧客がどの国であるかについては明らかにしていません。フクスとはキツネを意味する独語です。

 フクス2装輪装甲車は六輪式で車内に広い貨物区画を有し、人員輸送に用いられますが各種装備や補給品の第一線への輸送能力を持ち、高い防御力と操行性能で知られます。フクスは主として湾岸戦争前に193両をアメリカが導入し各国が続いたNBC防護車型の輸出が、汎用装甲車としては高価で、近年アルジェリアが多数を導入するまで振るいませんでした。
■ホーケイ軽装甲車試作車
 PMV-Lホーケイ軽装甲車というのはアメリカのJLTV統合軽戦術車輛のこと。

 オーストラリア軍はPMV-Lホーケイ軽装甲車試作車をタレスオーストラリア社より受領しました。PMV-L とはモトテクトモビリティビーグルライトの略称となっていまして、PMV-Lホーケイ軽装甲車は2015年10月に発表されたLAND121フェーズ4として陸軍に導入される1100両の軽装甲車両で、この開発と導入には20億ドルが投じられています。

 ホーケイ装輪装甲車は既に大量導入されているブッシュマスター耐爆車両よりも一回り小型となっていて、既にオーストラリアビクトリア州ベンディゴのタレスオーストラリア社ではフルレート生産が開始、2023年から第一線部隊配備が開始されます。オーストラリア軍はトラックを含めた車両体系の装甲化を大車輪で進めており、これは小型車に当ります。

 オーストラリア陸軍では第一線での警戒監視任務やコンボイ護衛にソフトスキン車であるランドローバーを運用していますが、防御力の欠如が問題視されていました。ホーケイはアメリカのJLTVに範を採った装甲車両で自重は7t、増加装甲により10tまで対応し全長5.78mと全幅2.396m、四輪駆動で12.7mm、乗員は4名から最大6名が乗車可能です。
■ピロクテーテス装甲車提案
 ピロクテーテス装甲車、自衛隊は16式機動戦闘車の運用を開始しますと移動の度に高速道路などで撮影された写真がSNS等で投稿され、不思議な抑止力となっている、参考と成らないか。

 ギリシャのDEFEA2021防衛展へフランスのネクスター社はVBCI装輪装甲車ギリシャ軍仕様を展示しました。DEFEA2021防衛展は7月13日から二日間に渡り開催されたもので、この会場においてギリシャ軍は長らく運用していた7.62mmのG-3小銃を5.56mm新小銃に置換える等の幾つか注目すべき発表があり、この内の一つがVBCIの展示でした。

 VBCI装輪装甲車はフランスが開発した装輪装甲車で、ギリシャ神話の英雄ピロクテーテスの愛称が冠せられると共に原型の25mm機関砲よりも強力な40mmCTA機関砲搭載となっていました。VBCIは採用が決定こそしていませんがギリシャ軍では1981年に導入したレオニダス装甲車の旧式化が進んでおり、ピロクテーテスはその有力な選択肢となります。

 ピロクテーテスは基本的にVBCI装輪装甲戦闘車の設計を踏襲していまして、VBCIは小型有人砲塔を搭載し、車長が砲塔ではなく戦闘室前部を定位置とし車載モニターで全般状況を指揮、下車戦闘に際して砲手に車両指揮を任せ一時的に下車展開する独特の設計となっています。これはVBCI独特の要員配置ですがピロクテーテスでも踏襲されるもようです。
■スプルート両用軽戦車
 125mm砲を搭載したスプルートSDM1水陸両用軽戦車は74式戦車よりも強力な装備であり空挺部隊へも配備される。

 ロシア軍採用へ開発が進められるスプルートSDM1水陸両用軽戦車は初の実弾射撃試験を実施した。スプルートSDM1水陸両用軽戦車はT-72戦車やT-80戦車と同型の2S25125mm戦車砲を搭載する軽戦車で、ロシア軍では今後空挺軍などに配備されるBMD-4M空挺戦闘車や海軍歩兵部隊への配備を見込むとともに輸出も展望している。

 スプルートSDM1水陸両用軽戦車は第三世代戦車並の打撃力を輸する軽量な戦闘車両で、水陸両用作戦や地域防衛任務等に資する。既に寒冷地での試験は完了しているが、今回の射撃試験は黒海沿岸で実施され、また水陸両用能力の試験なども経ているが、今後は総距離8000kmに及ぶ長距離機動試験を実施、友好国での砂漠地域運用試験等を行うもよう。
■CM-32雲豹戦車駆逐車
 16式機動戦闘車を国産できる日本は防衛産業も防衛力の一翼という認識で保護してゆくべきでしょう。

 台湾陸軍が開発を進めるCM-32雲豹105mm戦車駆逐車についてアメリカより戦車砲の技術協力が決定しました。CM-32雲豹装輪装甲車は20mm機関砲塔搭載型と機関銃搭載型の量産が進められる台湾の中華民国国産装輪装甲車であり、八輪構造を採用、中国の軍事圧力を受ける中で遅れている国軍近代化への切り札的存在の装輪装甲車となっています。

 CM-32雲豹105mm戦車駆逐車はアメリカからM-68戦車砲2門を調達しましたが、台湾に戦車砲を製造する技術は無く、今回の決定ではM-68戦車砲の試験協力が決定、また台湾ではM-68戦車砲ライセンス生産協力も要請しています。M-68は旧式ではありますが、アメリカ陸軍ではストライカー機動砲の主砲として現役、T-72戦車等を充分撃破可能です。
■レオパルド1戦車を近代化
 レオパルド1と云えば74式戦車よりも大分古いですが、自衛隊では引退する故の放置に対してブラジルは未だ近代化するという。

 ブラジル陸軍はレオパルド1A5戦車を近代化改修により2039年まで運用継続する方針です。これは陸軍が発表した陸軍戦略計画2020の一環として陸軍資材局が公開したRFI情報依頼書に示されていたもので、現在装備するレオパルド1A5BR戦車220両のうち、116両を近代化改修する計画です。この戦略計画は2039年まで継続される点が根拠となります。

 レオパルド1A5BR戦車の近代化改修は、砲塔システムの電気駆動式システム更新、操縦用暗視装置の更新、車内エアコンの新設、RWS遠隔操作式銃搭の新設、EMES18消火装置の追加、C2指揮統制システム連接能力の追加、また追加式装甲の装着能力等を盛り込む。ブラジル陸軍は2009年にドイツより中古レオパルド1A5と初期型A1を導入開始しています。
■台湾M-109A6配備開始
 75式自走榴弾砲は車幅が16式機動戦闘車と同じであり砲塔を移植し火力機動戦闘車を開発すべきだったと思うのですが。

 中華民国台湾は新たに導入したM-109A6自走榴弾砲の第一線配備を開始しました。台湾はM-109自走榴弾砲を225両装備していますが、台湾が装備しているものは旧式のM-109A2とM-109A5であり、台湾としては39口径の比較的長砲身を採用しているM-109A6の導入を希望していましたが、このほど最初の40両が配備開始されたかたち。

 M-109A6の台湾輸出はトランプ政権時代に具体化し、バイデン政権へ政権交代の後に実現しています。引き渡される装備はM-109A6自走榴弾砲40機と砲兵部隊用前線観測装置1698基、及び台湾に配備されているM-109の長砲身型への近代化であり、その費用は7億5000万ドルとされています。なお、中国政府はバイデン政権に激しく反発しています。
■エストニアのスパイクNLOS
 自衛隊も中距離多目的誘導弾よりは96式多目的誘導弾システムを丹念に育てるべきだったと思う。

 エストニア軍はイスラエル製スパイクNLOSミサイルシステム初の射撃試験を完了しました。ロシアの脅威にさらされるバルト海地域では各国の陸軍近代化が限られた予算の中で大車輪にて進められており、このスパイクNLOSミサイルシステムはアメリカ製JLTV統合軽戦術車輛が発射装置として用いられ、高度な装甲対戦車車輛として機能しています。

 スパイクNLOSミサイルシステムは光ファイヴァー誘導方式により射程32kmと極めて長い射程を有する対戦車ミサイルで、中継システムなどを用いずスタンドアローン方式で運用可能であるとともに、ミサイルは大型であり、戦車は勿論、上陸用舟艇等に対しても威力を発揮し、JLTVはハンヴィーの後継としてオシュコシ社が量産を開始しているものです。
■リトアニアJLTV統合戦術車
 JLTV統合軽戦術車輛といいますと日本の軽装甲機動車を巨大化したような強力な装備だ。

 リトアニア軍は新たに導入したアメリカ製JLTV統合軽戦術車輛の第一陣がリトアニアへ到着したと発表しました。この導入は50両が揃って自動車貨物船により搬入されるとともに、納入式典はリトアニアのルクラで8月17日に実施されリトアニア国防副大臣、そして駐リトアニア米国大使、USASAC米陸軍安全保障支援司令部司令官が出席しました。

 JLTV統合軽戦術車輛はアメリカでは歩兵旅団戦闘団用、ハンヴィーの後継という最軽量の装備ですが、RWS遠隔操作銃搭には12.7mm機銃の他にジャベリン対戦車ミサイルが搭載可能で30mm機関砲RWSも開発、小国であるリトアニアには貴重な対戦車装備となり、リトアニア軍機械化部隊であるアイアンウルフ機械化歩兵旅団へ200両が配備されます。
■韓国のKM-SAM天弓II
 日本は地対空ミサイル先進国ですが韓国もキャッチアップを外国技術の応用で猛烈に進めていますね。

 韓国軍はペトリオットミサイルの後継となり得るKM-SAM天弓II中距離地対空ミサイルの試験が完了したと発表しました。これは韓国の忠清南道にあるテアンミサイル試験場において7月と8月に実射試験を実施、二回とも成功した為とのこと。実弾発射試験が二回成功、隣国日本のミサイル試験と比べても回数は少ないですが、開発費を抑えました。

 KM-SAM天弓IIミサイルは2019年の初の発射試験において発射直後に自爆し、3月には整備中に空軍基地にて暴発事故が起きる等不安な要素がありましたが、ロシア製S-350EミサイルとS-400ミサイルシステムの技術基盤、そして9M96ミサイルの技術を応用したとされ、政治的にロシア製ミサイルを導入出来ない国への代替ミサイルと成り得ましょう。
■インドLCH試作機
 HAL-LCH軽量戦闘ヘリコプターは自衛隊ヘリコプター制作に技術力よりも機体を導入する意志の重要性を示している。

 インド軍が開発するHAL-LCH軽量戦闘ヘリコプターについて試作機3機の納入が間近であると開発を担当するヒンディスタンアエロナブティクスリミテッド社が発表しました。もともとは2021年第一四半期に納入される計画となっていましたがインド国内でのCOVID-19新型コロナウィルス感染症感染拡大を受け組立作業は大幅に遅延していました。

 HAL-LCH軽量戦闘ヘリコプターはタンデム複座型としてインドが初めて開発したヘリコプターです。この引き渡しの発表は7月に為され、インド空軍及び陸軍では試作機を含め当面15機の取得を計画しています。試作機は陸軍と空軍が共に5機を受領、残る5機は予備機とされ、HAL-LCH軽量戦闘ヘリコプターは最終的に65機の量産が見込まれています。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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