ハナママゴンの雑記帳

ひとり上手で面倒臭がりで出不精だけれど旅行は好きな兼業主婦が、書きたいことを気ままに書かせていただいております。

ジェームズ・バルジャーくん殺害事件 ② [事件前後]

2013-03-18 18:47:17 | 事件

1993年2月12日(金)。学校をさぼったロバート・トンプソンとジョン・ヴェナブルズは、万引きするためショッピング・センターに行った。スリルを味わうのが目的だったから、盗むものは何でもよかった。乾電池、ペンキ、ペンや鉛筆、人形、果物、飴、メークアップ用品。盗んだものの大半は、ちょっといじっただけで捨てた。ジャケットの下に学校の制服を着ていた二人に「学校はどうした?」と訊く大人もいたが、二人は「ホリデー中だ」と嘘をついた。やがて万引きにも飽きた二人は、小さい子を親から引き離して迷子にさせることを思いついた。ロバートによると、それはジョンのアイディアだった。「もう長いこと小さい子をぶってないから、小さい子を捕まえようぜ。迷子にさせれば、道路に入り込んで車に轢かれるかもしれない。」二人は、小さい子を走り来るバスの前に突き飛ばすことも冗談にした。

3歳の娘と2歳の息子を連れて買物に来ていたある母親は、子供たちがロバートとジョンと遊んでいるのに気づいた。年長の二人は小銭入れの開閉部を開けたり閉めたりして、子供たちの関心を引いていた。母親は子供たちを呼び戻した。買物をして会計を済ませた母親は、娘の姿しか見えないのに気づき、娘に弟はどこかと訊いた。「男の子たちと外に行った」娘は答え、母親は慌てて外に駆け出して息子の名を呼んだ。ロバートとジョンが、息子を手招きしながら先を歩いていた。母親の姿を見留めたジョンは、一瞬凍りついてから言った。「ママのところへお帰り。」二人の少年は、すぐにその場を立ち去った。

やがて二人は、駄菓子屋に向かった。飴をいくつか失敬するのが目的だった。しかし駄菓子屋は、その日閉まっていた。次は何をしようか―――その場に立って考えていたとき、ジョンは、肉屋の店先に立つジェームズ・バルジャーに気づいた。「坊や、おいで」ジョンが声をかけると、ジェームズはジョンの手を取って一緒に歩き出した。防犯カメラが、ショッピング・センターの出口に向かう三人の後姿を捕えていた。時間は15時42分だった。

ジェームズの姿が見えなくなりパニックしたデニーズは、警備員のオフィスへと案内され、そこで彼女は、ジェームズが着ていたものを口述した。警備員は特に心配しなかった。迷子のアナウンスをするのはよくあることだ。しかしアナウンスには、何の反応もなかった。デニーズはセンター内を探し回り、警備員にもジェームズがまだ見つかっていないことを確認した。16時15分、警察にジェームズの行方不明が通報された。

 

ジェームズを拉致したロバートとジョンは、ある時はジェームズと手を繋ぎ、ある時は二人がかりでジェームズを抱えて、約2時間かけてジェームズの遺体発見現場となる線路にたどり着いた。距離にして約4km。母親を求めてジェームズは時折泣いたが、二人は無視した。橋の下の運河の脇を通りかかったとき、二人はジェームズを水中に突き落とすことを冗談にした。この運河脇で、二人はジェームズに対する最初の暴力をはたらいた。ロバートとジョンのどちらかが(二人はお互いに相手がやったと主張)ジェームズを持ち上げ、頭から落とした。しかしながら、この暴力行為にひるんだ二人は、怖くなってその場から逃げ出した。泣き叫ぶジェームズを後に残して。

通りがかったの女性がジェームズを見て、他の子供の連れだろうと考えた。ロバートとジョンは立ち止まり、ジェームズの所に戻った。「さあ、おいで。」純真無垢なジェームズは、大きな痣と切り傷を額に負いつつ、二人の後をついてふたたび歩き出した。二人はジェームズにフードをかぶせて、額についた傷を隠した。やがて、交通量の多い交差点を渡った。何人かの大人が、顔に涙の跡をつけた幼い男の子を見た。うち何人かは、ジェームズの額の傷に気づいた。不審に思った大人もいたが、三人に干渉する者はなかった。ジェームズが母親を求めて泣き叫んでいたら、あるいは少年たちがジェームズを冷酷に扱っていたら、誰かが何かしらの行動を起こしていただろう。しかし大抵の場面で、ジェームズは落ち着いた様子で二人の少年と歩いていたという。

金曜日は、仕事を早目に切り上げる人が多い。ラッシュアワーが始まりつつあった。車を運転していた女性は、ジェームズが二人の少年の間を駆けているのを見て三人は遊んでいるのだと思った。ロバートとジョンに挟まれて道路を横断中のジェームズが泣きながら足を引きずっているのを見た数人は、ジェームズは一人で勝手に歩かせてもらえないから泣いているのだと考えた。親はどこにいるんだろうと訝しんだ者もいた。が、多くは三人を兄弟か、二人兄弟と兄の友達と思った。後の捜査で、判明しただけでも38人が三人を目撃していたことがわかった。この38名は、ジェームズを助けるために何もしなかったことで世間の批判にさらされた。しかし、―――二人の10歳の少年に連れられた幼い男の子が、まもなくその二人に殺害されることになるなど、誰が想像できただろう?

三人が一休みしていたとき、年老いた女性が明らかに怪我を負っているジェームズに気づいた。彼女は三人に近づき、一体どうしたのかと訊ねた。ジェームズは泣いていて、その顔は赤く、傷を負っていた。「ちょっと前に、この子が迷子になってるのを見つけたんだ。」ロバートとジョンは、ジェームズを知らないふりをした。女性は二人に、ジェームズをすぐ近くの警察署に連れて行くよう言い、道順を教えた。幼児の怪我が心配だった。女性は三人を見送ったが、三人が反対方向へと歩き去るのを信じられない面持ちで眺めた。彼女は三人に向かって叫んだが、三人は振り返らなかった。どうしよう・・・女性が考えあぐねていると、少し前に三人を見かけた別の女性が通りかかり、「三人は笑っていた」と教えて年老いた女性を安心させた。多分、弟の面倒を見るのに慣れていないお兄ちゃんたちなのだろう。その晩のニュースでジェームズの行方不明を知った彼女は、すぐさま警察に電話し知っていることを話した。「今になって、あの時何かしていたら・・・と思うわ。」

犬を散歩させていた女性も、三人にどうしたのかと訊ねた。二人の少年は、迷子の幼児を警察に連れて行くところだと答えた。その会話を耳にした、幼い女の子を連れた別の女性が、会話に加わって少年たちにどこに住んでいるのか尋ねた。ロバートは答えそうになったが、ジョンが素早く口を出した。「警察は帰り道の途中にあるんだ。」ロバートはジェームズの手を離し、神経質そうに目を逸らした。するとジョンがロバートに言った。「その子の手を取れ。」ロバートはふたたびジェームズの手を掴んだ。

幼い娘を連れた女性は、怪我をして悲しそうなジェームズを見つめた。「坊や、大丈夫?」答えはなかった。ジョンは、自分たちでこの子を警察に届けるから大丈夫だと主張した。しかし女性は、何かがおかしいと感じた。もう暗くなりかけているのに、この男の子たちはどことなく不正直っぽい・・・ 彼女は、犬連れの女性に、自分がジェームズを警察に送り届ける間、疲れてしまった自分の娘を見ていてくれないかと頼んだ。しかし犬連れの女性は、自分の犬は子供嫌いだからと断った。歩き出す三人に向かって、子供連れの女性は声をかけた。「警察への道順、ちゃんとわかってる?」ジョンは警察の方角を指差して言った。「あっちでしょ?大丈夫。」

三人は、店に入った。ロバートは店員に、弟にあげるお菓子が欲しいと言った。店員は、ジェームズの痣や傷に気づいた。ペットショップには、魚を見に入った。店員は、ジョンがジェームズの手を、絶対に放すものかとばかりに握り締めているのを不思議に思った。

ロバートと顔見知りの、年上の少年二人組にも出くわした。二人は、ジェームズの怪我に気づいて「誰だ、この子?」と尋ねた。ロバートは彼等に、「ジョンの弟で家に連れ帰るところだ」と言った。年上の二人はジェームズの怪我と頬に残る涙の跡が気になった。二人のうち一人は「ちゃんと連れてけよ、さもなきゃぶちのめすからな」とロバートに警告したと、後日供述した。

時刻は17:30頃になり、辺りは暗くなっていた。左に行くとロバートの家、右に行くとすぐに警察署がある。ロバートとジョンはしかし、警察署を避け、人気のない線路へと入り込んだ。その途中でジョンは、ジェームズのフードを引きちぎって捨てた。もうジェームズの怪我を隠す必要はなかった。2時間・4kmにも及ぶジェームズ連れ回しの間、ロバートとジョンはジェームズを隠そうとせず、多くの人に目撃されていた。一体連れ回しのいつどこで殺意が芽生えたのか。警察にジェームズを届けたら、警官はジェームズの怪我に気づき、二人を罰するかもしれない。牢屋に放り込むかもしれない。それが嫌で、ジェームズを殺してしまうことにしたのか。それとも、幼い男の子をもっと傷つけてみたいという欲求を抑えられなかったのか。

死につながる暴力がジェームズに加えられたのは、17時45分から18時30頃の間だった。最初に二人のどちらかがジェームズに青いペンキを投げつけた。ペンキが左目に入り、ジェームズは叫び声を上げた。“As If”の著者ブレーク・モリソンが指摘するように、二人はジェームズをペンキで覆って顔の造作を見えなくすることによって、ジェームズを『人間以外の何か』と見なそうとしたのかもしれない。青いペンキをかけられたジェームズはエイリアンかモンスター人形に見え、罪悪感にとらわれずに危害を加えられたのかもしれない。二人はジェームズに石をぶつけ、彼を蹴り、レンガで殴り、鉄の棒で打ちつけた。靴を脱がせ、下着をはいだ。性的暴行も加えたと考えられている。ジェームズが死んだと思った二人は、通過する列車に轢断されるよう彼の体をレールに横たえ、出血していた頭部を石ころやレンガで覆って立ち去った。

 

町に戻ったロバートとジョンは友達を訪ねたが、留守だった。退屈して辺りをぶらつき、暇つぶしにレンタル・ビデオ店に入った。そこにジョンをずっと探していたジョンの母親スーザン・ヴェナブルズがやって来た。金切り声を上げて二人をひっぱたきながら、スーザンはジョンとロバートをビデオ店から引きずり出した。ロバートは逃げ出した。スーザンはジョンを警察署に引張っていくと、ジョンにお説教をしてくれるよう警官に頼んだ。彼女は息子を叱りつけた。「ショッピング・センターから小さな男の子が誘拐されたのよ。誘拐されたのはお前だったかもしれないじゃないの!」

泣きながら家に戻ったロバートは、「ジョン・ヴェナブルズの母親にビデオ店から引きずり出されて叩かれた」と母親に訴えた。ロバートの母アン・トンプソンは怒り、警察に乗り込んでスーザンの暴力行為を告発した。ロバートの左目の下に小さな引っ掻き傷があるのに気づいた警官は、それはスーザンに叩かれたときにできたものだと考えた。

ジェームズの行方不明がその晩のニュースで報道されると、目撃情報がなだれ込んだ。ジェームズが運河の脇で目撃されていたため、警察は翌朝運河を捜索することを決めた。子供の拉致事件が起こると、まず両親に疑いの目を向けるのが捜査の基本だったため、デニーズとラルフも尋問を受けた。が、目撃情報があまりにも多かったため、二人はすぐに警察の疑惑の外に置かれた。また当日ショッピング・センターでは、「髪をポニーテールにした初老の男が、小さい子供たちに声をかけていた」という目撃情報もあった。その晩の夜中過ぎ、ジェームズを拉致した人物が映っていることを願いつつ、捜査員たちは防犯カメラの映像を調べた。ジェームズらしい男の子は、ポニーテールの初老の男ではなく、二人の少年に連れ去られていた。

翌朝、ダイバーによって運河が捜索された。陸地も捜索され、聞き込み捜査も行われた。ジェームズが連れ出される映像の静止画像が警察によって公開され、テレビや新聞で大きく報じられた。残念ながら画像はかなり不鮮明で、近所の子供の誰にも見えた。アン・トンプソンはロバートに、あれは彼かと訊いた。ロバートは否定したが、不安を感じたアンは友人に懸念を打ち明けた。

 

2月14日(日)、午後。ボールを捜して線路に入り込んだ4人の少年が、ジェームズの遺体を発見した。彼等は最初、それを猫だと思い、それから、二つに裂かれた人形だと思った。ロバートとジョンは明らかに、列車がジェームズの体を轢断することを期待して、彼をレール上に横たえていた。世間が、ジェームズは線路に迷い込んで列車にはねられ死亡したと考えると思ったのか。それとも列車にはねられれば、すべての手掛かりがなくなると思ったのか。

現場には、血痕のついた長さ60cmの重い鉄の棒に加え、多数の血のついた石ころやレンガが残されていた。ジェームズの頬には、のちにロバート・トンプソンのものと一致する靴跡がついていた。遺体が轢断されていたことは第一発見者である少年たちによって既にマスコミに漏れていたが、ジェームズが受けた残忍きわまる暴行については、捜査が続く間は伏せられることになった。拉致され殺されただけでも十分悪いのに、さらに理解に苦しむ、残忍な暴力。最も経験豊富な捜査員でさえ、ジェームズが受けた暴力の残酷さにショックを受けた。「現場ではプロとしてのモードに入る。でも決して、二度と、忘れることはできない。」捜査を指揮したアルバート・カービー捜査官は、後年語った。

                                   

突然署内が騒然となり、皆がばたばたと動き出したため、ジェームズが行方不明になって以来警察署に詰めていたデニーズは、捜査に進展があったことを悟った。身元未確認の遺体が発見されたと聞かされ、デニーズは奈落の底に突き落とされたように感じた。待つことしかできなかった。遺体がジェームズと確認されるのを。

ジョンは自宅で、ジェームズの行方不明に関するニュースに大いに関心を示した。彼は母親に、ジェームズを連れ去った二人の少年は見つかったのか尋ね、「もしあいつらを見かけていたら、ぶちのめしてやっていたのに」と言った。日曜日に母親からジェームズの遺体が見つかったことを聞くと、ジョンは「あの子のかわいそうなママ」を心配したという。父親のニールにジャケットの袖についた青いペンキのことを訊かれると、ジョンはロバートが彼にペンキを投げつけたのだと言った。ジェームズの遺体は青いペンキで覆われていたことがニュースで報道されたが、ジョンの両親は、息子があの日学校をさぼったことを知りながらも、息子の関与を疑うことはなかった。

ジェームズをショッピング・センターから連れ出した二人の少年を、どうやって発見するか。警察は金曜日に登校しなかった生徒のリストをチェックし、記者会見で情報提供を呼び掛けた。地域社会に、未確認の二人の少年を標的にした、魔女狩りのような空気が漂った。手に余る子供を持つ親は、我が子を容疑者として通報した。ある12歳の少年が逮捕されると、その少年はまだ公式に起訴されてもいなかったのに、怒った近隣の住民が彼の家を襲って窓を壊した。そのため彼の家族は避難しなければならなかった。彼はその後、起訴されることなく釈放された。

『スーザン・ヴェナブルズの友人』と名乗る女性からもたらされた情報により、捜査線上にロバート・トンプソンとジョン・ヴェナブルズの名前が浮かんだ。2月18日(木)、二人は逮捕された。その頃、ショッピング・センター内の商店主が、警察に連絡していた。「ビデオに映ったあの二人の少年は、あの子が行方不明になった日、うちの店にいたかもしれない。」警察が来て、店の指紋を多数採取した。そのうちのひとつが、ジョンのものと一致した。

 

≪敬称略≫

≪ につづく ≫

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1 コメント

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Unknown (美香)
2019-11-20 22:37:07
実はべナブルズとトンプソンは犯行直前に万引きを説教されており、その腹いせにジェームズ君を誘拐して殺したという証言もあるそうです。
私はこんなくだらない理屈でジェームズ君が殺されたことを知ったとき死刑でいいと確信しました。
そのクソガキ2匹を守るのにどれだけの税金が浪費されたことか?
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