北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

イラク過激派ISIL攻勢へ、北部制圧と首都へ向け南下 迅速な米軍介入が必要

2014-06-14 23:38:35 | 国際・政治

◆このまま放置すれば破綻国家化と長期化

 イラクの武装勢力イラクレバントのイスラム国(ISIL)の攻勢が激化しています。

Img_8666 ISILはイラク北部において活動を活性化させたのち、北部の主要都市であるモスルやティクリートをその制圧下に置き、イラク軍及び治安部隊を駆逐、南下に転じ、首都バクダッド北方90kmのドゥルイアを12日に制圧、南下を続けています。イラク軍はイラク戦争後、米軍主導による再建を終えM-1A1戦車やF-16E戦闘機など比較的強力な装備を一定数揃えているのですが、訓練水準は不十分であったようで、各地で敗走を続けています。バクダッド北方120kmのサマラでは防衛に成功しつつも、一部報道では既に2個師団が壊走したとも。

Img_8722 イラク軍は航空戦力をもって反撃を試みているところですが、米軍の介入が何よりも必要となります。ISILの戦闘要員はシリア内戦から転戦した兵員の存在が指摘され、長く続く内戦を経て兵力と練度の面で比較的高い水準に或るシリア軍を相手として経験を積んだ戦闘要員のISILへの参入は、イラク戦争後崩壊し再建が充分になされていないイラク軍には非常に困難な戦闘をしいているのが現状です。攻勢に転じ短期間で表面化した都市部の制圧を放置すればイラク政府崩壊につながりかねません。

Img_9624 米軍にとり、イラク国内は治安作戦を経て膨大な戦死者を出す事となった非常に二の足を踏む条件が揃っています。長期間の駐留を経て撤退し間もないイラクではありますが、米軍の介入を決断するべきです。何故なら、ISILがこのまま首都への侵攻を阻止できない場合、武装勢力による全土制圧の懸念があり、幾つかの看過できない問題を生みます。現在であれば空母部隊とイラク国内米軍基地を拠点とした空中機動師団と特殊作戦部隊、それに幾つかのストライカー旅団を展開させる程度、イラク戦争期よりも遙かに少ない戦力で決着するでしょう。

Img_8767a  軍事介入の必要性は以下の懸念に依拠します。第一にシリア内戦における武装勢力の巨大な後方拠点を構築させてしまうこと、これをもってシリア内戦が長期化するとともにシリア政府の崩壊が中東の情勢悪化を加速させる懸念について。第二にイラク軍のアメリカ製装備を鹵獲し武装勢力の装備が高度化する懸念、及び第三国への流出という問題があります。第三に中東産油地域の中央部に破綻国家が誕生すればサウジアラビアやクウェートを筆頭とした周辺国へのテロ攻撃の拠点となりかねないこと。

Img_3373 対応を行うならば早めでなければなりません。理由として、第一に武装勢力は現在正面に出ており正規軍のように表面化し行動しているため、治安作戦を最も難易度を高める潜伏段階を出ていること。第二に、現時点ならばイラク政府は維持されており、武装勢力の排除さえ成功すれば統治機構が破綻前であるため秩序の回復が早いこと。第三に、現時点では武装勢力の兵站拠点が脆弱であり、有力な支援国がないため、投入可能な戦力に限界がある、という点があげられるでしょう。無論、時間とともに不利になってゆきます。

Img_8706 特にISILは制圧地域において捕虜を採らず虐殺行動を展開しているとの報道があり、ISILはスンニ派イスラム教徒による国家建設を企図しているためシーア派住民に対し強硬姿勢をとっています。如何に大義名分があろうとも、虐殺行為は今日の国際社会にとり看過できるものではありません。一方、アメリカはイラクのフセイン政権を崩壊させ混沌を形成した責任がありますし、北米大陸内のシェールガス確保によりエネルギー資源確保の重要性を忘れているようですが、世界への安定供給を担保することでの影響を忘れてはなりません。

Gimg_8539 迅速な介入、2000年のイギリスによるシエラレオネ介入のパリサー作戦や昨年のフランスによるマリ介入サーバル作戦などは、武装勢力が雌伏から正面戦闘に転じた瞬間に時機を併せ大兵力を投入したことで、非常に短期間で軍事目標を制圧し、戦闘を終結されています。イラクの現在の情勢、このまま放置すれば破綻国家化と長期化することを意味します、そうなてから介入しても膨大な戦力と長期間の展開が必要となります。現時点で米英政府は経済支援以外を検討していないようですが、このままでは最悪の結果となるのではないでしょうか。

北大路機関:はるな

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