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北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

防衛産業、我が国防衛力を構成する重要要素の将来展望⑧ 費用抑える国産技術と生産基盤

2012-11-19 22:52:23 | 防衛・安全保障

◆単価は高い、しかし抑止力全体としては

 連載期間が少々空きました観点から少々確認的な、試運転的な内容で過去の記事とも重なるのですが、国産基盤について幾つか。

Bimg_3396 防衛装備品の国産技術とライセンス生産を含めた生産基盤は結果的に目的を達成するコストを総合的に見た場合、抑える能力がある、という視点です。これはF-X選定に際しての記事で幾度か紹介した視点なのですが、戦闘機を国産する能力やライセンス生産を行う能力を有している場合、予備部品の製造と最も高いレベルでの整備を自前で行うことが出来ます。これは結果的に稼働率を高めることに繋がります、何故ならば海外からの部品待ち時間や整備待ち時間を最小限と出来るのですから。

Img_2861 例えばある空域を防空するために100機の戦闘が必要だったとします。稼働率が90%を超えていたならば、112機の戦闘機を導入し、定期整備と予備部品調達を国内で行えばよく、航空自衛隊はこの方式を採用しこの水準を維持しています。一方で稼働率が50%となった場合は200機を取得しなければなりません。直輸入が安価に取得できたとしても、機数が増大すれば調達費用は大きくなってしまうことは間違いありません。そして運用費用は機体価格の一割から一割五分程度が毎年必要となるので、数が多くなれば維持費も大きく成るのです。

Img_73474 なかには多くの航空機を導入し、稼働部品の共食い状態、つまりいくつかの機体を飛行しない状態としておき、予備部品の供給元とする方式を行う事例もあるのですが、これをはじめてしまいますと有事の際、特に航空機が消耗する状態に陥った場合、極端に稼働機数が低下する可能性があります。技術云々ではなく、飛ばすうえで必要な部品が欠乏する状態では稼働率は長期の維持という選択肢を失わせ、こうした態勢を常態化させることは抑止力そのものを低下させてしまう、という事を認識せねばなりません。

Bimg_9061_2 加えて運用期間をかなり柔軟性を以て防衛計画を作成することが可能です。例えば航空自衛隊が運用するF-4戦闘機ですが、米空軍では20年近く前、湾岸戦争から暫くのちに最後まで運用された防空網制圧型の機体が廃止されています。これをもって米空軍は近代化計画なども合わせて終了しているのですが、航空自衛隊は能力向上改修を行い、併せて新しい搭載装備の開発なども継続、第一線能力を維持し、加えて運用寿命の限界まで運用できるよう、生産を行った三菱重工は支援を継続し、直輸入ではこうは無理が利かなかったでしょう。

Bimg_3178 もちろん、全ての航空機をライセンス生産や国産開発をするべき、という視点は必ずしも強調するものではありません。これは前回の特集でもふれたものですが、例えば少数機の導入に留まるものは、敢えて生産設備を国内に整備した場合、生産設備の整備費用がかなり高額なものとなりますので国産には一定の保留を行い、整備能力、勿論その航空機が有する任務への貢献度合いにより、どの程度の投資を行うかは判断されるべきですが、ここに注力するべきです。

Gimg_8624_1 このほか、国産度合いを高めるという事は、生産計画に対し柔軟性をもたせることに繋がります。生産基盤と共に整備基盤と、この基礎を支える教育体系の構築と部品供給体制の構築は機種ごとにかなりの費用を要しますが、生産計画を外部に依存せざるを得ない直輸入では、生産継続を求める場合には相当数の取得が必要となり、当初計画を上方修正することが非常に困難となってしまいます。もう一個飛行隊程度揃えたい、事故損耗を補てんしたい、としても生産終了となってしまう、ということ。

Bimg_4899_2 上記問題に対しては、国産であるほうが柔軟に増勢が可能となります。例えばF-X選定においてF-35かEF-2000かF/A-18Eを導入するかの討議が長引いた際にF-2が日米共同生産ではなく、日本単独生産であればもう一個飛行隊を増勢して、一種の繋ぎとする選択肢もあり得ました。このほか、機体強度などの問題が発生した場合、国産機であれば問題解決に主体的に関与できますし、ライセンス生産であれば自前での構造改修や補強を行うことが出来ますが、直輸入ではこうはいきません。

Img_1196 もちろん、直輸入を行った方が、機種にもよるのですが日本国内で生産するよりは大量の機体を生産しているため、航空機の量産効果が高まり、一機当たりは安価となることは確かです、我が国で生産する場合はライセンス料を負担し、国内での生産基盤と整備基盤を負担したうえで、製造を行い教育体系を構築しなければならないのですから。しかし、稼働率や装備体系の統一に生産数への関与など、全体的には費用を低減する利点がありますし、こうした能力を持ち、保有する装備を確実に運用可能である、という点がまず、武力紛争への抑止力となるでしょう。

北大路機関:はるな

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

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