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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

榛名防衛備忘録:航空自衛隊E-X,次期早期警戒機に関する幾つかの考察④

2014-11-03 22:18:21 | 防衛・安全保障

◆E-737AEWと能力向上改修の問題
 早期警戒機についての続き。自衛隊は早期警戒機を低空目標の迅速な発見という必要性に迫られ、比較的早い時期に導入しました。
Eimg_3184  しかし、早期警戒機の実戦における比重はその後急激に増大します。現代戦は情報優位が戦域優位に寄与する比率が飛躍的に向上しており、早期警戒機とのデータリンクがもたらす戦域優位への比重は1980年代と比較できないほど、このため早期警戒管制機の需要が高まっているわけです。航空自衛隊は前述の理由から早い時期に導入できましたが、全ての国がそうであるわけではない。 
Img_0355  日本は、早めに買っておいてよかった、と急に付加価値が上がった装備を眺めつつ、しかしそうではない国はどうするか、E-737AEWはこの為に開発されたもので、オーストラリア空軍や韓国空軍にトルコ空軍が導入、イタリア空軍とアラブ首長国連邦空軍が導入を計画中です。難点は現在のところアメリカ空軍が導入していないことで、滞空時間などでは短距離旅客機である737を原型としている分、707や767には飛行時間で及びません。 
Img_0201  また、アメリカ空軍はE-3の後継機を計画した際、太平洋を無給油横断可能なボーイング767か777を念頭に計画していたため、E-737AEWでは航続距離が足りません、もちろん空中給油を行うならばE-737AEWであっても航続距離は伸びるのですが、E-3の後継機へ採用するかは微妙なところ。
Kimg_6787  何分B-52爆撃機を運用し続ける空軍ですのでB-52よりは機体が新しいE-3について、当面運用継続が考えられるのですが、E-3と同じ707を原型とするKC-135空中給油機の後継機選定が開始され二転三転しながらもようやくではあるのですがKC-46Aに決定しており、E-3後継機選定もそろそろ、ともいえる。 
Simg_8666  他方で、アメリカ政府の財政赤字強制削減措置が採られている現状では、KC-46Aの調達を開始した今だからこそ、そちらに予算が流れてしまい、E-3後継機を後回しとせざるを得ない現状も無視できません。例えばKC-135の後継機であるKC-46Aは180機程度が取得される計画ですが、第一期分の取得は2017年までに一割に当たる18機を調達するのみ。
Eimg_4823  E-737,ここで米空軍が採用すれば、その機材を中心に能力向上への近代化改修プログラムが組まれることとなり、此処に連動することで最先端の警戒監視能力を維持できるでしょう。しかし、採用されなければ能力向上改修を独力で展開し続けなければならないことを意味するため、リスクとして非常に大きい。 
Himg_35060  早期警戒管制機は近代化改修により初めて長期間第一線運用に耐える能力を確保できる訳で、その音頭をとる国がアメリカか否かの影響は非常に大きいのです。ここで小型すぎるのは大きな難点で、原型機と旅客機型を比較しますと、E-737AEWの原型機はボーイング737-700で座席数149、E-3の原型機であるボーイング707-120Bは座席数179、E-767の原型機ボーイング767-200ERは1クラス時255、と。
E2img_8438  近代化改修については、第二階に航空自衛隊のE-767が実施している米空軍E-3の近代化改修計画に連動した改修を行っていることを紹介しましたが、例えばレーダーアンテナが同型であっても情報処理能力を司るコンピュータを新型に換装するだけで改修前は単なるエコーとして無視されていた遠距離目標の正確な識別が可能となり、探知距離が延びる事を意味します。
09thimg_1242_1  ただ、E-737AEWのレーダーシステムは米空軍がE-3の後継機として計画し、2007年に予算難で中止されたE-10統合管制機のレーダー技術が応用されており、アメリカが同盟国に提示しているように近代化改修プログラムが推進されている、逆にE-3が近代化改修によりE-737AEWとレーダーアンテナ以外の部分にてアップデートされている点も推測され、悲観視せずともよいやもしれません。
88img_0393  E-737AEWはオーストラリア空軍が米空軍との運用共通化を期して頻繁に共同訓練を実施しているほか、イージス艦との連携についても計画中のホバート級イージス駆逐艦との情報共有は計画中です。更にイタリア空軍が採用すればトルコ空軍の機体と共にNATO諸国での運用基盤を構築することにもなりますので、近代化改修プログラムの構成国は増大するでしょう。 
88img_2287_1  反面、装備体系としてE-737AEWのAESAレーダーやボーイング737という機体規模の航空機は航空自衛隊の運用体系に同程度のものはあっても同型機は無いため、後方支援基板などを一から構築する必要があります。そしてE-2Cよりも滞空時間や航続距離は大きいのですが、E-767よりは短く小さい。 
Himg_3433  事実、航続距離10400kmを誇るボーイング767に対しボーイング737は短距離用で、例えば先日オーストラリア空軍のE-7Aが浜松基地を親善訪問したのは、航空自衛隊のE-767部隊との交流を深めると共にアメリカ本土での訓練飛行へ豪州より向かう際に立ち寄ったものでした。
Himg_3168  豪州空軍のE-7Aは、オーストラリアからアラスカへ向かう際、グアムのアンダーセン基地、日本の浜松基地と千歳基地、実に三か所を経由しアラスカのエルメンドルフ基地へ展開しています。ニューサウスウェールズ州ウィリアムタウン基地からアラスカ州アンカレッジのエルメンドルフ基地まで9000km、E-767ならば十分ですがE-737AEWでは対応できません。
Img_7243  E-2Dと比較すればE-737AEWは余裕がある機体であり、将来的にも発展性や滞空時間などで魅力ある機体なのですが、近代化改修プログラムをどうするのか、日豪共同にNATOを加え進められるのかという問題、更にすでに整備されたE-2Cの運用基盤を越えるため、新たな整備基盤が必要となる。
E2img_9076  高性能ながら突き付けられた喫緊の課題に対応できるのか、という点は留意しなければなりません。理想としてはE-737AEWなのですが、現実としては短期間で運用体制を確立できるのはE-2Dだ、というところでしょうか。もっとも、最大の理想は米空軍がE-3後継機の指針を早急に提示することなのかもしれません。 

北大路機関:はるな

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コメント (1)
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