☆第358話『愛の暴走』(1979.6.8.OA/脚本=小川 英&尾西兼一/監督=児玉 進)
病院のボインボイィィ~ン!な可愛い看護婦=洋子(石田えり)が、ナイフを持った若い男=武司(中西良太)に拉致され、タンクローリーで連れ去られるんだけど、たまたま病院に来てた毛むくじゃらの大男が無理やり助手席に乗り込んで来て、ナイフを持った狂犬と舌っ足らずな熊に挟まれて遠距離ドライブに連れ回されるという、これ以上ない悪夢に見舞われます。
やがてその熊がロッキーと呼ばれる刑事(木之元 亮)であることが判るんだけど、彼は「止めろ! 止めるんだ!」「落ち着け! 落ち着くんだ!」と馬鹿のひとつ覚えみたいに同じセリフを繰り返すばかりで何の役にも立ちません。
武司は洋子の元カレなんだけど、洋子が杉浦というチンピラ(河西健司)に心変わりした上、杉浦とその手下どもにリンチされたもんで逆上し、彼女と心中するつもりで拉致したのでした。
タンクローリーには大量のトルエンが積まれており、民家にでも突っ込んだら大惨事を招く恐れがある為、ロッキーは「止めろ! 止めるんだ!」「落ち着け! 落ち着くんだ!」と連呼しますが何の役にも立ちません。
で、武司は途中で杉浦の手下が乗るバイクを見つけ、ロッキーが「止めろ! 止めるんだ!」「落ち着け! 落ち着くんだ!」と制止するのも聞かずに撥ね飛ばしてしまい、復讐に燃える杉浦一派(要は暴走族)にアサルトライフルで狙われる事態にまで発展し、ロッキーはなんとか武司を止めるべく「止めろ! 止めるんだ!」「落ち着け! 落ち着くんだ!」と必死に説得しますが、何の役にも立たないのでした。
本作は当時新人ライターだった尾西兼一さんのデビュー2作目だけど、若い男女の逃避行に若手刑事が付き添う構図といい、いまいちハートに響いて来ない感じといい、前作(#343『希望のサンバ』)とよく似てます。私はどうも尾西さんとは相性が悪いのかも知れません。
主役のロッキー=木之元亮さんが相変わらず一本調子な演技で「止めろ! 止めるんだ!」「落ち着け! 落ち着くんだ!」しか言わないし、劇団「ミスター・スリム・カンパニー」のツッパリ俳優たちのツッパリ演技もステレオタイプでつまんないしで、石田えりさんというオアシスが無ければ何の見所もなく、観ながら「止めろ! 止めるんだ!」「落ち着け! 落ち着くんだ!」って叫びたくなります。
唯一面白かったのは、覆面車でタンクローリーを追跡してたゴリさん(竜 雷太)が、車で進路妨害してきた杉浦の手下を引きずり下ろし、フルボッコにする場面。
「貴様、なんで我々を妨害した!?」
「面白えからだよ!」
「面白え? なにが面白え? なにが面白えーっ!?」
……って、進路妨害されただけにしちゃゴリさんの怒り方がハンパないw なんだか調子に乗ってるスリム・カンパニーの連中が気に食わなかったのかも知れませんw
クライマックスは、ライフルを持った杉浦一派に追われて山小屋へ逃げ込んだロッキーが、自分がオトリになって武司と洋子を逃がしてやるも、途中で武司が引き返してロッキーと共闘する展開になります。
「俺、戻るよ。俺のやったことで、あの刑事1人死なせるなんて、俺……そんなこと出来ないよ」
「……イヤよ、私はイヤ! あなたもイヤ! 杉浦さんもイヤ! みんなイヤ!!」
そんな洋子の反応だけは、リアルで良かったと私は思います。
で、武司の協力により杉浦一派からライフルを奪ったロッキーは逆転勝利。
「おい、無事だったか!?」
駆けつけたボン先輩(宮内 淳)に、ロッキーは顔を毛むくじゃらにして言います。
「ええ。どういうワケか、仲間が出来たもんですから」
「仲間?」
「いや、俺はそんな……」
照れる武司だけど、ひたすら「止めろ! 止めるんだ!」「落ち着け! 落ち着くんだ!」としか言わないロッキーに対して、武司がいつ仲間意識を芽生えさせたのか、眼がふし穴の私にはさっぱり判りませんでした。
あっさり武司を見捨てた洋子の描かれ方だけはリアルで良いと思ったのに、ラストシーンで留置所の武司に洋子が差し入れを持って来たらしい、みたいなフォローを入れちゃうし(そこは例によって小川英さんの手直しかも知れないけど)う~ん、尾西脚本……私にとっては鬼門になるかも知れません。
石田えりさんは当時19歳。前年に映画『翼は心につけて』で注目され、翌'80年の『ウルトラマン80』レギュラー出演、そして'81年のATG映画『遠雷』等で本格ブレイクされることになります。
刑事ドラマへのゲスト出演は本作しかWikipediaには記載されてませんが、以前ここでレビューした『刑事犬カール』#27みたいに別名義で出演された作品は他にもあるかも知れません。
☆第357話『犯罪スケジュール』
(1979.6.6.OA/脚本=中村勝行&小川 英/監督=児玉 進)
「森川倉庫」という会社の貸し金庫に時限爆弾が仕掛けられたという通報を受け、七曲署・藤堂チームの面々が駆けつけますが、爆弾はダミーと判明。
犯人の正体も目的も分からない中、こういう事態に備えて防犯訓練をしておきたいと、森川倉庫の管理部長=芝岡(田口 計)が藤堂チームに協力を要請して来ます。
常連悪役の田口計さんが持ち込んでくる話にウラが無いワケ無いと思ったら案の定、強盗犯役を引き受けた殿下(小野寺 昭)が何者かに襲撃され、代わりに強盗犯役の刑事役を演じた強盗犯にまんまと貴金属や株券を奪われちゃう。刑事ドラマで模擬訓練と言えばこうなるに決まってるんですw
で、藤堂チームの捜査により、盗品の総額が被害届より6千万円も多いこと、それが計画倒産した建設会社社長=平島(幸田宗丸)の隠し財産であったこと等が判明し、平島社長に恨みを持ち、その隠し財産を暴露したかった相沢(片岡五郎)という男が逮捕されたのですが……
森川倉庫とは直接の繋がりがない相沢が、なぜ模擬訓練のスケジュールを知っていたのか? やっぱり田口計=芝岡部長が黒幕なのか?
そんな安易な結末じゃミステリーは成立しません。当然ながら黒幕は意外な人物でした。
「外国旅行してみたかったの。他にすることも無かったし……とても退屈だったし」
そう告白したのは森川倉庫の若いOL=村瀬恵子(嶋めぐみ)。あまり出来のよくない社員である彼女は、書類のコピー等もよく失敗してやり直すんだけど、そんな作業の中で芝岡部長がうっかり捨てた模擬訓練スケジュール表のコピーを見つけてしまった。
「じゃ、キミは……ただ偶然、ゴミ捨て場でコピーを見て、それで?」
「ええ。ふと、上手くいくかなあって気がして」
「そしてディスコで、初めて会った相沢にそのコピーを渡したのか?」
「…………」
「…………」
黙って頷く恵子に、しばし絶句しちゃう殿下なのでした。
恵子が相沢から受け取った成功報酬は60万円。ひと昔前の女性なら結婚資金にでもしただろうに海外旅行とは、時代も変わったもんだと嘆く刑事たちに、庶務係のナーコ(友 直子)は言います。
「あら、今でもそうですよ?」
「それじゃナーコ、60万あったら嫁入り道具でも買うのか?」
「う~ん……やっぱり海外旅行!」
それで吉本新喜劇ばりにズッコケるボス(石原裕次郎)や殿下たちの姿でジ・エンドw
そうしてナーコが最後のオチを担当する珍しさと、けっこう大掛かりな計画犯罪を軽い動機でやっちゃった意外な犯人像。その2点を除けば何の見所もないエピソードでしたw
なので、これと言って書きたいこともありませんw
嶋めぐみさんは1975年頃から'84年頃まで活動された女優さんで、デビューは同じ日テレで岡田晋吉プロデュース作品の『俺たちの旅』#30、刑事ドラマは他に『刑事くん』第4シリーズ#14、『特別機動捜査隊』#774、『特捜最前線』#004、『Gメン'75』#104、『七人の刑事(新)』#27等にゲスト出演。
『太陽にほえろ!』は約2年前のエピソードでやはり殿下編の#264『撃てなかった拳銃』にも出演されてます。
後に『金曜日の妻たちへ』や『男女7人夏物語』等のシリーズを大ヒットさせ、大御所作家の仲間入りをされる我らが残酷大将=鎌田敏夫さんが脚本を書かれた最後の『太陽にほえろ!』であり、ボス編の最高傑作とも云われる「神回」です。
鎌田さん曰く「1時間の間、ただ、ボスが歩き、人に会っているだけの話」であり、刑事が犯人を1人も逮捕しない異色作なんだけど、なのに良い意味での『太陽にほえろ!』らしさに溢れ、正味45分があっという間に過ぎてしまう、まさに神憑り的な作品。
このレビューも長文になること必至(だから取りかかるのに覚悟が要った)にも関わらず、たぶんサクサク読めると思います。それは私のお陰じゃなくて、100%残酷大将の功績。あまりに直球すぎるサブタイトルも含めて本当に素晴らしいエピソードです。
☆第355話『ボス』(1979.5.18.OA/脚本=鎌田敏夫/監督=竹林 進)
ボス(石原裕次郎)はある日、死刑囚の坂田(遠藤征慈)に呼び出されて刑務所を訪れます。坂田は8年前に東京郊外の農村で一家四人を殺害した強盗殺人犯で、七曲署管内へ逃げ込みボスに逮捕された男。
その坂田が唐突に、爆弾発言を投下します。同じく8年前に共犯者として逮捕され、10年の刑を食らって服役中の大村(井上博一)が、本当は無実である(けど恨みがあるから今まで黙ってた)から釈放してやってくれ、と言い出したのでした。
ボスは面食らいながらも、努めて冷静に対応します。
「もしそれが本当だとしても、もう遅いんだ。刑が決まる前にそう言わなくちゃ、遅いんだよ」
「でもヤツは無実なんだよ。無実なのに10年の刑を食らってるんだ。何とかしてやってくれよ、藤堂さんしかいないんだよ!」
頼める相手がなぜボス以外にいないのか、それは後々分かって来ます。
「藤堂さん! 罪を犯した人間を逮捕するのが刑事の役目なら、罪も無いのに捕らえられてる人間を釈放するのも、刑事の役目じゃないのかよ!?」
そんなこと言われても、一旦決まった刑を、しかも8年も経った今さらひっくり返すなんてことが可能なのか? 困り果てたボスは、頼れる右腕=山さん(露口 茂)を七曲署の屋上にこっそり呼び出し、相談します。
「デタラメじゃないですかね、坂田の。生き延びる為の思いつきじゃないですか?」
裁判がやり直しになれば、坂田の刑の執行も延びる。死ぬのが怖くなった坂田がデタラメを言ってる可能性は充分にあります。
「しかしな、山さん。もしそれが本当だとしたらどうする?」
「本当だとしてもですね、ボス。これはよその署の事件です。しかも解決した事件ですよ?」
そう、この件が何より厄介なのは、大村を逮捕したのがボスではなく、七曲署の部下たちでもなく、地元署のベテラン刑事=杉山(睦五郎)であるという点。その冤罪を暴けば杉山は当然タダじゃ済まないし、警察組織のメンツも丸潰れとなり、ボス自身の出世まで絶望となること必至です。
「山さんならどうする? 放っておくかね、このまま?」
「ええ、放っておきます」
嘘つけ!って、『太陽にほえろ!』ファンは全員ツッコミを入れた事でしょうw こういう時に誰よりも捨て身になっちゃうのが山さんである事を、我々はよく知ってますからね。
だけど今回、厄介事を背負わされたのは自分じゃなく、敬愛してやまないボスなもんだから、あえて心にも無いことを山さんは言ってる。そこんとこも我々はまるっとお見通しです。
と同時に、あの山さんが建前とはいえ「自分なら放っておく」と発言しちゃうくらい、この件はとんでもなくハイリスクであることも、この短いシーンで我々は思い知るワケです。
それでもボスは、共犯者として服役中の大村と面会します。
「今頃になって何言ってんだよっ!?」
当然ながら大村はハイパー激怒。そりゃそうでしょう、もう既に8年も刑務所の臭いメシを食わされて来たのに、そりゃ今さら何言うてんねん?としか言いようありません。
しかしなぜ、無実ならそう主張して控訴しなかったのか? ボスの素朴な疑問に、大村は「何もかもが嫌になったからだ」と答えます。周りの人間がみんな大村を不利にする嘘の証言をし、担当弁護士には妥協を勧められ、杉山刑事の取り調べ……という名目の自白強要が連日続き、彼は自暴自棄にならざるを得なかった。
「毎日、脅かされたりスカされたり、もうどうにでもなれって気持ちになるんだよ」
自白すれば解放される。後から裁判でひっくり返せばいい。そう思って共犯を認めたものの、一度自白したことは決して覆せない現実が待っていた。あと2年で出所しても、大村には強盗殺人の共犯という重い前科がついて回る。希望を持てと言う方が無茶ってもんです。
「今度シャバに出たら、世の中があっと驚くようなドでかいことをやってやる。そして絶対捕まらない! 俺はここで10年間、その為の勉強をさせてもらうつもりなんだよ」
そう言って大村は、ニヤリと笑います。世間を恨む気持ちはよく解る。解るけど、そもそも凶悪犯の坂田と親しかった大村が、人畜無害な人間だとはとても思えない。疑われるには疑われるだけの理由があった筈。そんな輩のために、こんなリスキーなことが(私が刑事だったとして)果たして出来るだろうか?と考えると、迷わずノーと言うほかありませんw
だけどボスは、当時の事件関係者1人1人に会いに行き、まずは話を聞きます。控訴を諦めるよう大村を諭した弁護士には「あなたは何の権限があって此処に来てるんだ?」と冷笑され、取り調べを担当した杉山刑事には「これはお前の事件じゃない、俺の事件なんだ!」と怒られ、まあ当然ながら逆風の嵐。
その逆風はしかし、冤罪が事実である可能性が高いことを意味しており、いよいよ乗りかかった船から降りられなくなったボスは、覚悟を決めて1週間の休暇を取ります。
「やる気ですか本当に? 1週間やそこいらの休暇で何とかなる問題じゃないですよ」
心配する山さんに、ボスは吹っ切れた顔で応えます。
「もし坂田の言ったことが本当だと思えて来たら、何年かかってもやるつもりだよ」
「……ボス」
「坂田に会いに行かなきゃよかったって、俺はいま後悔してる。しかし、もう逃げるワケにはいかんのだよ」
調べてみると、当時大村とチョメチョメな仲だったキャバレーのホステス=よし江(三浦真弓)と、いきつけの飲み屋のオヤジが、二人とも大村のアリバイについて証言を覆したことが判明。ボスは両者に会いに行くけど当然ながら歓迎されません。
さらに、大村を自白させた杉山刑事が、当時捜査本部で一緒だったエリート刑事とすこぶる仲が悪く、坂田の単独犯行説を唱える彼に対抗するかのように、大村の共犯説を杉山が強く主張していたという情報を、関係ない筈の山さんが仕入れて来ます。
「山さん、余計なこと調べなくたっていいよ。坂田に頼まれたのは俺なんだ。山さんまで巻き込むワケにはいかんよ」
「犯人を逮捕するのが刑事の役目なら、無実の人間を釈放するのも刑事の役目だろうって、坂田にそう言われたんでしょう?」
「それがどうしたんだ」
「私も刑事ですよ、ボス」
「…………」
山さん……山さん……山さ~ん!って、今は亡きテキサス刑事みたいに叫びたくなりますw
そうして陰からボスを支える刑事がいる一方で、わざわざ水を差しに来る刑事もいました。今や警察庁の官僚にまで出世したボスの先輩=岩淵(北村和夫)は、万年係長の後輩がやってることを「他の署の粗捜しだ」と痛烈に批判します。
「私はキミを本庁に呼びたいと思ってるんだ。今その運動をしてる真っ最中だ」
「…………」
「大村のことはキミが関わらねばならない問題じゃないだろう? 誰の眼から見てもそうだよ。もし本当に大村が無実なら、再審請求という道もあるんだ」
「再審請求には新しい証拠が要ります。その証拠をいったい誰が探してやるんですか、岩淵さん?」
「…………」
出世こそを目標に生きて来たであろう岩淵には、ボスが何故こんなことをやってるのか理解出来ない様子です。いや、ボスだって何も出世をしたくないワケじゃない。ただ、同じ警察の人間でも価値観が違う、物事の優先順位がまるで違うって事でしょう。
翌日、ボスは鞄も持たず、スリーピースの背広姿でスタイリッシュに農村を歩きます。すこぶる場違いですw
そんなボスが訪れたのは、東京郊外の事件現場。その家はもう廃屋状態で、手掛かりは得られそうにありません。
「これじゃどうしょうもないですね、ボス」
背後から声を掛けて来たのは、背広姿でもなぜか農村がよく似合う長さん(下川辰平)。何しに来たんだ帰ってくれと言うボスに、自分の頭を撫でながら長さんは穏やかに返します。
「山さんには手伝わせておいて、私はダメだって言うんですか? 不公平じゃないですか、ちょっと」
「長さん、これは俺一人の事件なんだ」
「ボス、私たちは同じ船に乗ってるんですよ。溺れる時は一緒に溺れさせて下さい」
「…………」
長さんは同じ「叩き上げ」として、冤罪を生んだらしい杉山刑事の気持ちも解ると言います。杉山は恐らく、ただの踏み台で現場に参加するキャリア連中にだけは負けたくなかった。
「何十年と現場を勤めて来た人間の、意地ってものがありますからね。杉山さんのしたことが間違いだったとしても、私は味方してやりたいですね……気持ちとしては」
この辺りがまた、鎌田脚本の素晴らしさです。冤罪を生んだ刑事にも共感せずにいられない心情を設定し、単なる悪役だけで片付けない。凶悪犯が無実の人間を救おうとし、無実の人間が世の中を恨んで復讐を考えてる。それぞれの言動にちゃんと理由があり、一面的なキャラクターが1人も出て来ない。
本作と似たような話は『相棒』はじめ昨今の刑事ドラマでもよく見かけるけど、大抵は善悪真っ二つの勧善懲悪ストーリーで、雰囲気だけ社会派ぶった脚本ばかりです。現在のテレビ番組が見失ってるものが、この作品には隅々まで詰まってる。創り手の皆さん、観る時間が無いならせめてこのレビューで学んで頂きたい!
閑話休題。ボスはかつて証言を覆したホステスのよし江から真実を聞き出すため、粘り強く説得を続けます。が……
「ねえ、あなた何の為にこんな事してんのよ? 坂田も大村もロクでもない人間よ。どうなったところで大した事ない。ほっときゃいいじゃない」
そんなよし江にも、私は共感せずにいられません。はっきり言って、クズはクズ。たとえ無実だとしても、かつてチョメチョメ関係だった女性にここまで言われちゃう大村は、間違いなくクズ人間です。
だから一般市民としては「ほっとけばいい」「そうした方が世のため人のため」って思うけど、もし自分が刑事だとしたらどうか? ボスみたく行動に移せるか否かはともかく、やっぱ例えクズでも冤罪は許しちゃいけないって思う事でしょう。
「替わりますよ、メシでも食って来て下さい」
キャバレーの表でよし江を待ってるボスに、今度はゴリさん(竜 雷太)が声を掛けます。皆には内緒で相談したのに、山さんって意外と口が軽いんですねw
「ゴリ、これはな、仕事じゃないんだ」
「分かってますよ。休暇願い机に出しときましたから、明日にでもハンコ捺しといて下さい」
「…………」
「腹、減ったでしょ。そういう顔してますよ」
マカロニ刑事(萩原健一)の時代から『太陽~』に参加されてる鎌田敏夫さんは、藤堂チームのこうした絆の描き方も抜群に上手い! 臭みが無いというか、ベタベタし過ぎない距離感がとても心地好いです。
しかし残念ながら、無頼漢のゴリが加わったところでよし江の気持ちは動きません。イケメンの殿下(小野寺 昭)なら良かったのにw
で、とりあえず二人でよし江を自宅まで送ろうとしたところで、なんとも間の悪いことに杉山刑事が通りかかってしまいます。
「藤堂、貴様……俺に恨みでもあるのか? その女から何を聞き出そうってんだ?」
怒り心頭の杉山は、たったいま拳銃不法所持で捕まえて護送中だったチンピラを、パトカーから無理やり引きずり出します。
「坂田も大村もこのチンピラと同じだ。街のクズだよ! お前はこんなチンピラと自分の出世を引き換えにしようとしてるんだぞ? 何故そんなことをする? 何故だっ!?」
「刑事だからです、私が」
「!!」
そう、ボスも杉山も刑事なんです。一般市民の私みたいに「クズはクズ」だなんて言ってたら、警察は単なるファシスト組織になってしまう。差別意識だけで異人種を殺しちゃう某国の警官達みたいに……
「……あんまりイキがるなよ、藤堂」
捨て台詞を吐いて杉山は去って行きます。反論出来なかったって事は、彼にもまだ刑事魂が残ってる証かも知れません。『スター・ウォーズ』のダースベイダーみたいに。(そう言えば睦五郎さん、映画『宇宙からのメッセージ』でダースベイダーみたいな役でしたw)
さて、美女相手にゴリさんじゃ話にならんでしょ?って事で、今度は真打ちの殿下が、さらにボン(宮内 淳)&ロッキー(木之元 亮)も参戦し、イケメントリオ(ただしロッキーは微妙)でひたすら頭を下げまくるというw、ルックスだけが取り柄の泣き落とし作戦を敢行! すこぶる残念なことに、女性にはこれが一番有効なんですよねw 結局は顔なんですw
ついに陥落したよし江は、一時期やってた売春をネタに杉山刑事から脅され、偽証しちゃったことをボスに打ち明けます。ちょうど大村みたいな連中と手を切りたかった彼女の心理を、杉山は巧みに利用したワケです。
「私、後になって自分のしたことが怖くなって、弁護士さんや刑事さんに会いに行ったんです。そしたら、いちど刑が決まったものはどうしょうもないって言われて……」
恐らくその弁護士にも杉山の息がかかってたんでしょう。とにかくこれで、大村の無実はほぼ間違いなしと判りました。でも、さらに新しい証拠を見つけないと再審請求は出来ません。
ボスたちはまず、事件当日、坂田の犯行時刻に大村と一緒にいた、よし江の記憶を掘り起こす作業から始めます。8年も前のデートなんて普通は憶えちゃいないけど、解決の糸口はもうそこにしか残ってない。
「あっ……ちょっと待って!」
「何かあったのか?」
「そう言えば商店街の入口で、勝部弘とすっごくよく似た人に会ったの!」
「勝部弘って、役者のか?」
よし江はその夜、二丁目の商店街で俳優の勝部弘(テキサス=勝野洋さんのパロディですねw)とそっくりな男を見かけたんだけど、周りに撮影スタッフがいなったから人違いかも知れないと言う。けど、それがもしゲリラ撮影(隠し撮り)だったとしたら!
さっそくテレビ局で調べてもらうと、あの夜に勝部弘はテレビ映画『俺たちの青春』の撮影で、確かに二丁目商店街にいたと言う! 勝部役の中田博久さんはどう見ても「青春」って顔じゃないんだけどw
現在みたいにDVDはおろか、家庭用のビデオデッキすら普及してない時代ですから、映像を確かめるには『俺たちの青春』を再放送中の「愛知テレビ」まで足を運び、フィルムを上映してもらうしかありません。
その映像を見たところで、単に現場を通りかかっただけの大村とよし江がフィルムに写ってる可能性は、万に一つも無い。それでも、その奇跡に全てを賭けて、ボスとよし江は名古屋へと飛びます。
『太陽にほえろ!』の産みの親である岡田晋吉プロデューサーは、自著『太陽にほえろ!伝説』の第7章「岡田流ドラマ作りのポリシー」において、鎌田敏夫さんのお言葉を引用されてます。
曰く「前半は極めてリアルにドラマを進め、最後に一度だけ思い切った偶然を持ってくるのが、今のテレビドラマを当てる秘訣だ」……
これはまさに、今回の脚本を指して仰った言葉なのかも知れません。もはや、結果を書く必要は無いですね。よし江はフィルムを観て号泣し、私も泣きました。
「どうしてアンタ、俺の為にそんな事を……なんでだ!? 俺とアンタは何の関係も無いじゃないか!」
周りにいた全ての人間に裏切られて牢屋にいる大村が、その結果を聞いて喜ぶより先に、ただひたすら驚くしかなかったのも無理からぬこと。
「俺は刑事だ。刑事の仕事は恐ろしい仕事なんだ。一歩間違えると、一人の人間の人生を根こそぎ奪ってしまう事になる。俺はその恐ろしさに慣れたくない。その恐ろしさを、忘れたくないんだ」
「…………」
「お前の為にした事じゃない。俺は、俺自身の為にしたんだ」
「藤堂さん……」
「これからなんだよ、大村。まだまだこれからだ」
さんざん驚いた後に号泣する大村は、きっと世間への復讐を思いとどまる事でしょう。クズはクズ、なんて言ってホントすみませんw
一方、ボスを動かした張本人である死刑囚=坂田はと言うと……
「なにか言ってましたか、大村のヤツ……」
「泣いてたよ」
「……そうですか」
ここでボスは、大村を救う気になった本当の理由を、あらためて坂田に問います。
「生き延びたいからですよ、ハッキリ言って」
「…………」
「刑の執行を待って毎日暮らしてると、どんな事をしてでもいいから、1日でも生き延びたいと思えて来る……生きてるって事がどんなに素晴らしい事か、イヤになるほど分かって来る……」
「…………」
「でも俺は、物盗りに入って何の恨みもない人間を4人も殺した。4人の人間からその命を奪い取ったんだ」
「…………」
「俺は今、自分の人生の1日1日がどんなに大切なものか思い知らされた……自分のやった事がどんなに惨いことか、今になって……」
「…………」
「生きてるって事は、どんな事よりもいい事だよな……藤堂さん」
「……大村が無実になるまで、生きててやれよな、坂田」
ここで坂田も泣き崩れます。だからと言って一家4人を惨殺した罪は絶対消えやしないけど、気持ちは幾分かラクになった事でしょう。
さて、次は杉山刑事です。彼にどんな処分が下るか今のところ不明だけど、とにかくタダじゃ済まないのは確かです。
「私はあなたに、何の恨みも無い。しかし坂田にああ言われた以上、放っておくワケにはいかなかったんです」
「…………」
「もしあなたが私だったとしたら、きっと同じ事をしていたと、私はそう思います」
「…………」
嫌味の1つでも返すかと思いきや、杉山は黙って歩き去るのみ。寂しげな後ろ姿をボスの眼に焼き付けて…… でも、彼はこれで救われた筈です。ダースベイダーの最期と同じように。
「いい気持ちかね、藤堂くん。キミの名前は本庁でも轟いとるよ」
そんな嫌味を言ったのはただ1人、ボスを本庁に引き上げたいと言ってた警察庁官僚の、岩淵だけです。
「キミは自分の将来というものを1人のチンピラの人生と引き換えたんだよ、藤堂くん」
「……岩淵さん」
「なんだ?」
「私はあなたを尊敬してました。あなたの下で働きたいとも思ってました」
「それじゃ、なんであんな事したんだい? よその刑事の非を暴くようなことを」
「岩淵さん。はっきり言わせて頂きます」
「ああ、言いたまえ」
「あなたは、それでも警察の人間ですか?」
「なに?」
そばにマカロニがいたら、絶対こう言いますよね。「ボスも出世できそうにないねえ~」ってw そう言えばマカロニがその台詞を吐いたのは、鎌田敏夫さんの『太陽~』デビュー作である第32話『ボスを殺しに来た女』でした。
しかしそれにしても、いろんな登場人物がいる中で最も人間味が感じられないのが、何の罪も犯してない警察庁の官僚ってのが皮肉です。そこには「組織のトップ=汚職まみれ」っていう昨今のドラマにおけるワンパターンとはまるで違う、鎌田さん流の風刺が込められてる気がします。
そんな言わば薄っぺらなキャラクターで出番も少ない岩淵だけど、それを文学座の重鎮=北村和夫さんが演じることで見応えあるシーンに仕上がってるんですよね! なんとも贅沢なキャスティングです。
そんなボスと岩淵のやり取りを知ってか知らずか、現役若手のボン&ロッキーは初代マカロニとは違った言葉でボスに敬意を表しました。
「若いんですね、ボスって。俺、見直しました」
「俺、ボスが好きです!」
見直しましたって言っちゃうボンの失礼さとw、ストレートに好意を示すロッキーの純朴さ。それぞれのキャラクターが短い台詞によく表れてます。
そして、山さん。
「また俺は山さんの出世を邪魔しちゃったな。俺が万年係長に居座ってる限り、山さんいつまで経ってもヒラ刑事のまんまだ」
「出世をしたけりゃとっくの昔にボスなんか追い越して、出世をしてますよ」
と言ってニヤリ。そりゃそうだよねって、誰もが納得のお言葉ですw
あとは坂田や大村、杉山刑事らの言葉や表情を回想しながら新宿の街を歩く、ボスの姿でジ・エンド。鎌田さんの仰る通り、ひたすらボスが歩いて人と会うだけのストーリーでした。
だけどこれは、地味なエピソードばかり続いて退屈してた当時ガキンチョの私でさえガツン!と来るものを感じ、録音したカセットテープを繰り返し聴いた記憶があります。
アクションがない、従って拳銃も登場しない、マカロニのテーマをバックに刑事たちが聞き込みする定番シーンも無い、中心人物であるゴリさんや若手刑事が全然活躍しない等、形としては『太陽~』の定番を外しまくってるのに、冒頭で書いた通り『太陽~』らしさに溢れてるのは、基本テーマである「命の尊さ」をこれ以上無いくらいストレートに描いてるからだと思います。
ボスがこれほど全編出ずっぱりで活躍するのも久しぶり(そして多分これが最後)っていう新鮮さもあるし、出番は少なくても各刑事のキャラクターが実によく描かれてるしで、いつものパターンに嵌めなくても『太陽~』はちゃんと成立するっていうお手本みたいな作品です。
レビューではカットしちゃったけど、いきなり1週間の休暇を取ったボスを「バーのマダムとハワイにでも行くんでしょ」ってボンがからかい、「まぁそんなとこだ」と返すボスを見て、真に受けたナーコ(友 直子)が眼を白黒させちゃう息抜きシーンもあり、ゲストも含む全てのキャラクターがほんと無駄なくパーフェクトに活かされてる。文句なしの大傑作です。
今にして思えば、このレベルの脚本を書かれる鎌田さんが番組を卒業しちゃうのは本当に痛い。やがて訪れる『太陽~』冬の時代に与えた影響は、かなり大きいかも知れません。
とはいえ、当時は録音テープを聴いたり再放送を待つしかなかったテレビ映画が、こうしていつでもDVDで再鑑賞できる幸せたるや! その輝きは永遠に失せることはありません。
前回は比較的軽めのエピソードを取り上げましたが、今回のはちょっとヘビーです。基本的に『新宿警察』はヘビーな番組なんです。
ただし、ヘビーなんだけど湿っぽくならないのも『新宿警察』の特長で、私はそこが気に入りました。特に『刑事コロンボ』の初代声優さんとしても知られる、小池朝雄さんの乾いた個性、抑えた芝居が醸し出すリアリズムが素晴らしい!
まさに和製ピーター・フォークここにありで、小池さんのことをよく知らない方は、コロンボ刑事と置き換えて読んで頂いても全然オッケーかと思います。
☆第9話『新宿はやり唄』
(1975年オンエア/脚本=尾中洋一&真田喜助/監督=齋藤武市)
仙田主任(小池朝雄)が帰宅途中、若い女性(吉野あい)が車に跳ねられる現場に遭遇します。見ず知らずの子供が道路に飛び出し、誰もが咄嗟に動けない中、彼女だけが夢中で助けようとして代わりに跳ねられたのでした。
仙田主任は女性の勇気に感嘆すると同時に、彼女の顔に見覚えがあるせいもあり、病院まで付き添うことにします。
奇跡的に女性は軽傷で済みました。が、医者は彼女の腕に日常的な注射痕があり、麻薬中毒者である可能性が高いなんて言うから主任は戸惑います。しかも、ちょっと眼を離したスキに彼女は病室を脱け出し、姿をくらませてしまった!
仕方なく自宅へ戻る道すがら、無意識に口ずさんだ『東京流れ者』という歌謡曲に、仙田主任はハッとします。そう、彼女はかつてその曲を唄ったプロの歌手=松井信子なのでした。
そして後日、風俗営業法違反で結城刑事(藤 竜也)が署に引っ張って来たストリップダンサーが、松井信子その人だったからまた主任が驚いた!
信子はストリップ劇場に歌手として雇われてたんだけど、恋人でもあるマネージャーの清(林ゆたか)にどうしてもと頼まれ、仮面で顔を隠すことを条件に渋々ストリップの舞台に出てみたら、運悪く結城たちのガサ入れを食らってしまった。
幸か不幸か、刑事たちは彼女が松井信子であることに誰も気づいておらず、仙田主任は自ら取り調べを引き受け、あのコロンボ刑事の声で穏やかに語りかけます。
「あたしゃ音楽のことはよく解らんが……でもありゃあ、いい歌だった」
「……私のは流行らなかったんです。ヒットしたのは他の人が唄ったレコードで」
『東京流れ者』は実際、1965年に竹越ひろ子さん、そして渡哲也さんが競作でレコードを出した曲で、おそらく「松井信子」は竹越さんをイメージして創られたキャラクターなんでしょう。
「しかしあたしゃ、キミの『東京流れ者』の方が好きだなあ。歌は他の人の方が上手いのかも知れないがねえ、けどどっか違うんだなあ、なんだかピンとこない。少なくともキミの歌には、あたしの心を打つ力があった」
「…………」
「いや、お世辞じゃないんだよ? これでも長年、商売柄いろんな下積みの人生を見て来てるからねえ。ホンモノとニセモノは見抜ける」
「…………」
「でも、こんな事してたらもう、あんな歌も唄えなくなるだろう? 唄うから『松井信子』なんだろ、キミは?」
ここで信子が泣き崩れるんだけど、それより先に私が泣き崩れてしまいましたw たぶん、かつてプロのクリエイターになって売れずに終わった自分自身を重ねたからだけど、小池朝雄さんの温かい語り口に因るところも大きいと思います。
これ、たぶん他の刑事が同じこと言っても、私を泣かせるまではいかなかったと思います。たとえ『太陽にほえろ!』の山さん(露口 茂)や長さん(下川辰平)であっても。とうてい聖人君子には見えない小池朝雄さんが言うからこそ泣けるんですw
「もしクスリをやってるんだったら、ありゃやめた方がいい、地獄だ! そっちの方じゃ大目に見られなくなるからね」
そう言って主任は、せっかく部下が苦労して挙げた容疑者を、勝手に釈放しちゃいます。それどころか、テレビ局のプロデューサーをやってる旧友に電話をかけ、信子のメジャー復帰への道を探り始める熱の入れよう。
そして後日、レストランに呼び出された信子は、以前よりも血色が良くなった顔を見せて主任を喜ばせます。あれから彼女は、自分で自分の身体を縛って死に物狂いで禁断症状と闘い、みごとヤク抜きを果たしたのでした。
「あの時、あんな風にわたしの歌、褒めてもらって……とっても嬉しかったし、どんなに感謝しても……でも私、誰からクスリ貰ったかなんて言えないし……刑事さんの力になれないから……ごめんなさい」
「いや、今日はクスリのことであなたを呼んだんじゃないんだ」
主任は、人気歌番組のディレクターが信子をオーディションしてもいいと言ってくれた事実を、彼女に伝えます。
「いや、あたしのような門外漢が何も出来やしないし、あなたのマネージャーだってそんな事くらい一生懸命働きかけているんだろうけども……」
実はその頃、マネージャーの清は新人の女性歌手と密かにチョメチョメしてるんだけど、信子はその事実を知りません。
「あなたの『東京流れ者』や、新しい歌がまたテレビで観られたら、そりゃあたしも嬉しいからね」
ここで信子がまた涙を流すんだけど、それより先に私の涙腺が爆発してましたw なんでこんなに泣けるんだろう? ホントにたまりません。
「明日……明日またここで会って下さい。私、オーディション受けてみます。頑張ります!」
再起を誓った信子は、その足でマネージャーの清に会いに行きます。部屋の奥に新人歌手の女が隠れてることも知らずに……
「出直す? 歌でか? ダメだね」
「ううん、ひょっとしたら夢が叶うわ。いえ、叶えてみせる! 今まで私たちをバカにしてた人を見返してやりましょうよ、二人の力で。ね?」
「……だったらさあ、1つ頼みがあるんだけどな」
ベッドで信子とチョメチョメしながら、さて清は何を頼んだのか?
一方、仙田主任は根来刑事(北大路欣也)の妹=戸志子(多岐川裕美)に頼んで、信子がオーディション用に着る服を一緒に選んでもらいます。
「でも、おかしいわ。仙田さんのお嬢さん、高校生じゃない。25歳の女の子って、だあれ?」
「いや、それはその……」
主任がポッと顔を紅くしちゃう、このほのぼのとした展開、ヤバいです。悲劇の予感がします。
そう、1万円をはたいて買った洋服の包みを抱え、ストリップ劇場へ信子を迎えに行った主任が目撃したのは、ヌードステージの途中で仮面を剥がされ、見世物にされた彼女の惨めな姿でした。
「覚えてますか? この人は昔『東京流れ者』という曲でレコードを出した、松井信子です。歌手からヌードへ華麗なる転身です!」
司会者はそう紹介するんだけど、激しく動揺した様子の信子は、全裸のままステージの袖へと逃げ去ります。彼女はどうやら、清に「もう1回だけステージで脱いで欲しい」と頼まれ、再デビューの資金稼ぎのために引き受けたんだけど、顔を晒されるとは聞いてなかった。
すぐに清の部屋へ駆け込んだ信子は、どう見ても彼とチョメチョメした直後の、若い新人歌手と鉢合わせします。
「あんたが松井信子さん? どうもありがと。あなたが出して下さるんですってね、私のレッスン料」
信子がステージで顔を晒せば、普段の10倍のギャラが出る予定だった。それを清は…… そもそも信子に麻薬を教えたのも清。全てはこの最低ちんぽこゲス野郎が元凶なんです。いや、彼もかつては本気で信子を愛してたのかも知れないけど……
「私、聞いちゃったわ。あなたのあの時の、あの声。元歌手にしては、随分とお粗末ね」
あの声ってのは言うまでもなく、ベッドにおける信子の喘ぎ声。もう、充分でしょう。信子に果物ナイフを握らせるための条件は、全て出揃いました。
一足遅く仙田主任が駆けつけた時、果たして3人がどうなってたか、もはや書くまでもありません。
そこで呆然と立ち尽くす主任の耳に、鳴りっぱなしのラジオから「競作であまり売れなかった方の『東京流れ者』」が聴こえて来るのでした。
数日後、仙田主任は根来刑事から食事に誘われます。彼の妹=戸志子が、なにも知らずに「おいらくの恋のラブストーリーが聞きたい」とせがんだからです。
「なまじな仏心なんか持っちゃいかん。あたしが殺したようなもんだ。可哀想なことした……」
そうして全てのいきさつを聞いた戸志子が、ここで湿っぽくなるのかと思いきや、あっけらかんと言うんですよね。
「ねえ仙田さん。デートして下さいません?」
「ええ?」
そんなワケで、食事の会計を全て根来に押しつけた戸志子と主任が、楽しそうに腕を組んで夜の新宿を歩く、なんともシュールなラストカット。
この乾きっぷりがたまりませんw これぞハードボイルド!……なのかな?w そもそもハードボイルドという言葉の意味を、私はよく知らないまま使ってますm(__)m
普通なら、視聴者を泣かせるために登場人物はもっとメソメソするだろうし、いかにも悲しいBGMで盛り上げようとするもんだけど、この番組は一切しない。そこがカッコいいし、かえって余韻が残って胸に刻まれます。いやホント、私は痺れました。最高!
自分は決して悲劇が見たくないワケじゃない。ただ、やたらジメジメ・メソメソする下世話な演出が嫌いなだけなんです。それを再認識させてくれました。こんなに素直に泣けたのは久しぶりです。
それに加えて、小池朝雄さんの名演ですよ。『刑事コロンボ』をわざわざ字幕(つまり原語音声)で観たい、なんて言う人はいないですよね? 試しに観てみたとしても、ほぼ100%の人が吹替え音声にすぐ戻しちゃう事でしょう。
その理由を「吹替えの方が解り易いから」なんて言う人もいない筈です。ピーター・フォークご本人よりも、小池朝雄さんの声によるコロンボの方が、明らかに魅力的だからです。ハマってるハマってないの問題じゃない。
つまりアメリカ本国で観る『刑事コロンボ』よりも、日本のテレビやDVDで観る『刑事コロンボ』の方が面白い!
これは凄いことです。ジャッキー・チェン=石丸博也さんやクリント・イーストウッド=山田康雄さんも凄いけど、小池朝雄さんには及ばないと私は思います。本当に素晴らしい!
信子に扮した吉野あいさんは'70年代に活躍された日活ロマンポルノの女優さんだけど、20本以上出演しながら主演作に恵まれず、ファンクラブ「吉野あいを主演させる会」が結成されたほど、不思議な魅力で人気のある方でした。
今回はなにしろストリップ劇場が舞台ですから、吉野さんはもちろん、同じ日活ポルノの丘奈保美さん等もヌード、濡れ場、天狗ショーまで披露されており、当時としても放送コードぎりぎりの内容だったそうです。素晴らしい!w
☆第4話『銀行ギャング 我が夢』
(1975年オンエア/脚本=池田一朗/監督=江崎実生)
この番組はDVDにもWikipediaにも各話の放映日が記載されてないんだけど、スタート日が9/6なので順当なら9/27の放映という事になります。フジテレビ系列、毎週土曜夜10時枠(全26話)のフィルム作品でした。
以前ご紹介した通り、新宿角筈署の捜査課に勤める仙田班の刑事たちの活躍が描かれ、演じるのは北大路欣也、藤竜也、財津一郎、三島史郎、司千四郎、花沢徳衛、そして小池朝雄という非常に渋いメンツ。
内容も渋く、リアリティー重視でヘビーな話が多いんだけど、この第4話は財津一郎さん扮する「山さん」こと山辺刑事が主役ということで比較的にタッチが軽く、だからレビューする気になりました。
山辺刑事に恨みを持つスナックのバーテン=ヒロシ(三ツ木清隆)が、兄貴分のマサヒコ(小林稔侍)&その恋人のセツコ(関根世津子)と3人で結託し、巧妙に罠を仕掛けて山辺の警察手帳を盗みます。
その目的は山辺への仕返しと、ニセ刑事を名乗って信用金庫から大金を奪い、アメリカへ渡ってそれぞれの夢を叶えること。良くも悪くも(いや、良くはないんだけど)当時はそういう無謀な夢を持つ若者が沢山いました。部屋にこもってYouTuberやゲームプレーヤーのプロを目指す現代っ子たちと、果たしてどっちが人間らしいのか?
それはともかく、警察手帳の紛失が表沙汰になれば懲戒→格下げは免れず、子沢山で生活苦にあえぐ山辺は、なんとか秘密裏に手帳を取り戻したいと根来刑事(北大路欣也)に泣きつきます。
で、困った根来は仙田主任(小池朝雄)に泣きつく。これまた困った主任は、山辺と根来に3日間の休暇を与え、その間に手帳を取り戻せなければ紛失届けを提出するよう指示します。もしその前に手帳が悪用されて事件が起きれば、3人とも格下げはおろか左遷も必至。これはなかなか危険な賭けです。
ヒロシたちはまず、ガサ入れを装って暴力団の闇賭博場に踏み込み、現金と拳銃を押収します。ヤクザたちが被害届を出すワケにいかないから、これは事件にならずに済んだけど、その拳銃を使って3人が信用金庫を襲ったら一巻の終わり。
事情を察した結城刑事(藤 竜也)らの協力もあって、主犯がヒロシであることを突き止めた根来は、スナックで同僚だったホステス(宮井えりな)から有力な情報を聞き出します。
「あの子の夢は銀行強盗だって。いつも寮の前の信用金庫を見つめてた。あの子、カッペ(田舎者)だから本当にやっちゃうかも」
地方出身者だから強盗を犯すなんて、そんなムチャな理屈があるかいな?と思いきや、福岡出身の山辺刑事はこう言います。
「わしもカッペだからカッペの気持ちはよく解る。ヤツは必ずその信用金庫を襲う!」w
かくしてタイムリミットが迫る中、そのカッペの法則に全てを賭けた山辺と根来は、信用金庫を徹底的に張り込みます。
そんな偏見と差別に基づいた推理が当たっちゃうとマズイのでは?っていう、我々の心配などどこ吹く風で、ヒロシたちはまんまとその信用金庫に現れるのでしたw
「山辺刑事」を装ったマサヒコが「爆破予告があったから」と店を閉めさせ、いよいよ拳銃を抜こうとしたその時、ホンモノの山辺と根来が登場し、銃を持つマサヒコの手を陰で押さえながら銀行員たちにこう言います。
「爆弾の件はイタズラと判りました。お騒がせして申し訳ありませんでした」
えっ、そうなの?と呆気に取られる銀行員たちを尻目に、山辺と根来はマサヒコと肩を組んで店を出ていきます。
そして表で待機してたヒロシも取り押さえた山辺は、一緒にいたセツコに唾をかけられます。
「せっかくうまくいきそうだったのに! 死んじゃえばいいのよアンタなんかっ!!」
「うちの母ちゃんもよくそう言うよ」
平然と2人に手錠を掛けようとする山辺に、マサヒコから押収した手帳を差し出して、根来が言います。
「山さん、困るな。警察手帳なしで逮捕しちゃ」
その手帳に貼られたマサヒコの顔写真を忌々しそうに剥がす山辺だけど、なぜか捨てないで自分のポケットに入れます。
「山さん?」
「母ちゃんに土産だ。こんな苦み走ったいい男に変身してたってな」
かくして山辺刑事は、警察手帳を盗まれるという一大不祥事を、みごと隠蔽してみせたのでした。
しかしヒロシたちが犯した拳銃強奪や銀行強盗未遂を事件化するには、警察手帳の入手経路を明かさないワケにいかないと思うんだけど、まあ山辺ならうまく誤魔化すことでしょうw
そもそも山辺がヒロシの恨みを買ったのは、かつて覚醒剤所持の濡れ衣で(他のバーテンと勘違いして)彼を何度も殴りつけたから。そのことに対する反省の色も全くない山さんは、人格に問題あり過ぎですw ヒロシ側から見れば悪徳刑事そのもので、まるでアメリカンニューシネマみたいな破滅のストーリー。
それでもなぜか憎めないのは、ひとえに演じる財津一郎さんの愛嬌溢れるキャラクターのお陰。雰囲気で騙されちゃうんですよねw それと昭和50年という時代背景。例の「カッペ」発言といい、今ならネットの自警団たちが黙っちゃいないでしょう。
刑事ドラマ史において『新宿警察』は地味な存在だけど、こうして観てみると王道『太陽にほえろ!』では味わえない、アンチヒーローの魅力が詰まってて面白いです。
作風は『大都会/闘いの日々』と『ジャングル』の中間ぐらいな感じで、明るくはないけど湿っぽくもなく、夜10時台の番組だけあって色っぽい場面も多く、一言で評すればオトナ向けの刑事ドラマ。渋いのがお好みの方にはオススメです。
小林稔侍さん、三ツ木清隆さんとトリオでゲスト出演された関根世津子さんは、当時19歳。TVデビューは円谷プロの特撮ドラマ『緊急指令10-4・10-10』#18 ('72) へのゲスト出演で、今回の『新宿警察』#04と同じ'75年に『太陽にほえろ!』#145(決定的瞬間)にもゲスト出演。
ほか、刑事ドラマは『夜明けの刑事』#21、『燃える捜査網』#01、『新・二人の事件簿/暁に駆ける!』#11、『新幹線公安官』第2シリーズ#19、『秘密のデカちゃん』#12等にゲスト出演されてます。