生涯いちエンジニアを目指して、ついに半老人になってしまいました。

その場考学研究所:ボーイング777のエンジンの国際開発のチーフエンジニアの眼をとおして技術のあり方の疑問を解きます

メタエンジニアの眼シリーズ(181)メタサイコロジー論

2020年09月20日 08時35分14秒 | メタエンジニアの眼
書籍名;「メタサイコロジー論」 [2018]
著者;ジークムント・フロイト  発行所;講談社学術文庫
発行日;2018.1.11
初回作成日;R2.9.20 最終改定日;
引用先;文化の文明化のプロセス Implementing

このシリーズは文化の文明化プロセスを考える際に参考にした著作の紹介です。『 』内は引用部分です。



 冒頭には「凡例」があり、翻訳者の十川幸司の説明があるが、その冒頭はこのようにある。
 『 本書は、ジークムント・フロイトが一九一五年に執筆し、「メタサイコロジー序説」の表題で一冊の書物にまとめることを意図していた論考のうち、現存する五篇および草稿として残された一篇を収録し、「メタサィコロジー論」の表題のもとにまとめたものである。』(pp.5)
 つまり、フロイト自身が「メタ」であることを宣言している。そのことは、文末の「訳者解説」の冒頭で明示されている。
 『未発表の論考のタィトルを「意識」、「不安」、「転換ヒステリー」、「強迫神経症」、「投影」、「昇華」、「転移神経症概要」
と推測している。この中で、偶然にも最後の論文である「転移神経症概要」は、(中略)本書は、この最後の論文(草稿)も含めた、現存する六つの「メタサィコロジー論」の新訳である。』(pp.181)
 つまり、この時フロイトは、サイコロジーというものを一段上の次元で纏めようと試み始めたことを意味している。しかし、出版に至らなかったことは、その試みが、彼自身の中で纏まらなかったことを示している。何故纏められなかったのか。それはエンジニアリング的に考えれば当然のように思える。つまり、通常の学問ならば「メタ」思考はある程度可能ななおだが、サイコロジーだけは、かえって自縄自縛に陥ると思うからである。12の論文の題名だけを見ても、そのことが強く感じられる。
訳者は『フロイトが、精神分析独自の方法論的意識を持って包括的な理論構築を試みた、その出発点を示す「書物」なのである。』(pp.182)としている。つまり、ここでは「メタ」は「包括的な理論構築」を試みる為となる。
サイコロジーの出発点は、曖昧なものしかない。彼は、サイコロジーも他の科学分野も同様であると云いたかった。その試みは、この「メタサィコロジー論」により、中半成功したように思える。
そのことは、第1の論文から始まっている。
 第1の論文名は「欲動と欲動の運命」とある。書き出しからは、サイコロジーを科学の一分野として認めさせようとしているように思える。
 『科学的作業の本当の始まりは 、むしろ現象の記述にあり、そののちに、現象を分類し、配置し相互に関係づけるのである。すでにこの記述の段階において、素材に一種の抽象的な観念をあてはめることは避け難い。この抽象的な観念は、新しい経験だけから導かれたものではなく、経験の外部から持ち込まれたものである。素材をさらに加工していく際に、抽象的な観念はますます不可欠なものとなり、それがのちに科学の基本概念となる。』(pp9)と云っている。
 ここで、なぜ第1の論文が「欲動」なのだろうか。心理学の素人には分からない。翻訳者は、こう述べている。
 『しかし、精神分析の臨床が、私たちの生を規定している欲動のあり方を言葉によってどう変えるかを問う実践だとすれば、「欲動」こそが精神分析の理論と臨床において根幹をなす概念ではないだろうか。精神分析理論の概念の曖昧さに不満を感じていたフロイトにとって、まずはこの概念を可能なかぎり厳密に定義することが緊急の課題であった。』(pp.192)
 つまり、「欲動」とは、
『フロイトは生理学の知識を援用しつつ、欲動は外部刺激とは異なり、身体内部からの恒常的な刺激であるために、私たちは欲動から逃避という形で逃れることができないこの欲動の働きが私たちの「内部」と「外部」という区別を生み出し、神経系を無限に複雑な形に進化させる原動力となった。さらに、フロイトは欲動を衝迫、目標、対象、源泉という四つの観点から特徴づける。ここで重要なのは、欲動は常に 能動的であり、満足を目指すということである。』(192-193)というわけなのだ。
 彼は、「欲動」と「刺激」の関係を細かく解きほぐしてゆく。例えば、「欲動刺激」と「生理学刺激」を分けて、それぞれの「満足」に至る過程を示している。そこから、次に続く「抑圧」と「無意識」が出てくるのだが、この第1の論文は別として、以降に掲げられた論文「抑圧」、「無意識」、「夢理論へのメタサイコロジー的捕捉」、「喪とメランコリー」、「転移神経症概要」は、いずれも素人には歯が立たなかった。僅かに、「無意識」の中にはわかりそうなことも書かれているのだが、そこではあまりにも性行動に結び付けすぎているように感じられた。
 メタエンジニアリング的に考えると、「欲動」は人間の精神活動の根源で、エンジニアのイノベーション指向などは、その一つと思う。


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