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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

INF全廃条約米離脱問題,不可解!離脱後の米軍に新中距離地対地誘導弾開発と再配備計画無し

2018-12-20 20:03:37 | 国際・政治
■長期国防政策なきトランプ政権
 INF全廃条約米離脱問題について、最大の不確定要素は、離脱後が不明、ということです。中距離核戦力を保持できるようになるが、具体的計画がないし、意味も無い。

 5500kmの射程ミサイルをアメリカ本土に配備した場合でも、例えばロシア沿海州に近いアラスカ州へ配備の場合、沿海州の一部には届く事にはなりますが、現在のロシアの北極圏での開発拡大という背景はあっても、流石にアラスカ州アメリカ本土決戦、というような状況になる程、北極圏での軍事行動は現実的に可能ではありません。つまり使い道ない。

 在欧米軍基地へ配備した場合、ロシアへの強力な抑止力になる事は確かです。実際問題としてアメリカにとっての中距離核戦力の唯一の手法はこの一点に尽きます。沖縄に配備した場合でも届きますが、日本への核兵器前方展開は事実上不可能です。中国や北朝鮮の核兵器は脅威ではありますが、日本政府としてアメリカへ前方展開要請の事例はありません。

 日本の防衛にアメリカが沖縄へ中距離弾道弾を配備する可能性、非常に考えにくいものがあります。核弾頭の持ち込みを行わないまでも弾道ミサイル基地建設というだけでも政治的ハードルは高くなるでしょう。しかし、例えば中国の軍拡が更に進み、例えば現在の001A型航空母艦を当面3隻整備する構想ですが、これが30隻100隻となった場合はどうだろう。

 経済破綻するという視点を除いてもやはり沖縄へ中距離弾道弾を米軍が開発し配備する必要性にはつながりません。核兵器の運搬手段としては狭い沖縄へ中距離弾道弾を配備するよりも、広い太平洋に展開する水中排水量19000tのオハイオ級戦略ミサイル原潜からの潜水艦発射弾道弾SLBMによる核抑止力を展開する方が、遥かに安全で且つ抑止力となる。

 日本にとっては逆にINF全廃条約が無効となったあとで、ロシアが沿海州へ中距離弾道弾を多数配備し圧力をかける方が遥かに大きな問題となります。非核三原則を緩和して東北地方にアメリカの核ミサイル部隊を誘致する、という選択肢が皆無とはいいませんが、それならばINF全廃条約を維持した方が、アメリカにとっても核前方展開の費用を抑え得る。

 不可解である、としたのは、トランプ政権は在日米軍や在欧米軍を大統領選挙中からアメリカにとっての耐えがたい負担である、として撤退を示唆し続けており、大統領就任後に安全保障現勢へ鑑み、その性急な撤収論を取り下げはしましたが、少なくとも在欧米軍や在日米軍の増強へ方針転換した訳ではなく、INF条約離脱の意図が分らないという実情が。

 欧州の防衛力強化を示しつつ、まさかアメリカ製地上発射型中距離弾道弾を今年から開発するので一発一億ドルでドイツやイタリアへ売りさばき、アメリカの雇用強化に充てる、という無茶苦茶な発想はありませんでしょう。実際、ロシアは短距離弾道弾を保有していますが、アメリカは短距離弾道弾という兵器区分そのものを廃止、急な開発は不可能です。

 イージスアショアの販路拡大に核軍拡競争を利用し雇用増進に充てる、という考えも流石にないでしょう。この発想具体的にどうかといえばINF条約崩壊により欧州へロシアミサイル脅威が増大するのでイージス以外のPAAMS艦隊防空システムを採用したイギリスやフランスとイタリアへイージス艦を売り込む、という発想、流石に有り得ないでしょう。

 MQ-9無人機がINF全廃条約に違反となる巡航ミサイルへ転用し得る装備だ、としてロシアなどは反発しています。MQ-9無人機は無人偵察機としての他、1500ポンドまでの兵装を左右各1基搭載する事が可能ですので、F-15EやF-16戦闘機に搭載可能であるB-61核爆弾、自由落下型核爆弾ですが、これならば搭載する事も可能だ、という言い分ですね。

 ロシアの言い分では、成程MQ-9を巡航ミサイルではなく無人特攻機として核武装し突入させた場合、巡航速度は300km/h前後とヘリコプターや新幹線並みの速度ですが、INF全廃条約に抵触し得る、という言い分でしょう。ただ、MQ-9の航続距離は一応5900kmとINF全廃条約を意識したような航続距離となっていますので、実は抵触しない性能という。

 X-47B,開発中止となった空母艦載型ステルス無人機ですが、こちらの航続距離は一応3900kmといいますので、定義の上でこの航空機を陸上から運用した場合、無人機を一種の巡航ミサイルと考えた場合、抵触するのかもしれません。もっとも、INF全廃条約は無人航空機、締結時代はドローンが主体でしたが、これを規制の対象とは見做していません。

 ツポレフTu-141無人偵察機がソ連時代に開発されINF全廃条約締結後でも運用されています。これは1000km以遠を偵察する超音速無人偵察機で、地上発射装置から投射する事が可能です。規制対象としなかったのは、QF-102のような旧式化したジェット機を無人機として空対空ミサイルの標的とする事は普通に行われていた為の米ソ合意があった為です。

 ハーピー無人航空弾薬、イスラエルが開発した自爆型無人機ですが、場合によってはこの種の兵器をアメリカが保有しようとした場合に条約に抵触するのでしょうか。徘徊型兵器という区分でも知られ、目標上空付近を滞空しつつ捜索、目標を発見するとそのまま特攻攻撃を仕掛け自爆するというものです。イスラエル製ですが中国へも輸出されています。

 アメリカの提唱するINF全廃条約が中国などの軍事拡大に対して500kmから5500kmの地上発射巡航ミサイルや弾道ミサイルの保有が不可能、という制限が不利となる旨の主張、例えばアメリカは今後、INF条約枠内の地上配備型極超音速滑空兵器等開発計画が現実的にあるのでしょうか、この射程の兵器は考えられますが、地上配備型の優位性は実際低い。

 地上配備型兵器として500kmから5500kmという射程の兵器は、アメリカの場合は国際公序維持のための外征が第一である為、敵をアメリカ本土に迎え撃つ専守防衛の運用は想定されていません。南北戦争の戦史研究は行っていますが、アメリカ本土での防衛線が検討されたのは第二次大戦の太平洋戦争初期、スチムソン陸軍長官時代が最後ではないか、と。

 太平洋戦争開戦直後は、日本軍への過大評価からアメリカ西海岸への日本軍上陸を真剣に脅威として想定しており、ロッキー山脈を防衛線とするか、五大湖まで内陸誘致の上で内線作戦により決戦を試みるか、という、なかなか壮大な防衛計画がありました。勿論日本陸軍も海軍がオーストラリア上陸を提案しましたが一蹴、米本土は検討さえしていません。

 500kmから5500kmという射程の兵器、アメリカ軍としては特に海軍のトマホークミサイルや空軍の絶対航空優勢下で運用するため、用途として限られる兵器だ、といえます。INF全廃条約が示すのは繰り返しますが地上配備型、しかしアメリカ本土から5500km以内の顕著な脅威というものは存在せず、欧州防衛への在欧米軍としても使い難いものでしょう。

 不可解なトランプ政権、という印象のINF全廃条約アメリカ離脱、しかし、忘れてはならないのはINF全廃条約が解消しロシアが中距離核戦力を再整備した場合は、イスカンダル短距離弾道弾等による脅威は現在であれば北海道と東北北部に限られているものですが、ロシア軍に中距離核戦力が再整備された場合は確実に日本全土がその射程内となります。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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