北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ノルウェー軍イージス艦がタンカーと衝突大破, NATOトライデント-ジャンクチャー演習帰路

2018-11-10 20:10:41 | 防衛・安全保障
■ヘルゲ-イングスタッド大破
 事故です、イージス艦ヘルゲ-イングスタッドがタンカーと衝突し大破、一時沈没の危機に曝されましたが座礁し辛うじて水線上を保ちました。

 ロシアによる軍事脅威の増大と飛行妨害などの摩擦が高まる中、NATO北大西洋条約機構は冷戦後最大規模の演習トライデント-ジャンクチャーを先月25日から7日まで実施、北方の某国がNATO加盟国であるノルウェーへ侵攻したとの想定の下、NATO加盟29カ国とスウェーデン及びフィンランドが戦闘車両等1万輌と航空機250機及び艦船65隻の参加を以て展開していました。

 ノルウェー海軍のイージス艦であるフリチョフナンセン級ミサイルフリゲイト、ヘルゲ-イングスタッドはこのNATO演習からの帰路、タンカーソラ号と衝突しました。軍艦とは設計上ある程度の生存性を確保していますが、2012年に観艦式帰路、写真の護衛艦くらま、が貨物船カリナスターに衝突した際に艦首を破損した様に、大型船と衝突した場合無傷では済まない。

 ヘルゲ-イングスタッドは満載排水量5120t、あきづき型の写真を参考に出してみましたがこちらが満載排水量7000t、そしてかなり深く衝突されたようで被害は甚大のようです。船体右舷後部の航空機格納庫と機関部付近の上部構造物及び水線下が大きく破損、沈没の危機がある事から艦長は総員退去を命じ、沈没回避へ近くの浅瀬に座礁しました。独力で座礁したのか、曳船の支援を受けたのかは、現時点で報じられていません。

 事故は現地時間8日0400時頃グリニッジ標準時刻0300時頃、ノルウェーのベルゲンに近い沿岸部の北極海で発生、この衝突により乗員7名が負傷したとのこと。タンカーソラ号はマルタ船籍タンカーで北海油田産原油を積載しスチュア石油貯蔵施設へ向かう途中の事故です。11月の北極海は海象も厳しく、フィヨルドの地形沿岸部での衝突事故発生でした。

 ソラ号は衝突によりわずかな損傷を受けたとの事ですが、懸念された原油流出はありません。衝突事故後、海洋法執行機関による聴取と事故調査の為にタンカーはスチュア石油貯蔵施設へ入港したとの事です。一方で、フリチョフナンセン級ミサイルフリゲイトはイージス艦としては小型であり、その被害は沈没の危険が高いという非常に甚大なものでした。

 ヘルゲ-イングスタッドは辛うじて沈没を避けられたという状況で、これは艦長の的確な判断を瞬時に行った事が背景にあります。大型でないヘルゲ-イングスタッドは機関部近くに衝突した為に浸水が進めば機関停止による航行能力喪失は避けられません、破口は大きく防水区画だけでは防げず、浮ドックでもあれば造船所へ直行できて良かったのでしょうが間に合いません。そのまま大量浸水が続けば沈没か転覆は避けられないでしょう。

 沈没を回避すべく、ヘルゲ-イングスタッドは浅瀬にそのまま進むことを選択したようで、現在は機関停止のまま傾き沿岸部に座礁しています。座礁したならばそのまま沈没する事はありません、しかし、太平洋戦争中の軽巡大淀や空母天城のように大量浸水が続けば沈没は免れても転覆する可能性があります。ヘルゲ-イングスタッドも同様の状況にあった。

 曳船が駆けつけ、ヘルゲ-イングスタッド転覆の危機を阻止したようで、もしくは動力喪失後に曳船が沿岸部へ意図的に座礁させた可能性もあります。BBC報道映像等を見る限り、ヘルゲ-イングスタッド周辺には数隻の曳船が横付けしています。総員退去と共に徐々に浸水が進んだ事で艦尾は水没してしまいましたが、転覆という結果は避けられたかたちです。

 フリチョフナンセン級ミサイルフリゲイトはノルウェー海軍の主力艦で5隻がノルウェー沿岸艦隊に所属しています。基準排水量4680t,満載排水量5120tという、写真の海上自衛隊護衛艦あさぎり型よりも若干大型で、あきづき型護衛艦よりも小型という規模の艦です。ノルウェー海軍はこの他、ミサイル艇や襲撃艇等の小型艦を中心とした海軍編成を執っています。

 イージス艦、フリチョフナンセン級ミサイルフリゲイトはアメリカ製イージスシステムを搭載しており、アメリカ海軍、海上自衛隊、スペイン海軍、ノルウェー海軍、韓国海軍、とイージス艦を保有する世界五カ国の一員です。排水量で海上自衛隊こんごう型の半分程度である事から、アンテナ素子を四割程度として小型化したSPY-1Fレーダーを搭載する。

 SPY-1Fは小型軽量化すると共に出力を抑えており、フリチョフナンセン級ミサイルフリゲイトには艦対空ミサイル用垂直発射装置VLSも8セル分に抑えられています。射程50kmと1セルに4発を収容するESSM発展型艦対空ミサイルを合計32発搭載、艦隊防空ではなく、僚艦防空任務に当るのがフリチョフナンセン級ミサイルフリゲイト5隻の任務です。修理には大変な労力が予想されますが、死者が無かった事は不幸中の幸いでした。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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