生涯いちエンジニアを目指して、ついに半老人になってしまいました。

その場考学研究所:ボーイング777のエンジンの国際開発のチーフエンジニアの眼をとおして技術のあり方の疑問を解きます

その場考学のすすめ(16)のぞみ号の台車の亀裂問題

2018年07月16日 20時24分03秒 | その場考学のすすめ
TITLE:のぞみ号の台車の亀裂問題

H29年12月に、JR西日本の「のぞみ」で 破壊寸前の台車の亀裂が発見されて、大問題になった。大事故に至る明確な兆候を見逃していたのだから、大問題になるのは当然だった。半年後に、運輸安産委員会の報告結果がH30.6.28の日経新聞の一面に掲載された。それによると、「車両の記録装置に車体を支える空気バネのデータが残されており、発覚前日のデータでは、その日の午後から荷重が急激に減少して、車体のバランスが崩れていたことが分かった。」としている。そして、「データを常に監視していれば、異常を早期に察知できる可能性がある」としている。つまり、データ上は前日から明らかな異常が示されていたのだった。         。

 この事実には驚かざるを得ない。航空機に搭載されたエンジンでは、飛行後に多くのデータを解析して、異常の有無を確認してから、翌日の飛行に備えることが、はるか昔から行われている。数年前からは、これらがリアルタイムになり、飛行中のエンジンの状態を常時監視することが行われている。

 すべての材料と加工にはばらつきがある。それは、ある確率では設計寿命の半分以下でも破壊が進行することがあり得る。そのためのデータ収集だと思われるのだが、実際には役に立っていなかった。原因は何であろうか。このような事件や事故が起きるたびに、私は、もっとも上流の設計者が原因と考えることにしている。

 この場合、設計者は台車の亀裂がどのような事故に繋がるかは念頭にあり、そのうえで強度や寿命を満足する台車の諸寸法の設計を行った。さらに、それを支えるバネのデータ収集も行う措置をした。設計の作業は、そこで終わっているように思われる。しかし、それでは設計機能の半分しか果たしていない。つまり、「FMECA」を行っていない。「FMECA(Failure Mode Effective and Criticality Analysis) 」とは、安全性に関わる部品が、何らかの条件(いわゆる想定外)で設計寿命を満足できなかった場合に、どのような事故に繋がるのか、その事故で想定される被害を少しでも軽減する方策は何であろうかを考えて、その結果を、改めて設計に盛り込む作業である。いわば、Design Reviewの最終段階のものなのだが、残念ながら、日本ではこの作業は通常は行われない。通常は、「FMEA」と呼ばれる解析作業どまりになっている。つまり、「Criticality」をとことん追求しない。
 
このことは、日本人の「安全神話」文化が大きく影響していると思っている。危険なことを考えること自体が危険であると思ってしまう文化だ。設計者は、常に安全神話を乗り越えなければいけない。福島原発や、中央道の笹子トンネル事故でも同じことが繰り返されている。
 
その場考学的に考えると、このことは最初の設計者しかできない作業になる。つまり、最初の設計者がその場で行わなければならないことなのだ。あとからほかの設計技術者が考えても、真実のことは半分も伝わらない。
 


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