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ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『対岸の彼女』

2018-10-14 12:00:22 | 多部未華子









 
2006年にWOWOWで製作&放映された2時間ドラマ(平山秀幸 監督作品)ですが、これは劇場公開されても遜色ないクオリティーの作品です。

実は、私が初めて多部ちゃんの演技に接したのが、この『対岸の彼女』でした。CATVの日本映画チャンネルを何気なく見たら放映されてて、ちょっとだけ観るつもりがグイグイ引き込まれ、つい最後まで観ちゃいました。

だけどその時は、良い作品ってのは途中から観ても、ちょっと観ただけでも引き込まれるもんだなあっていう感想でした。自分が多部ちゃんの演技に魅了されてる事に、自分で気づいてなかったんです。

後年、タベリスト病院に入院してから本作をあらためて観直し、原作者=角田光代さんのインタビュー記事を読んで私は、初めて観た時から多部ちゃんに溺れてた事をようやく自覚した次第です。

『対岸の彼女』が製作された時点じゃ、多部ちゃんはまだ世間にそれほど認知されてなかった筈なのに、既に角田さんは「この女優さんの大ファンだから」と、多部ちゃんの出演を大喜びされてるんですよね。

で、多部ちゃんの「すごく意思が強い子(の役)なのに、同時に脆さを感じさせる」演技を絶賛されてるワケです。

私が(そして多くのタベリストが)多部ちゃんにハマった要因は、まさにそこなんだろうと思います。ただ意思が強いってだけの役なら、柴咲コウでも黒木メイサでも良いワケだけど、同時に脆さを感じさせる事が出来る若手女優はそうそういません。

前のブログで私は「世の中には多部ちゃんの演技に一瞬で心を揺さぶられる人間と、何も感じない人間の二種類がいる」って書きました。

それはきっと、多部ちゃんが本能的に表現してる強さと脆さの、特に脆さの部分に共鳴するかしないか、の違いなのかも知れません。

本作の並み居る豪華キャスト陣を差し置いて、脇役(しかも新人)である筈の多部ちゃんが最も強い印象を残したのは、そんな彼女の真骨頂が最大限に活かされた作品だから、だろうと思います。

主人公は、人付き合いが苦手な専業主婦の小夜子(夏川結衣)。まだ幼い娘が自分そっくりに育ちつつあるもんで、何かを変えて行かなきゃって、漠然と思ってる。

それで就職した小さな旅行会社の女社長が、独身で行動派で楽観的で、小夜子とはおよそ正反対なキャラの葵(財前直見)。

自分に無いものを持った葵に惹かれていく小夜子だけど、実は高校時代の葵(石田未来)は小夜子みたいに内向的な性格で、イジメられっ子だった。

だけど転校した先で出会った、全く人見知りしないクラスメート・魚子(ななこ=多部未華子)と親友になった事で、葵は大きく変わった。

かけがえのない夏休みを過ごした後、ちょっと大きな事件を起こした2人は、周りの大人たちによって引き裂かれてしまう。

たぶん、魚子と別れてからずっと、葵はかけがえのない親友を探し求めて来た。そして、かつての自分によく似た性格の、小夜子と出逢った。

学生時代と違って、立場も生活環境も全く違う葵と小夜子が、果たして親友になれるのか? そして小夜子は、かつて葵が変わったみたいに、自分の殻を破ることが出来るのか?

夏川さん、財前さんに加えて、小夜子の夫役に堺 雅人さん、同僚役に根岸季衣さん、野波麻帆さん、そして葵の両親役に香川照之さんと木村多江さんが扮するほか、無名時代の波瑠さんが多部ちゃんのヤンキーな妹役で(一瞬だけど)出ておられます。

これだけのキャストが揃い、皆さん素晴らしい演技をされて、しかもメインは現在(大人になった葵と小夜子の)パートなのにも関わらず、我々の印象に残るのは圧倒的に’80年代(高校時代の葵と魚子)パートの方なんですよね。

特に、とても明るくて社交的な魚子が、家が貧乏だというだけの理由で、ある日突然イジメのターゲットにされてしまう場面。

そして、そんな状況になっても「全然怖くない。私の大切なものは、そんな所に無い」って、笑顔で葵に語りかける魚子の場面。

そんなに心の強い魚子が、葵と海辺の民宿で夏休みを過ごした最終日、急に「帰りたくない」って言い出して泣き崩れる場面。タベリストでなくとも、この作品を回想すれば、それらのシーンが真っ先に浮かんで来る筈です。

まさに、強さと脆さを同時に表現出来る、多部ちゃんの真骨頂が見られた場面ばかり。並みの若手女優が演じたら、魚子が二重人格者に見えちゃうかも知れません。

本作に弱点があるとすれば、高校時代の葵=石田未来ちゃんが夏川結衣さん(小夜子)に似てて、魚子=多部ちゃんが財前直見さん(葵)と同系統のルックスなもんで、見てるとこんがらがっちゃうんですよね。

私が初めて観た時は途中からだったもんで、余計にこんがらがって最後まで現在と過去が繋がらなかったんだけど、それでも感動したのはやっぱ、多部ちゃん演じる魚子に共鳴したからでしょう。

たぶん、誰だって変わることは出来るんだって事を映像で示すために、あえて逆のキャスティングをしたんだろうと思うけど、それはちょっと観客の感性を信頼し過ぎですよねw

まぁ、不満点はそれ位で、演技、演出、脚本、映像、どれをとっても文句無し、自信を持ってオススメ出来ます。劇中に出て来る「とっておきの場所」をタベリスト仲間と一緒に見学した思い出も含めて、個人的にも忘れがたい作品です。
 

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『ルート225』

2018-10-14 00:00:15 | 多部未華子










 
2006年公開の日本映画です。撮影時の多部ちゃんは16歳と思われます。

監督=中村義洋+脚本=林 民夫のタッグは、後に井坂幸太郎原作の映画『フィッシュストーリー』(2009年公開、多部ちゃんも出演)を手掛ける事にもなります。

主人公は中流家庭のごく平凡な女子高生=田中エリ子(多部未華子)。氏名もごく平凡で、私の知り合いにも同姓同名の人がいますw

で、ある日、帰りの遅い弟=ダイゴ(岩田 力)を迎えに行って、一緒に帰宅しようとしたら驚いた! 我が家のある筈の場所がなぜか海になっている!

ワケの分からないままウロウロする内に、姉弟は何とか帰宅するんだけど、さっきまでシチューを作ってた筈のお母さん(石田えり)がそこにいない。

気まずくなってた筈の親友と知らぬ間に仲直りしてたり、死んだ筈の同級生が平然と生きてたり、巨人の高橋由伸選手が微妙に太ってたりとw、姉弟を取り巻く世界が以前とは違ってる。

どうやら姉弟はいったん別次元に迷い込み、戻って来た世界は以前と違う時系列、いわゆるパラレルワールドだった!としか考えられない。果たして2人は、両親が待つ元の世界に戻れるのか?

月並みなSF映画なら、主人公が元の世界に戻るまでの冒険と、家族との涙の再会が見せ場になるワケですが、この作品は違います。

(以下、ネタバレです。これから鑑賞予定の方は読まないで下さい)




エリ子とダイゴは結局、元の世界には戻れません。それどころか2人は否応なく、それぞれ別の親戚に引き取られる事になっちゃう。両親がいないんだから、そうする以外に生きてゆくすべが無いワケです。

元の世界の思い出を共有する、唯一の相手とさえ別れなきゃいけない結末は、どう考えても残酷だし悲しいんだけど、この姉弟は涙を見せないんですよね。演出も実に淡々としたもんです。

意表を突いた展開ですこぶる面白いんだけど、こんな残酷な結末を選んだ創り手の意図って、一体何なんだろう?って、初めて本作を観た時、私はちょっと戸惑いました。

で、確かアマゾンのユーザーレビューだったと思うけど、ある人の感想を読んで「なるほど!」って納得しました。言われてみれば、ラストシーンにおけるエリ子のモノローグで、実に解り易くテーマが語られてるんですよね。

弟と別れ、新しい環境での生活を始めたエリ子に悲壮感は無く、むしろ楽しそうにさえ見えます。

「東京を離れてしばらくは、東京のことばかり考えていた。もちろん、元の世界のことだけど… でも、離れてしまうと、その境界は徐々に曖昧になって、今では、どちらもボンヤリと、懐かしい場所のような気がする……」

何らかの事情で家族や仕事を失った人も、例えば震災で家を失った人も、しばらくは大変だし不安に押し潰されそうになるかも知れないけど、人間には順応していく力が備わってる。

私自身、高校を卒業して生活環境が激変した時(知らない土地で初めての一人暮らし&初めての労働)、死ぬほど心細くてツラかったけど、1~2ヶ月も経てば順応し、明らかに以前の自分より強くなってました。

生きていれば、必ずそんな大きい試練が何度かやって来る。けど、自分を信じてとにかく進んでみよう。きっと乗り越えられるし、以前より強くなった自分に気づく筈だから……ってことを、この物語の作者は伝えたかったんだと思います。

否、もっとシンプルに、これは子供が思春期を終え、親の加護から離れて独り立ちしていく姿のメタファーなんだ、との説も(たぶんアマゾンのレビューに)ありました。言われてみれば、そんな気もしますw

多部ちゃんの演技は、弱冠16歳にして安定感バツグンで、特に弟の一挙手一投足に厳しいツッコミを入れるドSな感じには、とても演技とは思えないリアルさがありますw

多部ちゃんが演じなくても面白い映画にはなったでしょうが、多部ちゃんが演じなければここまでリアルな日常感は出せなかったと思います。その日常感こそが、本作の肝なんですよね。

また、高校の制服姿でソファーに寝そべったり、自転車から飛び降りたり、憎たらしいイジメっ子に未華子キックをお見舞いしたりと、多部ちゃんの白い太ももをチラ見せするサービスショットが、やけに多い映画だったりもします。

弟役の岩田力くんも実に良い味を出してくれました。とても多部ちゃんの弟には見えないルックスなんだけどw、普通に可愛い子役だと面白さは半減してた筈です。エリ子の良き理解者である同級生「マッチョ」といい、イケメンや美少年が一切登場しない点がまた素晴らしい!w

笑える台詞も多く、涙を押し売りしないからこそ泣ける場面もあり、もちろんSFとしても楽しめるし、多部ちゃんファン以外の方にも是非オススメしたい作品です。
 


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