生涯いちエンジニアを目指して、ついに半老人になってしまいました。

その場考学研究所:ボーイング777のエンジンの国際開発のチーフエンジニアの眼をとおして技術のあり方の疑問を解きます

その場考学のすすめ(17)自分がデザインしたものに乗るときの感覚

2020年04月28日 11時14分34秒 | その場考学のすすめ
その場考学研究所  
その場考学のすすめ(17)
TITLE:自分がデザインしたものに乗るときの感覚

 JR東日本の「大人の休日CLUB」(R2.5)に著名な工業デザイナーの奥山清行氏の記事があった。最近の彼は、もっぱら鉄道車両のデザインで有名で、「四季島」、「SL銀河」、「山手線」、最新の「サフィール踊り子」の名前が挙がっている。過去には、ポルシェやフェラーリのデザインで有名だったが、日本の自然への見直しと地方活性化のために山形在住を決めたそうだ。
書き出しには、このようにある。
 『自分がデザインした列車に初めて乗るときには、いつもドキドキする。デザイン上の列車は静止画ですが、実際にそれが走り出すと、外の景色とともに社内の様子がどんどん移り変わって、まるで命をを吹き込まれたように感じます。』

 その時、同じ感覚を思い出した。それは約30年前に、私がデザインしたジェットエンジンを搭載した飛行機に初めて乗った時だった。そのA320機は、日本でも多く飛んでいたが、全てエンジンはライバルのGE製だった。欧米では互角だったが、なぜか日本では採用されていなかった。当時の私は、日英米を行ったり来たりで、その時はボストンからロスへの途中だった。

 海外出張の航空券は、距離が長いので、少々寄り道をしても、運賃は変わりない。私は、土曜日のフライトを、ボストン⇒シカゴ⇒テキサスの某地⇒ロスに変更した。シカゴ⇒テキサスの某地の機体が、V2500エンジン搭載のA320だったからである。このルートは、当時の短距離用A320としては、ぎりぎりの航続距離で向かい風だと行きつけるかどうか、私にはわからなかった。
 エンジンの開発中にテストセルでの運転は嫌と云うほど見てきたが、搭乗するのはまさに「自分がデザインした列車に初めて乗るときには、・・・ドキドキする」だった。前方の窓際の席を注文して、機体はいよいよ滑走を始めた。

その場考学(17)

 この記事を読んで、その場で浮かんだのは、知覚と感覚についてだった。その時の彼は、視覚と聴覚でドキドキを経験した。私の場合は、聴覚(エンジン音)と体感(エンジンとそれとれ振動する機体の振動)だった。
 
 人間には、五感と第六感がある、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚そして知覚だ。つまり、それぞれの担当器官が覚醒する。では、体感は「なに覚」なのだろうかという疑問だった。体感の意味は「暑さ・寒さ・痛み・飢え・渇き・性欲・吐きけなどの感覚」と辞書にはある。振動を感じるのは重力変化なのだから三半器官なのだろう。振動は周波数の低い音なのだから、聴覚の一種と考えられなくもない。
 
 人類は、知覚を発達させたために、多くの感覚が劣化され続けていることを、長い歴史を知るたびに痛感する。現代の知覚はより多くの刺激を与えてくれるのだが、その代償は、将来どのような形で表れてくるのだろうか。生物体としての進化のスピードは、現代の様々な知覚の増加には付いてゆけないことは自明だ。



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