北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

榛名防衛備忘録:グレーゾーン事態を考える④ 必然的に拡大する邦人救出任務範囲

2014-06-17 23:20:58 | 国際・政治

◆邦人経済活動と自衛隊任務範囲の欠缺

 グローバリゼーションという単語が持て囃された時代から暫く。邦人の経済活動範囲は以前に増して広域化しています。

Gimg_8496 こうした経済活動ん広域化と共に有事の際の邦人救出任務、この活動範囲は文字通りグローバルに展開しなければならないのですが、この端的な事例が前回提示したイランイラク戦争における邦人孤立、最近ではアルジェリアガスプラント襲撃にともなう邦人の国外輸送任務、という事例があげられるところ。

Img_1361 グレーゾーン事態に関する討議と集団的自衛権行使に関する討議の結節点のひとつに、海外での邦人脱出を支援する米軍艦艇の防護を自衛隊が行うことは集団的自衛権行使にあたるか、という論議があります。そもそも自衛権は集団でも個別でもなく不可分の自衛権という事項を政治的に区分したことで今日の論争があるのですが、本日の視点はもう一つ。

Img_7290 マスコミを中心にこの論争に示されている大きな異議であり疑義である視点に、そもそも邦人救出を米軍が支援するという事案はあり得るのか、有り得たとして米軍が自衛隊の支援を必要とするような状況はあり得るのか、という視点で、そもそもの想定がナンセンスなのだ、というものがあります。

Img_5039 最たるものは、自衛隊が独力で展開できるというものや、米軍は自国民退避支援が優先されるため邦人避難支援まで手が回らない、米軍が護衛を充分に配置せず行動すること自体が考えられない、など。識者の視点はこのような形で、反対するものが多くとり挙げられています。

Kimg_6849 しかし、幾つかの反論を挙げてゆきましょう。まず、邦人の経済活動がグローバル化しているため、自衛隊が周辺事態法の下で想定している活動圏外においても邦人救出の可能性がある。続いて邦人の海外での活動規模が大きくなっており邦人救出任務を展開する際、専守防衛を国是とし海外への展開能力が限られた自衛隊の輸送力では限界がある、など。

Img_9004a 自衛隊の配置と邦人経済活動範囲に関する欠缺、これは無視でき無い事例です。例えば、少数の小型護衛艦や空挺大隊と航空部隊からなる統合任務部隊を複数編成し、海外に広く展開させるというような世界規模の配置体制を採り、という運用は不可能です。

Img_4424a 現状ではアフリカのジブチに航空拠点がありますが、陸海空の小規模な統合任務部隊を世界規模で配置することは現実的ではありません。また、集団的自衛権やグレーゾーンの問題を越えて、そもそも国際公序へ自国の防衛力を展開させないという論理の帰結に生じた自衛権の分化論争を行う国が、こうした配置を行う事には矛盾が生じます。

88img_1587 八八艦隊の提案、として北大路機関が毎回提示するようにヘリコプター搭載護衛艦を増勢し、米海軍の空母戦闘群による長期哨戒任務を世界規模で実施し、紛争地への邦人救出と人道支援を即座に展開できる態勢、という案も提示したいところではありますが、流石に予算面で現実味はないと認識するところ。

Img_3872 結果として、邦人救出任務に自衛隊はその能力の枠内で即応態勢を採り、日本側が提示できる能力とバーターで米軍の支援を求めることでグローバルな邦人救出体制を構築することが限界で、グローバルな邦人経済活動へ安全を確保するためには、出来る能力同士の相互支援のほかないのでは、と考えるところ。

Gimg_7422  相互互恵といいますか、日本側としては何もしないが同盟国に自国民救出へ戦闘地域へ危険を冒して飛び込むことを要請することは、一種、軍隊の行動に関する正当性と責任という視点から同盟国であっても受け入れる事は出来ない、第三者の視点に立てばその必然性が理解できるでしょう。

Hbimg_7298 他方で、日本側が可能な能力を供出し、海外での邦人救出に最大限の努力を行うので、しかし足りない能力等については同盟国や友好国の善意にすがりたい、という視点ならば協力を受ける事は出来るかもしれません。もっとも、この場合、善意にすがる我が国としては正面に立つ必要が生じるのでしょうが。

Img_3619  専守防衛を国是としている我が国は、邦人救出任務を突き付けられた際、距離が大きければ大きいほど実施可能な選択肢は限られ、特に後方支援能力が追いつきません。その限られた中で、現状では更に選択肢を狭めている法律上の縛りがあるため、このグレーゾーンにおける対応策は真剣に検討されるべきでしょう。

Img_4033 少なくとも、憲法上の制約から紛争地への自国民救出に関して国が防衛力を投射することに限界があるため、紛争地に取り残された自国民は過酷な運命を甘受する覚悟を、という論理は通用しないわけであり、用いられる全ての選択肢を以て自国民を救出させる算段が無ければなりません。

Gimg_9492  そこに、他国との協力を視野に考える際、防衛力の中で専守防衛政策故に低い戦力投射能力と後方支援能力に限界があるならば、培われた専守防衛に基づく防衛力の中で最たる部分をバーターで供出してでも、対応する算段を考えねばなりません。

北大路機関:はるな

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