ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『太陽にほえろ!』#343

2020-05-05 19:00:18 | 刑事ドラマ'70年代










 
本エピソードは『太陽にほえろ!』後期を支える若手ライター陣(小川塾 門下生)のお一人で、後にNHKの朝ドラ『わかば』等を執筆される実力派=尾西兼一さんの記念すべき脚本家デビュー作。

『太陽にほえろ!』シナリオコンテストに応募し、激戦を制して選ばれた、フレッシュで刺激に満ちた大傑作!……であって欲しかったんだけど……


☆第343話『希望のサンバ』(1979.2.23.OA/脚本=小川英&尾西兼一/監督=木下 亮)

徹夜の張り込みを終えたボン(宮内 淳)&ロッキー(木之元 亮)がディスコで憂さ晴らししてると、どさくさに紛れて男が刺し殺されたから驚いた!

その遺体のそばにいた若い男が、刑事の存在を知った途端に逃走した為、現場処理をロッキーに任せてボンが追跡します。

で、おんぼろアパートの一室に逃げ込んだ男が、住人の若い女に包丁を突きつけ人質にするんだけど、一瞬のスキを突いてボンが包丁を奪い、格闘の末に手錠をかけて、みごと捕獲。

ところが! その時に落とした拳銃を女に拾われ、銃口を向けられてしまう。そう、逃げた男=ヒカル(森田順平)と住人の女=アイ(三東ルシア)は恋人どうしだった!

とっさに手錠の鍵を窓下の川へ投げ捨てたボンは、ヒカルと鎖で繋がれたまま、なぜか彼を殺そうとする悪者たち(どうやら麻薬組織らしい)の襲撃をかわしながら『手錠のままの脱獄』よろしく逃避行します。

ボンがよくよく話を聞いてみると、ヒカルはただ殺人現場に居合わせただけで、どうやら追っ手の中に真犯人がいるらしい。真犯人はヒカルに顔を見られた(と思い込んだ)ため、その口を封じようとしてるワケです。

じゃあ、なぜヒカルは無実なのに逃走したのか? 実はこの日、ヒカルはアイと一緒にブラジルへと密航する予定だった。恐らく過去にも警察沙汰を起こしており、事件に関わると出航時間に間に合わなくなると直感して逃げたらしい。

ヒカルは、ブラジル人の父親と日本人の母親との間に生まれたハーフなんだけど、ハーフであるがゆえに差別され、不遇な人生を強いられて来た。プロボクサーにはなったけど、ハーフだからちゃんと育成してもらえず、強くなれなかった。……と、彼は思ってる。

生まれ育った日本という国に絶望したヒカルは、母親が父親と初めて出逢ったリオのカーニバルに憧れ、ブラジルという未知の国に夢を託してるのでした。

「俺の故郷はブラジルだ。リオだ。日本じゃない……日本じゃない!」

アホですよねw どうしょうもないアホです。我々が彼を見てなんでアホだと感じるのか、これからボンが解りやすく代弁してくれます。

拳銃で撃てばすぐに切れた筈の手錠の鎖を、一生懸命ヤスリでしこしこ削り、ようやく断ち切ったアホのヒカルは、途中で拳銃を奪い返すチャンスがいくらでもあったのに手を出さなかった、アホのボンにその理由を問います。

「その通りだ。チャンスはいくらでもあった」

「なぜ黙ってついて来たんだ? なぜだっ!?」

「お前が俺に似てるからだ」

「なに?」

「ヒカル、お前、混血だから不幸だったんじゃないぞ。お前自身が弱かったから、ダメな奴だったから、うまくいかなかっただけだ。俺はそう思う」

「なんだと? もう一度言ってみろこの野郎!?」

「苦しい時、お前はいつもその夢に逃げた。リオに行きさえすれば、カーニバルで踊りさえすれば……だけど行ったって何も無いんだ! 俺にもそれだけは分かる」

「…………」

「ヒカル。お前のカーニバルは、リオになんかは無い。彼女と一緒の、この日本にしか無いんだ!」

「やめろーっ!!」

そんなアホの2人に、拳銃を持ったアホの真犯人たちが再び襲いかかり、ボンはすぐに拳銃を返すようヒカルを説得します。

「死にたいのか、ヒカル? 拳銃は俺がプロだ。ボクシングはお前がプロのようにな!」

かくしてボンが拳銃を握り、藤堂チームの仲間たちも駆けつけ、アホの追っ手たちは制圧されるんだけど、そのどさくさに紛れてアホのヒカルはまた逃走しちゃう。

だけど行き先は判ってます。ヒカルが密航予定だった港へとボンは走りますが、時すでに遅し。船は出港してしまいました。

「バカヤロウ!」

そう叫んだボンがふと横を見ると、そこには座って煙草をふかしてるアホの姿が。

「ヒカル!?」

「……俺、あんたの名前聞いてなかったよね」

どうやらヒカルは、思ったほどアホでもなかったみたいです。親身になって本気で諭してくれる相手が、ボンと出逢うまで誰もいなかったんでしょう。

「俺の名前は……」

「いいんだ。アミーゴに名前なんかいらない」

「アミーゴ……友達か」

「もう一度ボクシングやるよ。あんたに負けないプロになるために」

(おわり)


……まあ、悪くはないですよね。悪くはないんだけど、悪くはないとしか言いようがないドラマって、どうなの?って私は思っちゃう。

ワクワクしたり笑えたり、心を揺さぶられたり、心に突き刺さって来るような何かが、もっと無いもんか?って。

この時期の『太陽にほえろ!』は毎回そんな感じで、品行方正なのはいいけど枠に収まりすぎてサプライズが無さすぎて、はっきり言ってつまんないです。

ましてや大物脚本家・尾西兼一さんのデビュー作ですよ? この「平凡」と言うしかないストーリーの、一体どこに原石の輝きを見いだしたのか、起用した制作陣の先見の明があまりに凄すぎる!

もしかすると、実際はもっと個性的で尖った内容だったのに、後にデビューされる君塚良一さんの場合と同じように、原型をまったく留めないほどメインライター(というより監修役)の小川英さんに直されてしまったのかも知れません。

民放ドラマ視聴率トップの座を何年も独占し、強権を持ち過ぎて裸の王様になった岡田プロデューサーや小川さん(生真面目の塊みたいな人たち)が、もしかすると『太陽にほえろ!』の癌細胞になってやしませんか?って、私はタイムマシンに乗って進言しに行きたい気分です。

とにかく意外性がない、刺激がない、ワクワクしない。たまたま裏に強力な番組がなくて、ボンや殿下(小野寺 昭)の女性人気と、私みたいな中毒患者の多さに支えられてるだけっていう事実に、創り手のトップたちが全く気づいてない。

高視聴率がもたらす社会への影響力に責任を感じ、模範を示さなきゃいけないってのは、そりゃ立派な考え方に違いないけど、ファンサービスを二の次にしたある意味ゴーマンな姿勢とも言えなくないですか? ファンを喜ばせる事よりも、立派な自分でいる事を優先してるというか、立派な自分に酔っちゃってるというか……

同じ頃、『特捜最前線』では大滝秀治さんがテレホンセックス魔と戦い、『Gメン'75』では香港でヤン・スエが筋肉をメリメリ言わせ、間もなく『西部警察』や『噂の刑事トミーとマツ』なんかも登場するって時に、ご立派な『太陽』先生は教壇で綺麗事ばっか訓示してる。

そりゃみんな居眠りするし、他に面白い授業は無いかって探り始めますよ。そこに絶好のタイミングで『金八先生』が現れちゃうワケです。

こうして『太陽にほえろ!』は着々と、王座陥落への道を自信たっぷりに邁進するのでした。カウントダウンはとっくに始まってます。

ちなみにヒカルと一緒に渡航する予定だったアイは、途中で足を負傷し、彼を逃がすため自ら山さん(露口 茂)に捕まります。

後に彼女が妊娠してることが明かされますが、だからといって特に感慨はなく、なんだか消化不良。もしかすると尾西さんによる最初のシナリオは、ヒカルとアイの悲恋がメインだったのかも知れません。それを例によって岡田さんが「犯人なんかどうでもいいんだ!」ってw それが『太陽にほえろ!』なんだと言っちゃえばそれまでなんだけど……

アイを演じた三東ルシアさんは、当時20歳。'73年頃からCMモデル「里見レイ」として活動開始、翌年「週刊プレイボーイ」の人気投票でオナペットNo.1の栄冠に輝き、女優としても色っぽい映画を中心にご活躍。

刑事ドラマへのご出演は本作と『特捜最前線』#449しかWikipediaには記されてませんが、もっと他にもあったんじゃないかと推察されます。
 


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5 コメント

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Unknown (小人閑居して不善をなす)
2020-05-06 00:18:34
今回は『太陽にほえろ!』は何故つまらなくなったのか、その理由を分析した激情あふれるレビューですね。

と言いつつ、自称にっかつロマンポルノ通の私は俄然、「三東ルシア」に反応してしまいます。
そして先日のコメント欄にお名前のあった伴一彦氏が、駆け出しの頃にロマンポルノの脚本を手掛けていたことを思い出し、イケメン脚本家ももう少し(と言っても十数年でしょうか)早く生れていたら…、といったとりとめのないことを考えてしまうのでありました。

小人閑居して妄想する、ですね。
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Unknown (harrison2018)
2020-05-06 00:57:29
ポルノは一度やってみたかったと、性体験は乏しいくせに彼は言ってましたw

ただ、そのキャリアの末期にケータイ小説をパロディにした映画(田代さやか主演)の脚本を書いており、そこでいくらか変態性が発揮できて、彼は喜んでました。もちろん映画はヒットしませんでしたw
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Unknown (小人閑居して不善をなす)
2020-05-06 01:54:57
スゴい方だと思ってはいましたが、私の想像を遥かに超えた才人とお話しさせていただいていたわけですね。
誠に恐れ多いことです。
先日の厚かましいお願いに応えて記事を書いていただきましたことに改めて御礼申し上げます。

ご紹介いただいた作品、ぜひ拝見したいと思います。
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Unknown (harrison2018)
2020-05-06 07:06:09
マジですか? もし本気で仰ってくれてるなら、件のケータイ小説のパロディは彼の狙いが伝わりにくい仕上がりで、あまりオススメ出来ません。

オムニバス映画『キラーズ』の第4話と、ミニドラマ『亜弥のDNA』は彼が自分で監督してるので、良くも悪くも彼が何を目指してるクリエイターだったかがよく分かります。もしほんとに観られるなら、その2本でお願いします。

クセの強い作風なので、お好みに合うかどうかは賭けですが……
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Unknown (小人閑居して不善をなす)
2020-05-06 14:00:50
ご紹介いただきありがとうございます。
比較的容易に視聴できそうなので、折をみて拝見します!
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