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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

中国5.12地震 犠牲者1万5000名に迫る 四川省大地震と日本の役割

2008-05-14 22:32:09 | 国際・政治

■日本は復旧ではなく復興の支援を

 12日の日本時間1530時頃、中国四川省を巨大地震が襲った。アメリカ地質研究所によればマグニチュードは7.8(7.5と修正後、7.8に再修正)、第一報では死者4名、負傷者250名といわれた被害も24時間後には死者1万以上に修正された。本日1900時の報道では死者は1万5000名に迫るとのこと。

Img_6586  突如として大地が社会に牙を剥き、数分の膨大なエネルギー放出が事後にも災厄を強いる地震災害、それは日本にとっても東海地震、東南海地震、南海地震の同時発生が危惧され、首都圏直下型や宮城県沖地震の危険性などが繰り返し指摘され、官民一体となった防災への努力が続けられていることを考えれば他人事ではない。

Img_3969_1  四川省大地震、激震は遠く北京や上海にも及び、高層ビルでは避難命令、震源に近い成都や重慶では甚大な被害が出ているという。14日早朝の時点で犠牲者は11921名。病院や学校などの公共施設も破壊され、倒壊建造物の下敷きなどで行方不明となった人も多数いるとの情報だ。それ以上に、化学工場爆発やガソリン貨物列車脱線など情報が錯綜しており、震源地への交通路が遮断されるなど、今後の展開に気がかりな点も多い。

Img_3740  震源は深さ11km、マグニチュードは7.8とされたことで、小生は第一報に接し、直下型という印象を持ったが、それにしても被害が広範囲。直下型の兵庫県南部地震では、震源に近い淡路島や神戸市が大被害を受けたのに対して、姫路や大阪市では被害はやや少なかった。理由は単純で、原因となった活断層が非常に大型であり、大陸内部で生じた地震では最大規模のものだったため、という。

Img_3622  詳細を調べて分かったのだが、兵庫県南部地震とは異なり、この四川省大地震は、100×360kmの地盤が5㍍動くという規模で、浅発性であったため、地殻の深部にエネルギーが拡散せず、表層部を長距離にわたり変動エネルギーが伝播するLg地震波という性質をもっていたとのことで、これが被害広域化の背景にあるようだ。

Img_0738  日本では自衛隊の災害派遣について、阪神大震災以降、要請する自治体の危機管理と、自衛隊の災害派遣装備の充実もあり、迅速的確化し、昨年の能登半島地震や新潟中越沖地震では、その即応能力を如何なく発揮したが、今回の四川省地震では、地震災害に対して経験を蓄積していない成都軍区の人民解放軍が武装警察とともに迅速に出動した様子が伝えられている。

Img_0039  成都市の人口は1000万以上で、これは東京23区に匹敵する大都市である。また、成都市の北に位置する綿陽市もかなりの被害を受けていることから、蘭州軍区からも恐らく支援が行われているはずで、部隊が到達できる地域では最大限の救助活動が行われているようだ。中国側が国外からの人的支援を拒否している様子が報道されているが、これは単純に兵庫県南部地震の際と似たような、意思疎通と受け入れ能力の問題に起因すると考えられる。

Img_6301  人民解放軍は、すでに陸上自衛隊中部方面隊の二倍以上の人員にあたる五万人を投入しているとのことだ。広大な中国の国境を警備する人民解放軍は人的にも余裕があり、必要となれば更なる増援にも対応できよう。人民解放軍というと、装備や練度という観点から遅れているイメージが持たれているが、限られた予算の中でも近年は近代化に尽力しており、能力的には充分なものがあるように思う。

Img_0065  ただし、それは都市部でのことで、震源地の山間部というのは救助活動を行う上で大きな制約となる。山間部道路は、地形の変容と地滑りでズタズタに引き裂かれており、車両による救援活動は困難とのことだ。重機を大量投入して道路機能復旧に全力を挙げる様子が報道されているが、100×360kmの地盤が5㍍ずれたという、例えば四国が5㍍動いたようなもので、復旧には時間が掛かりそうだ。徒歩部隊の投入も、徒歩部隊では被災地域の救援物資搬送はもちろん、部隊の自活資材搬送も限界があるため、慎重に行う必要がある。

Img_2712  日本では考えにくいが、孤立集落にパラシュートで部隊を投入することも検討されたようだ。山間部の降下地点確保もままならない(降下地点が確保できるのならばヘリコプターを使う)危険な地域に、済南軍区第15軍は空挺部隊投入を検討、輸送機22機により6000名の空挺部隊と4両の車両を輸送、100機の航空機が出動準備を進めているとの報道。6000名が報道されているように全員パラシュートで空挺降下したのであれば、これは朝鮮戦争以降、最大規模の空挺作戦となる。

Img_9259_1  今回の地震に対する日本政府の対応は、高村外相が発表した5億円の緊急援助を筆頭に、必要があれば人的支援も検討。ただ、これは指揮系統が煩雑化するのと、発表。連絡将校の問題から可能性は非常に低いが、仮に今後、人的支援を日本が求められたとすれば、パキスタン地震災害の際に行ったような大型輸送ヘリコプターによる輸送支援かもしれない。ただし、人民解放軍も冷戦時代はソ連極東軍45個師団と対峙する中ソ国境防衛やインド、中越国境地域用にMi-17系統など、かなりの数のヘリコプターを有しており、その可能性も低いのでは、と考える。

Img_0602  自衛隊のほかにも、消防や警察の救難組織、そして医師やNGOなど、日本は大災害に的確な援助を行うことが出来る組織が多数存在するだけに、なにかしなければ、という忸怩たる想いが溢れるのだが、受け入れる側の準備がしっかりとしていない状況では、むしろ現場が混乱する要素になってしまう、ということか(とくに被害が大きな地区へは人民解放軍も空挺降下しなければいけないほどの地域だ)。

Img_3749  日本が今回の四川省地震に際して、協力できることは何か。それは、地震国と称されるまでの幾多の災厄からの復興プロセスに関しての協力ではないか。つまり、自治体国際関係というようなカタチでの協力だ。いわば、復旧というものは時間との闘いであり、指揮系統の調整や金銭面をある程度飛び越える必要があるが、復興となると、非効率は禍根と傷痕を残す。ここで、神戸や新潟のノウハウを活かす事が出来るのではないか。

Img_6462  歴史都市京都も地震災害に脆弱性を有することは否定できず、二条城など世界遺産の建物では耐震補強工事が実施中である。こういった、防災のノウハウについても、同じく多くの歴史的遺産を有する中国が対峙する課題と共通のものがあり、将来、同種の災害が起こった場合に備えて、相互の交流を行うべきではないか、ということだ。

Img_0628  他方、毎回思うのだが、世界的な大災害が起きるたびに、テレビ報道では、親しみやすいキャラクターを立て、電話一回を特定の番号に掛けることで義援金を送れる募金運動を行っているが、それよりも、バラエティー番組の時間を一時間あたり数分短縮して企業CMを入れ、これにより増加した広告料を義援金に使う、というような、マスコミ自らの募金、というようなものがあっても、いいのではないかな、と。

HARUNA

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