◆ARF:日本版MEU,待機交代制950名の即応部隊
年度末中間報告特集第二回、広域師団と方面直轄部隊からの即応待機部隊、方面即応集団Armycorps Readiness Force創設案について。
札幌駐屯地に北部方面即応集団司令部、仙台駐屯地に東北方面即応集団司令部、朝霞駐屯地に東部方面即応集団司令部、伊丹駐屯地に中部方面即応集団、健軍駐屯地に西部方面即応集団司令部、各方面隊毎に方面即応集団を配置する案です。
我が国への奇襲事案や、我が国の基本的生存権に影響する周辺事態、これらに際し陸上自衛隊が即座に防衛体制を立ち上げ、対応できる即応態勢の準備を構築することは、奇襲事案そのものの最大の障壁として抑止力を堅固なものとすると同時に、邦人の海外での安全や安心に繋げることが出来ます。その具体的施策として、方面即応集団ARF:Armycorps Readiness Force案というものを構想してみました。
方面即応集団案とは、司令部機能のみ方面総監部に常設し、戦闘部隊を各師団から一ヶ月若しくは二カ月交代でローテーション抽出、演習場営舎と飛行場に臨時展開させ、各方面隊持ち回りで10分から120分以内で完全装備の下出動可能な即応待機部隊を置く、という提案です。方面即応集団ARF:Armycorps Readiness Force、米海兵隊の海兵遠征群MEU:Marine Expeditionary Unitの日本版、に位置付けられるもの。
方面即応集団ARFは、その発想背景に四輪駆動軽装甲車化普通科連隊構想の際に提示した、四輪駆動軽装甲車中隊に軽装甲機動車小隊を併せた中隊戦闘団の即応待機案を発展させたものです。方面即応集団ARFの基幹部隊は方面即応機動群AMU:Armycorps Mobility Readiness Unit 、方面対テロ即応群AATRU:Armycorps Anti-Terrorism Readiness Unit、とします。
その総員は人員950名を想定し、指揮機能120名のみ常設、あとは各部隊のローテーションです。ローテーションですので、高練度部隊を短期間集中的に出動できる態勢を維持し、少数と言えども最も強力な部隊が我が国の有事に際し、文字通り即座に出動できる態勢を目指すべきでしょう。
広域師団。前回、陸上自衛隊の新しい作戦部隊の将来像として現行師団と旅団を一旦師団に統合したうえで各5000名の装甲機動旅団と航空機動旅団に再編し、各方面隊に広域師団を置き、装甲機動旅団・航空機動旅団を機動運用に充てる提案を行いました。戦車と火砲の縮小が画定された新防衛大綱の装備体系下で政府が求める機動防衛力構築には当方が考える一つの回答として提示したわけです。
この編成案は、全ての師団旅団を機甲師団を除き12個の小型師団へ再編したうえで、戦車とヘリコプターを方面隊直轄部隊へ移管し、高度な装備体系を持つ方面隊直轄部隊と、機動性に優れた装備体系を持つ師団部隊に二分、然る後に方面直轄部隊の高度装備を師団に編入、装備密度を維持すべく小型師団を大型旅団へ縮小改編し、二個旅団を以て大型師団を創設する、というもの。
この装備の師団への編入をもって、方面即応集団は装甲戦闘車の数的充実の受け皿という任務も一形態を果たすことになり、短い任務を得る事となるのですが、司令部寄港を中心として、現役部隊からローテーションで即応待機部隊を置く事は出来ないか、としたのが今回の主題です。
即応部隊配置の意義は、見ての通り装甲機動旅団・航空機動旅団という全く異なる装備と運用を行う旅団が方面隊管内に置かれるため、各旅団内で即応部隊を配置したとしても即応部隊は災害対処初動部隊のような後方装備を主柱として実施するものと違い、装甲機動旅団・航空機動旅団では共通する装備品がほぼありません。
このため、方面隊の後方支援部隊とともに、方面隊単位で初動部隊を即応待機させ、これら部隊を一種の先遣部隊や強行偵察部隊、これは可能ならばそのまま制圧してしまうという意味を含むのですが、小規模な部隊として後続の巨大な広域師団の展開を円滑に行える主導権を初動で我が方へ確保しよう、というもの。
方面即応集団ARFの戦闘基幹部隊、方面即応機動群AMUは、広域師団を構成する装甲機動旅団・航空機動旅団から、中隊規模と小隊規模の部隊を抽出し、待機します。有事の際、国内から海外まで、その初動を担います、指揮部隊CE:Command Elementのもと、即応装甲戦闘部隊GCE:Ground Combat Elementと即応航空戦闘部隊ACE:Aviation Combat Element
及び即応戦闘支援部隊 LCE:Logistics Combat Elementより成る。
指揮部隊GCE-CEは常設部隊で、野外通信小隊・電子戦班を以て編成します。50名規模の部隊という想定で、方面即応集団ARF司令部は札幌や仙台に朝霞や伊丹と健軍という方面総監部に置かれますが、指揮部隊GCE-CEについては戦闘部隊と共に演習場近傍営舎に移動司令部を置きます。
地上戦闘部隊GCEの編成は、220名規模、各機動打撃旅団より装甲普通科中隊・戦車小隊・戦砲隊・施設小隊、以上を抽出します。機動打撃旅団は9個普通科中隊、9個戦車小隊、15個戦砲隊、12個施設小隊を持つ想定ですので、2か月待機として18か月乃至30か月おきに待機することとなります。
地上戦闘部隊GCEの装備は、戦車4両・装甲戦闘車14両・自走榴弾砲2門・近接戦闘車高射型2門、施設装甲車2両・指揮装甲車2両、以上を想定し、実質一年半おきに担当するため、戦車部隊と普通科部隊の旅団訓練計画などのローテーションが厳しい場合は、縮小編制とし、戦車2両・装甲戦闘車8両、とすることも考えられるでしょう。
海上自衛隊との連携を考えた場合、地上戦闘部隊GCEについて、この縮小編制であれば、おおすみ型輸送艦一隻に収容可能です。装甲車両は艦内の車両甲板で戦車をエアクッション揚陸艇LCACに搭載したままならば、なんとか収容できる上に、上甲板に一定程度のトラックなど輸送車両の搭載も可能です。
航空戦闘部隊ACEの編成は、220名規模を想定します。部隊は各航空機動旅団より普通科中隊・情報小隊・多用途ヘリ4機・輸送ヘリ2機・戦闘ヘリ2機を抽出します。航空機動旅団は多用途ヘリ24機と戦闘ヘリ12機に輸送ヘリ8機を想定するため、このローテーションはかなり厳しいものですが、待機位置は飛行場とし、訓練を含め稼動機を待機機に兼ねさせれば対応できるかもしれません。
航空戦闘部隊ACEの陸上装備は、四輪駆動軽装甲車14両・軽装甲機動車7両・中距離多目的誘導弾2両、120mm重迫撃砲2門、とし、こちらは航空部隊が駐屯する飛行場へ前進待機します。基本、機内格納か吊下げ輸送で対応する装備で構成し、航空部隊が演習場に展開する際には同行する、という運用も考慮すべきでしょう。
航空戦闘部隊ACEの陸上部隊は、同時に装甲車両と共に航空自衛隊がC-1輸送機の後継として30機から40機程度を導入するC-2輸送機15機に収容できる装備を以て編成します。もちろん、これでは後方支援の維持が不可能ですので、一往復で展開させることはできませんが、海外に緊急展開させる必要が生じた際、中央の防衛大臣直轄部隊である第1空挺団の後詰めとしての部隊運用を想定できるもの。
このほか、航空機はこの8機程度でしたら海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦ひゅうが型に搭載し輸送することが可能です。艦内の航空機格納庫を転用すれば、装甲車両についても一定数搭載が可能でしょう。車両がRO-RO船方式で搭載可能なヘリコプター搭載護衛艦いずも型であれば、車両部隊と共に航空戦闘部隊ACEを輸送可能で、海上自衛隊が検討を始めた強襲揚陸艦についても実現すれば、その搭載で機動力を最大限発揮できます。
即応戦闘支援部隊LCEの編成は、輸送中隊・後方支援隊直接支援中隊・後方支援隊ヘリコプター野整備中隊を基幹とした150名規模の部隊を想定し、輸送中隊は7tトラック15両、戦車輸送車10両、の装備を想定します。このほか、各部隊は自前の3t半トラックや高機動車を装備していますので、輸送力がこの部隊のみ、というわけでは必ずしもありません。
装甲車両に対し戦車輸送車の数量は必ずしも十分ではありませんが、戦闘機動に際しては車載運用が考えにくく、併せて有事の際は相応の交通統制が考えられるため、一定程度の部隊は自走して展開する、という想定です。長期間の戦闘ではなく、即応の初動部隊ですので、過剰な後方支援部隊は機動力に影響し、逆に防衛基盤となる駐屯地などの支援を受けるという念頭で、この結論に至りました。
方面即応機動群750名、地上戦闘部隊GCEと航空戦闘部隊ACE。戦車4両・装甲戦闘車14両・自走榴弾砲2門・近接戦闘車高射型2門、施設装甲車2両・指揮装甲車2両、多用途ヘリ4機・輸送ヘリ2機・戦闘ヘリ2機、
四輪駆動軽装甲車14両・軽装甲機動車7両・中距離多目的誘導弾2両、120mm重迫撃砲2門、並べてみました。
高射特科部隊が近接戦闘車防空型機関砲のみですが航空部隊との連携で。対空レーダはありませんが、国内であれば航空自衛隊とのデータリンクで、海外ならば海上自衛隊の艦艇とのデータリンクで。施設部隊に架橋能力がありませんが、即応部隊なのですから可能な限り自走渡河能力で。
方面隊全体で少々大きめの駐屯地祭模擬戦程度の部隊ではありますが、各方面隊にこれだけの部隊が即応待機していること、有事の際には空挺団と方面即応集団が直ぐに立ち上がり駆けつけるという事ですので、本土侵攻や島嶼部攻撃に海外緊急展開、我が国の政治へ選択肢を増やす事では、間違いないでしょう。
方面対テロ即応群AATRU、方面即応集団ARFもう一つの基幹部隊は、ゲリラコマンドーによる特殊攻撃や原子力施設などへの非常事態へ対応する部隊で、方面特殊武器即応部隊NBCARE:NBC Areagroup Response Element、方面対テロ即応部隊ATRE:Anti-Terrorism Readiness Elementを基幹とする編成を考えてみました。
人員は全体で150名程度、この部隊は、各旅団のレンジャー資格保持者や特殊武器防護隊等を中心に150名規模のローテーションを想定します。中央特殊武器防護隊と中央即応連隊の機能を方面隊版として小型化した編成、こうしたものといえるでしょうか。
方面特殊武器即応部隊NBCAREは、50名程度の部隊で、本部班・NBC偵察班・NBC除染班・生物兵器衛生班・原子炉冷却小隊を以て編成、基本的に旅団特殊武器防護隊と相互連携を行う部隊と設定し、NBC偵察車1両・四輪駆動軽装甲車2両・除染車1両・場外消防車2両・野外電源車2両を主要な装備とします。
原子炉冷却小隊は、航空部隊駐屯地より航空火災用消防車を場外消防車として待機状態に置くというもので、野外電源車も航空部隊用のものを即応態勢に置く、というもの。同じく即応体制を採って待機している航空戦闘部隊ACEの輸送ヘリコプターにより空中機動し展開する運用が考えられるかもしれません。
福島第一原発型の原子力事故や地下鉄サリン事件型の無差別テロ攻撃に、可能性が無視できない化学弾頭搭載弾道弾による攻撃や生物兵器によるテロに際し、主として即応体制を採ることで師団に先立ち展開し、第一に情報収集、第二に被害拡大阻止、第三にこれらの行動を通じての民心安定に寄与することが出来るでしょう。
方面対テロ即応部隊ATREは、警察力で対応できない状況や方面特殊武器即応部隊NBCAREの任務展開時にまだ現場付近に脅威が存在する際の排除任務、武装工作員浸透事案や重要施設占拠事案に際しての拡大阻止や、情報収集に必要であれば排除を特殊作戦群と協力し展開する部隊として必要と考えたもの。
方面対テロ即応部隊ATREの編成は概ね80名程度とし、本部班・情報小隊・レンジャー小隊・狙撃班・爆発物処理班を以て編成します。本来、防衛大臣直轄の特殊作戦群が特殊作戦団というような規模に拡大でき、隷下の特殊作戦大隊を方面隊へローテーションする配置が可能ならば、そちらの方が理想的でしょう。
連絡用に軽ヘリコプターなどをこの即応群に配置することが望ましいのですが、当然ながら出動に際し航空戦闘部隊ACEの支援を受ける事も挙げられます。テロ事案に際しては、警察庁のSATや管区機動隊銃器対策部隊、海上保安庁のSST等の部隊が初動を担いますが、後詰めの自衛隊が即応体制で待機している状況を構築することで、我が国におけるテロ事案等の実施を困難とさせることが出来る。
方面即応集団ARF、実質二個中隊に所要の重装備と空中機動装備に後方支援装備を組み合わせた、縮小規模の機械化大隊戦闘団といえる編成と、テロ対策や原子力災害対処の小部隊を組み合わせたものですが、
各方面隊が、こうした部隊を維持し即応体制を採ることで我が国の防衛に資する全体的な波及効果は、相当大きいと考える次第です。
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