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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

在沖海兵隊の抑止力 普天間飛行場海兵隊航空部隊と日本周辺情勢

2010-05-09 17:05:29 | 国際・政治

◆沖縄を軸に抑止力の圏内へ台湾海峡・朝鮮半島

 名護市辺野古沖に杭打方式で普天間飛行場代替施設を建設する方針で、日本政府案は方向性が見えたようです。しかし、海兵隊の抑止力と在沖米軍の位置づけ、もう少し真剣に考えられるべきですね。

Img_0007  普天間飛行場移設問題について、移設に伴う騒音と治安の面での負担問題がはなされていますが、本日はこの点について少し長く記載してみます。海兵隊の抑止力の圏内に朝鮮半島と台湾海峡があるのですが、この圏外に移設を行い、必要な時に抑止力を行使できなければ当然武力紛争に展開します。その後、武力紛争を現状の国際秩序とは異なるかたちで収束させた場合、沖縄を含む日本への負担は否応なく高まる、というのが本日の本題。簡単にまとめると、海兵隊の抑止力が無くなれば中国による台湾への軍事行動への障壁が一つ減り、仮に台湾が占領され、台湾に中国の基地が建設されれば、日本は沖縄を最前線にして部隊を集中する必要が生じ、こちらの方が民生負担が大きくなりますよ、という事。

Img_9551_1  在日米軍の抑止力は日本防衛の為だけにある、という考え方そのものが全ての議論を空転させてしまう背景があるのですよね。嘉手納基地の第18航空団は戦闘航空団としては米空軍最大規模ですし、三沢の第35戦闘航空団、横須賀の第七艦隊前方展開部隊には空母ジョージワシントン、厚木航空基地には第五空母航空団。沖縄の第三海兵師団と岩国の海兵航空群、横田の第五空軍司令部など、これはアメリカ国民の税金のもとで編成され装備品を運用する米軍部隊で、駐留経費こそ日本側がかなりの部分を負担しています。しかし駐留経費分担金は、空母一隻の年間維持費と運用費を考えるならばそこまで巨額というわけではありません。

Img_2837   アメリカが日本にこれだけの米軍部隊を展開させるのは、アジアという巨大な地域において安定させ、関係するすべての国が交易や交流、投資により得られる恩恵が結果的にアメリカを利するという視点から行われている事です。外交評論家の方には、NHKの日曜日に討論を行う番組において自衛隊の能力を過小評価する方がいるようですが、これはあまり正しくないのですね、日本本土を現在の脅威から防衛するうえでは充分な能力を有していますし、一部誤解している人もいるようですが在日米軍よりも自衛隊の方が装備や規模は充実しています。

Img_9608  第三海兵師団よりは能力的に陸上自衛隊の九個師団六個旅団の方が大きいです米空軍の二個航空団が有する戦闘機部隊の能力よりは航空総隊に所属する要撃飛行隊の方が大きいです。横田の輸送機部隊よりも航空自衛隊の輸送能力の方が若干大きいですし、第七艦隊は航空母艦の能力こそ突出していますけれども、自衛艦隊の護衛艦や潜水艦の能力は、数でも質でも米海軍と比較さえしなければ非常に大きいものがあります。しかし、アメリカが行おうとしているアジア全体の安全保障を担う事が自衛隊に出来るか、と問われれば、これは少し話が換わってきます。

Img_2056_2  在日米軍は日本への抑止力というよりも、アジア全体に展開させる体制を維持することで軍事的冒険を抑えている訳で、駐留部隊は平時におけるプレゼンスを発揮するとともに、有事に拡大運用される、という位置づけにある訳です。必要に応じて米軍基地へは、現在駐留している部隊よりも遥かに大きな規模の部隊を集結させる能力をアメリカは持っていますので、こういう意味から在日米軍の基地施設と言うものの位置づけは考える必要があるわけではないでしょうか有事の際にアメリカは本土から多数の予備部隊を展開させることができます。これは自衛隊を増強して置き換えられる、というものではありませんし、ね。

Img_6023  こういった議論を行うと、日本はアメリカが引き起こした戦争に意図しなくとも巻き込まれる、という、いわゆる“巻き込まれ”論というものが、出てきますというか、東西冷戦では叫ばれていました。欧州地域限定の戦域的な武力衝突に太平洋側から介入しようとしたならば、そういう議論はある程度妥当性もあったのかもしれませんが、今日では、少し違いますね。アジア地域での安定が無ければ、日本の経済はもちろん、国民生活にも重大な影響がある訳です。これは特に朝鮮半島における緊張が増した場合や、台湾海峡において不穏な状況が現出した場合に説得力を増すでしょう。普天間飛行場移設問題で揺れる国際情勢、というところでしょうか。日本では内政問題を絡めた日米問題として理解されているこの問題ですが、台湾や韓国で普天間問題に関する発言が出始めています。

Img_9419  社民党党首の方曰く、沖縄には海兵隊はほとんどいないのだから普天間飛行場の代替施設は不要、という独自の論点を展開しています。しかし、ほとんどいないのならば、騒音問題についてもいないのだから気のせいですよ、という方便が成り立つわけでして、それならば移設しなくても今のままでいいのでは、と考えてしまいます。それはさておき、抑止力を行使する海兵隊の存在は、海兵隊の拠点が日本にある、という事が重要な訳で、脅威が日本の領域に殺到してから準備していては遅いわけでして、有事が起きないようにしなくてはならない、となります。脅威を抑止するとはそういうことです。

Img_7475  台湾情勢が急に緊迫化した場合の米軍の対処部隊が沖縄の海兵隊であり、韓国の情勢が韓国駐留の第二歩兵師団が支えられないような状況となった際に対応するのが沖縄の普天間飛行場のヘリコプター部隊であるわけです。緊急時にはすぐに海兵隊が得意とする空中機動により介入できる体制を海兵隊が固めているからこそ、台湾や朝鮮半島において軍事的な冒険を行おうという意図に大きなリスクを与える、これが抑止力です。海洋国家である日本は対岸に脅威が及んでから焦るようではナンセンスである、という言葉を時として聞きます。

Img_6920  既に対岸はということはさておき、仮に台湾有事が発生し、米海兵隊の介入が遅れて台北市が中国の快速反応部隊により占領された場合、台湾の中華民国そのものが国家として消滅してしまう可能性があります。その際、中国が台湾の民国基地をそのまま基地として使用した場合、日本はなんとかして中国と防衛力で向かい合わなければなりません。この場合、沖縄が最前線となってしまいます。選択肢として日本が抑止力を行使するのは難しいでしょう。海兵隊に代わって陸上自衛隊が台湾に投入されて、中国軍部隊と一戦交えるというのは少し現実から離れてしまいますし、こうした姿勢を日本政府が提示して抑止力とする、という選択肢も少々無理がありますよね。

Img_1739  沖縄には現在、第83航空隊のF15一個飛行隊が防空にあたり、第15旅団が陸上の防衛にあたっていますが、台湾を拠点として日本列島に脅威が及ぶ場合には、第九航空団に格上げして最低でも二個飛行隊に挙げる必要が出てきますし、場合にっよっては読谷補助飛行場跡地か、移設できた場合という前提付きですが普天間飛行場跡地に一個航空隊を新設す必要性も真剣に議論されるでしょう。下地島には緊急着陸用を含め航空救難団の前進施設が必要になるでしょうし、付け加えればペトリオットミサイルも更に一個高射群新編し、先島諸島と鹿児島の奄美諸島に展開させる必要が出てきます。

Img_6403  海上自衛隊も現状では佐世保地方隊の一部を沖縄基地隊として展開させ、掃海艇を配置しているのですが、台湾という一つの拠点が日本にとり、少なくとも日本の排他的経済水域に海軍部隊を展開させ、警戒に出動した海上自衛隊部隊にたいして威嚇や示威行動を取る勢力により占領され、拠点とされるのならば、佐世保基地からの距離を考えると現状の防衛体制では対処不能となります。特に台湾海軍は、大型フリゲイトやミサイル駆逐艦を多数運用して中国海軍の圧力を受け止めていますから、台湾に万一の事があれば、それの後の圧力を支えるのは至難の業です。

Img_1362  護衛艦そのものの定数を増強する必要はもちろん、新しく沖縄地方隊を新編し、佐世保地方隊を南西諸島北部と対馬海峡の警戒に専任させて、沖縄近海は新しい地方隊に掃海艇とミサイル艇、輸送艇を配備する必要が出てくるでしょうし、護衛艦の継続的な展開、または一個護衛隊程度の護衛艦の母港化も必要となるやもしれません。現状では中国海軍が台湾近海を通行しようとすれば台湾の民国海軍が牽制しますが、それが台湾有事により無くなる訳ですので勝連基地以外に米軍の那覇軍港も返還後に那覇基地としなくては部隊を収容出来ません。

Img_9555  第15旅団も現行の2100名体制ではその能力に十分とはいえない部分がありますので、空中機動に重点を置いた中央即応集団のような編成に置き換える必要があるでしょう。第二ヘリコプター団と第二空挺団を編成して沖縄本島を起点に島々に緊急展開できる体制を構築、ヘリコプター部隊の拠点も木更津駐屯地程度の用地を接収する必要が生じるでしょう。緊急展開の為の空中機動部隊だけではもちろん不十分で、南端西端に近い島々へは、現行では沿岸監視隊が必要な状況ですけれども、対岸に脅威を見据えるのならば対馬警備隊のような警備隊を配置する必要が出てきます。

Img_7892_1  現在、第15旅団にはホークミサイルを運用する高射特科群が配置されていますが、旅団は近接戦闘に専念するべく高射特科群は旅団から方面直轄へ管理替えを行う必要が生じるでしょう。加えて広い島嶼部の防衛には特科部隊、特に88式地対艦ミサイルを運用する地対艦ミサイル連隊の新編か、北海道の第一特科団からの管理替による沖縄移駐も必要となるかもしれません。もっとも、現状でも多目的誘導弾の離島への展開配置を視野に、離島へ分屯地を建設する必要は、あるのではないかと考えるのですけれどもね。

Img_2783  仮に台湾有事の後に民国政府が崩壊し、人民解放軍が台湾に進駐するようなこととなれば更に沖縄の防備を固める必要が出てきます。中国本土から南西諸島へ中国の空中機動部隊が展開することは航続距離の観点から難しいものがありますが、台湾本土からであれば可能となりますから、本土から一個師団か一個旅団を転地させるくらいの決断も迫られることになるでしょう。例えば北海道の第11旅団を師団として再度強化し、道南地区を警備区に編入した上で帯広の第五旅団を戦車部隊とともに沖縄に移駐させ、防衛を強化するような方式がありえるかもしれません。

Img_6697_1  もっとも、台湾という蓋がなくなれば、日本のシーレーンが広い範囲で中国海軍の影響下に収まってしまいますし、これまで中国を牽制していた台湾という勢力が無くなり、その部分を日本が抑えることになるのですから、シーレーン防衛について、日本は冷戦時代に行っていた努力以上に防衛負担を、一般国民には税金の防衛費への支出というかたちを中心に行う必要があるわけで、普天間問題を放置し、海外に移設する等台湾有事に対応できない状況を作り出すことで台湾に万一のことがあれば、日本国民全体が大きな負担を強いられることになるわけです。

Img_0724  南西諸島のような狭い場所にそれだけ駐留することは無理だろう、という声もあるかもしれませんが、九州とほぼ同じ面積の台湾島には民国陸軍24万が有事に備えていますし、中国本土から1.8kmにある中華民国領、金門島には、面積が徳之島の0.6倍と非常に狭いものの、1996年の総統選挙に伴う中国軍のミサイル演習、いわゆる台湾海峡危機の際には四万の部隊が展開し、全島に陣地を構築しました。朝鮮半島38度線以北の韓国領、先日韓国のコルベットが撃沈されたペクリョン島にも島民5000に対し、韓国海兵隊を中心に一個旅団4000が駐留しています。日本であっても必要であればこうした選択肢は取られるはずです。

Img_4768  それならば、無防備になって沖縄全体を無防備都市宣言すれば、という楽観論も、・・・、そういう人はこのWeblogを読まないのでしょうけれども、いるかもしれません。そこで、沖縄県は平和だから手は付けないようにしよう、平和は大事だ、と中国政府が方針転換をすれば安心なのですが、沖縄本島が、在日米軍がいる以上あり得ないのですけれども、仮に、と前置きした上で台湾有事に続いて沖縄本島、本島以外にも空港を有する離島が中国により占領された場合はどうなるか、と問われれば、以下のようになります。

Img_0069  沖縄に中国軍が侵攻して、そのあと全ての部隊が撤退し非武装の緩衝地帯となれば話は違ってくるのですが、沖縄を拠点に日本のシーレーンや日本本土に対し影響力、直接的にいえば攻撃を加えたならば、日本はこの脅威を排除する必要が出てきます。奪還するべく再び今度は日中間で沖縄を戦場として戦闘が起きることもあるわけで、これこそ比類無き県民への負担となるでしょう。無防備都市は占領されればその時点で占領軍によって防守都市に転換しますからね。無防備都市であれば占領されない、というわけではないのですから、この点重要です。

Img_1813  思い起こせば、沖縄戦も第32軍から台湾軍が台湾防衛のために三個師団のうち一個師団を抽出して、台湾に移駐。この結果、三分の一が抜かれ、当時検討されていた姫路からの沖縄への一個師団移駐も実現せず、無防備になったことで米軍が沖縄に上陸したわけでして、沖縄の第32軍が三個師団基幹の編成を維持すれば、沖縄攻略に投入されたアメリカ第10軍は海兵二個師団・陸軍四個師団基幹ですから、戦力比は抽出後の1:3から1:2となり、他の島か時期が遅れ疎開の時間が稼げるかで、もう少し違った結果になったかもしれません。充分な防衛力が無ければ抑止の均衡は簡単に破綻するという意味です。

Img_0996  沖縄の負担軽減の為に普天間を県外や海外へ、という決断を下し、一時的に平穏を得ることが出来れば沖縄本島で暮らす人たちは騒音から解放され、喜ぶかもしれません。しかし、これまでに述べたように抑止力が低下すれば武力紛争に繋がる可能性を高め、再度用地は接収されることになっては無意味ですし、そののちに対岸に脅威が及び、いまよりも多くの部隊が駐留すれば、更に負担と言いますか、増えてしまいます。こういう将来への負担を増加させる選択肢、というのはありえるのでしょうか。個人的には避けるべきだろう、と考えます次第。

Img_6698  地政学上の要衝、早い話が沖縄の位置に今回の問題は依拠しているのですよね。しかし、こうした騒音が永続的に続くのか、と問われればそうでもありません。中国が、民国と同じ程度の普通選挙が行われる程度に民主化し、日米と価値観を共有する程度に安定化すれば、在沖米軍海兵隊の位置づけは変わってくるでしょうし、平和裏に朝鮮半島の南北統一か連邦化が実現すれば、根本的に変化の時期を迎えることになるでしょう。つまりは、海外移設の話題については、現在の周辺情勢を俯瞰する限りで、単に時期尚早、と言うだけなのですよね。

Img_4089  ところで、普天間飛行場移設先が基本的に辺野古沖の杭打方式で建設する、という方針を定めて社民党は反対している、という状況なのですが、訓練だけでも全国の自衛隊施設を巡回させる、という方式が検討されていて、最初に名前の挙がった徳之島とも交渉を進めてゆく、とのこと。そんなことすれば与党に対して反対する自治体といいますか、基地受け入れに反対する集会と、それに連動する首長がどんどん増加して、日本が民主党からl孤立、といいますか、民主党が日本から孤立するという結果になるのではないか、と考えています。

HARUNA

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コメント (14)
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