小説を読むことなぞ、ほとんどなかった私
しかし、19の私がどうしたきっかけかは忘れたが、この小説と出遭った
おそらく、この小説と出遭うべく環境が私のなかに整っていたのであらう
それはやはり、出遭うべくして出遭ったのである
19の私は感動した
そして、この小説を10年後、20年後、30年後、40年後と読み還して
私の想いは今もなお かわらず継続しつづけている
・・・そう想う私である
若き日の思い出
その内に汽車がついてしまったのです。
それから思い出の多い別荘にゆきました。
二人はさっきの話を忘れたようにその話をしません。
正子はもって来た弁当を食べる為にお茶をわかしにゆきました。
私はとうとう宮津に辛抱出来ずに言いました。
「正子さんがあやまらなければならないと言う話はなんだい」
「つまらない話だよ。しかし正子にとってはつまらない話でもないが、
あいつは呑気だから、自分はかまわない、野島さんに悪いと言うのだ。
僕は正直に言うと、君は気にしないと思う。
正子は自分が気になるので、君も気にすると思っているのだ」
「それは何んの話なのだ」
「わからないかい」
「何か噂をたてるものがあるのかい」
「そうなんだよ」
「それなら正子さんに少しも悪いことはない。僕が君の処にゆきすぎるからだろう」
「そうじゃないのだ。あいつが余計なことを言ったからだ。
まあ気にしないで聞いてくれ給え。初めっから話すから」
「ああ初めっから話してくれ給え」
「僕が田坂や前島と一緒に別荘に行った前日の土曜日だった。二人はいつものようにやって来た。
そして田坂が正子に碁をしようと言ったのだ。
正子は田坂と碁をするのはあまり好きじゃないのだ。
男の人に勝つのも面白くないし、負けるのもいやだと言うのだから。面白いはずはないのだ。
しかしあいつのことだから、いやとは言わずにやり出したのだ。ところが田坂は負けたのだ。
その負け方が少し面白くなかったらしいのだ。そのとばっちりが君の事になったのだ」
「怒ってはいけない。前島相手に何から君の話が出たかわからないが、君が変人だということ、
君がよく物を忘れること、それまではよかった、皆君に厚意を持って話していたのだから、
ところが前島がふとこういったのだ、あいつは頭が悪くはない、しかしあんまり天邪鬼すぎる。
世間へ出て成功するだろうか、それは成功しないよ、と田坂はすぐ言ったのだ。
そして君は自分でばかり偉いつもりでいるが、世間を知らなすぎる。
世間を甘く見すぎている。ああいうのは世間に出ても落伍者になって、ひねくれるのだ。
それから君のいろいろ批評が出た、二人ぐるになって正子に悪口を聞かせるのだと正子はとったのだね。
そして田坂が、あんな男を好きになる物好きな女があるかね、といったのだよ。
その時正子が不意にいわなければいいことをいってしまったのだ。
それはあるわ、わたし野島さん大好きよ。
あなたは変っているから。
田坂は苦笑いしてそう言って黙ってしまった。
そして翌日正子は別荘に私はゆかないと言い出したのだ。
僕が行けと言ったのだけど、いやだと言って 僕の言うことならなんでも聞くのだが、その時だけは聞かなかった。
そのあとの芝居の時も始め学校なんかかまわないと言って ゆくように言っていたのが、学校のせいにしてゆかなくなった。
それから田坂も僕の処に来なくなったのだ。
ところが一昨日だ。
正子が学校から帰って自分の雑記帳を見ると雑記帳に誰かいたずらがきして、野島正子様お目出とうとかいてあるのだ。
それには正子すっかり驚いてね。
この噂が方々に聞こえたら、そして君のお母さんのお耳にでも入ったら大変だと言って心配しているのだ。
正子はそういう野心は自分はちつとも持っていない。
私はただ野島さんが好きなだけなので、あの時つい腹が立って大好きと言ってしまって、大変軽薄なことを言ってしまったのだが、
僕は野島はそんなことで怒りはしないよ、と言ったので、やっと安心したのだが、君によくあやまってくれと言っていた。
許してやってくれるか」
「許すも許さないもないよ。僕だって正子さんは大好きだよ。僕の方が好きな位だからね。
尤もそれだけの話だが、僕はなんと言われたって男だから平気だが、正子さんに傷がついてはお気の毒だ」
「その点は心配していないのだ。
父も母も馬鹿な人間もいるものだと言って問題にしていないのだ。君も何んとも思わないでくれるだろう」
「思わないとも」
宮津はすぐ立って妹の処へゆきました。そして二人でやって来ました。
正子は神妙にお辞儀して言いました。
「どうもすいません」
「すまないどころですか。本当は僕はうれしく思いましたよ」
正子は真赤な顔になりました。
僕も赤くなったらしいのです。
正子は何も言いませんでして。
僕もそれ以上言えませんでした。
正子は丁寧にお辞儀をして、湯をわかしにゆきました。
そうだったのか。
そして私は宮津と田坂の妹の噂をこの時思い出し、その為宮津が失恋することになったら気の毒だと思いました。
しかし宮津が田坂の妹を愛していたという噂は大した根拠がなく、
誰が言い出したのか知りませんが、想像説にすぎなかった事をあとで知り安心しました。
そうでしょう。宮津は少しも田坂の妹に逢えないことを悲しんでいる
らしい様子は見えませんでした。
いつもより宮津も元気のように私は見えました。
しかしその日の私はあまり幸福すぎて、他の人の事なぞ気にする心の余裕がなかったのも事実です。
人間にはこんなに深い喜びが与えられているものだということを如実に知って、
今更に人生の無限の深さというものを感じたわけです。
勿論それはあとでその日のことを思って感じたことで、その日は有頂天に時間を過ごしたと言う方が本当でしょう。
一生に一日でもそんな日を持つことが出来たことを私は感謝するわけです。
私達は腹がへって来ました。お茶もわきました。
お弁当、それも私の分まで宮津の家でつくってくれたのですが、
それを食べながら私は正子を見ると、野島正子という言葉が、頭にややもすると浮んで来ます。
そうすると自ずと微笑が浮かんで来、あらためて正子を見るのです。
その時、正子も私の方を見、二人は気まりわるそうに微笑するのです。
気がついたら、いくら宮津でもいい感じはしなかったかも知れません。
しかし宮津の妹思いは大したものです。
正子の兄思いも それに負けませんが。
食事の時に何をしゃべったか、私は忘れました。
楽しかったことだけ覚えています。
食事がすんでから、宮津は一寸室を出てゆきました。
正子はあらためて
「御免なさい」
「御免なさいどころですか、僕は本当に嬉しいのです」
「怒っていらっしゃらない」
「怒るどころですか」
「お母さんのお耳に入ったら」
「大丈夫ですよ、それより母は僕があなたを好きになりすぎはしないかと心配しているのです」
「それは私みたいな役にたたないものをね」
「それは反対なのです。
母はあなたのような美しすぎる人は僕のようなものの処にくるわけはないときめて、僕のことを心配してくれるのです」
「どうですか」
「それは本当です、僕もそう思っているのです」
「今でも」
「あなたはあんまり僕にはよすぎますから」
「その反対よ、私、そんな」
その時、宮津が入って来ました。二人は黙りました。
しかし正子は涙ぐんでいるようです。
私もそれに気がつくと泣きたいような気になりました。いうまでもなく嬉しくってです。
どうしてこんなにいい人が、私のようなものを愛してくれたか。
同じ思いを正子がしているらしいのは、私には驚きでした。
なんだか正子が可哀そうな気さえして来ます。
宮津はお茶でも点れかえないかと言いました。
「はい」
正子は神妙な返事をしてすぐお茶を点れにゆきました。
宮津は言いました。
「こんな事を言って君と僕との友情がこわれると困るのだが、父や母にたのまれたのだ。
実はね、正子に縁談がちょいちょいあるのだ。しかし正子はてんでうけつけないのだ。
父も反対なのだ。正直言うと父も正子も、君を第一候補者に心の内できめているらしいのだ。
正子にとっては唯一と言っていいだろう。兄の目からそれがわかる。
実に君に対しては神妙であり、絶対に信頼しているのだ。
しかし母は君にもう許嫁の人があるかも知れない。又いないにしても、正子のことを思っていらっしゃらないかも知れない。
それなのに、こっちばかりあてにしていても、もしものことがあれば馬鹿気ていると言うのだ。
それで君の考えを聞いてくれと言うのだ。
僕はまだ早いと言うのだけれど母の心配するのも無理がないと思うのだ」
私は正直に言いました。
「君も感づいていてくれると思うが、僕は正子さんを愛しているのだ。
しかしその為に正子さんを不幸にしてはすまないと思っているので、僕の方からは、もう少し自信が出来てから、
それは主に生活の方の話だが、それから正子さんが僕の処に来てもいい気があったら話そうと思っていたのだ。
僕のような人間を正子さんが愛していてくれるとは思えないし、又僕のような金もない家の次男坊に来てくれとも言えないからね。
僕はただ君達の厚意と、君のお父さんがへんに僕に期待をかけてくださるので、いくらか望みをつないでいただけの話で、
それも僕の方から話すだけの自信はなかったのだ」
「君の遠慮は、このさいぬきにしてもらう方が話がしいいと思うね、
僕達は正子の仕合せだけを考え、君の方は君の方のことを考えればそれでいいのではないかと思うね。
君の兄さん、君のお母さんの御意見が一番僕には気になるのだ」
「その点は安心だと思うね。
僕の母なぞは、僕があんまり正子さんに夢中になりすぎはしないかとそればかり心配しているようだが、
それはいざと言う時に断られて僕が参りはしないかとそれを心配しているらしいのだ。
だから正子さんが本当に僕の所に来てくれたら、母は喜ぶと思うのだ。
しかし、その点心配なら母や兄に話して、はっきりした承諾を得ることにしてもいい、決して反対しないと思う。
心配なのは生活のことだが、生活出来る時まで待ってもらえば、何とかなると思う」
「待つのはなんでもない、しかし生活のことは心配する必要はないと思う。正子の生活の保障位は僕の方でも出来る。
この別荘が気に入っているらしいから、ここに住んでもらってもいい、この家は正子にやつてもいいと思っている、
遊びに来たい時はいつでもくるから、その実は別荘番をしてもらっているようなものになるかも知れないが、
あいつは贅沢はしたがらない、君の言うことなら何でもきくと言っているのだ。
兄としては君があいつを愛していてくれることがわかり、君のお母さんやお兄さんがそれを喜んで下さればそれでいいのだ」
「それなら僕の方の話が、うますぎて、何と言っていいかわからないよ」
「それを聞いて僕も安心した、正子が心配しているだろうから、知らせてくるよ」
宮津は出て行きました。
私はもう夢中でした。落ちつけなくって室の中を歩き廻りました。
正子がどんな顔をして入ってくるかと思いました。正子は喜んで飛んでくるだろうと思いました。
しかし中々やって来ません。
段々私は落ちつかなくなりました。どうしたのだろうと思いました。
やっと足音がしました。
私は落ちついているふりをして椅子に腰かけました。
そして自分のつまとして正子の第一印象をはっきりつかみたく思いました。
戸があきました。緊張しました。
ところが入って来たのは宮津だけです。がっかりしました。しかし宮津はにこにこしていいました。
「正ちゃんはあとで行くと言ったよ。大変喜んでいた」
喜んでいたと聞いて安心しましたが、飛んでくると思ったのに、飛んで来ないのには、いくらか不服でした。
私はもう夫になったような気がして、正子を叱る権利が出来たようないい気になっていたようです。
正子にたいする私の感じはすっかり変わりました。
今までは自分の手がとどかない高い青空にでも住んでいる天女のような気が何となくしていたのです。
私は憧憬の目で正子を見上げていたのです。手さえふれられない神聖なもののように思われていたのです。
今はちがいます。勿論正式に結婚するまでは、正子は私の本当の妻ではありません。
しかし事実、私のものになったわけです。
私は大した獲物を思わず得たわけです。
望むことさえ出来ないと思っていたものがいつのまにか自分のものになっていたのです。
それにしてもなぜ正子は出て来ないのでしょう。
私はその理由が聞きたいのですが、どうも聞くのは負けたような気がして、痩我慢をして聞きませんでした。
宮津も意地悪く黙っています。
二人は沈黙がちになりました。しかしその沈黙はいやな沈黙ではありません。
私は喜びが心の内からもり上がるのをかくすのに骨が折れます。
それにしても、正子はどうして来ないのでしょう。
気まりがわるいのでしょうか、宮津はなぜ呼びにゆかないのでしょう。
私が一人で気をもんでいるのが面白いのでしょうか、宮津も時々微笑するようです。
私は段々我慢が出来なくなりました。
その時、こつこつ戸をたたく音がしました。
戸があけられました。
正子です、正子にちがいありません、でも私は驚きました。
恥ずかしそうにうつむいている正子が、顔をあげたのを見ると薄化粧しているのです。
そして にっこりと笑いました。
その美しさ。
(私の正子イメージ)
私は驚きました。遅くなった理由がはっきりしました。
私は恥ずかしい話ですが、涙がこみ上げて来ました。
正子の心がなんとなくいじらしく感じられたのです。
私に少しでもよく、思われたい、美しく思われたい、
私の妻として最初に逢うのですから、それだけの心をつかっていることを示したい。
どの位 喜んでいるかを事実で示したがっているように、感じられました。
私も思わず立ち上がったのです。
何のために立ち上がったか自分でもわかりませんでした。
正子は今までになく神妙に入ってきました。
私は自分が立ったことに気がつき、きまりがわるく又腰かけました。
正子も以前の快活さに戻って来、椅子に腰かけました。
二人は黙っていました。
私は何か言いたいのですが、言う言葉はないのです。
しかし二人は同じ時に見合わせ、今度は本当に気持ちよく笑いました。
気分が一時にほどけたように思いました。
「中々来ないので、どうしたのかと思いました」
「お化粧したことが御ざいませんので、中々うまく出来ませんの」
「大変綺麗ですよ」
「野島さんが御らんになるとね」
宮津は逃げ出したくなったのか、室から用のあるふりをして出て行きました。
「夢のようです」 私はそう言いました。
「私こそ」
「本当にありがとう」
「私の言おうと思う事をおっしゃるのね」
「それでも、僕が君わ好きになるのは、あたりまえですが、君が好きになったのはあたりまえとは言えませんからね。
僕の方がお礼を言うのが本当ですよ」
「そうですかしらん。私の方が先に野島さんを好きになったのを御存知ないでしょ」
「そんな嘘は、知りません。僕は始めっからあなたが好きだったのですよ」
「始めって、いつのこと」
「海岸で初めてお逢いした、翌日です。海岸ではよくあなたの顔が見えませんでしたから」
「そら御らんなさい。それでは野島さんの方が負けですわ」
「どうしてです」
「それでも野島さんは輔仁大会(学習院の催し)で「美に就いて」と言う演説をなさった事がおありでしょう」
「あります」
「それを私、お聞きして、すっかり感心して、その時野島さんて偉い方でいい方だと思ったのですわ」
「あんな下手な演説を聴いてですか。今考えても恥ずかしい気がするのです。あなたは余程もの好きですね」
「ようございますわ。私のようなものをお好きになる方がもの好きですわ」
「それでもあなたは実際よすぎますから」
「よすぎるのは野島さんですわ」
「それは驚きました」
「あの時の演説、今でも覚えていますわ、学習院の徽章の桜の花は美しい。美しい女はいくらでもある」
「よして下さいよ。気でもちがったのではないですか」
「あの時のお話にも感心しましたが、あの時のお顔の真剣さと、計り知れないお寂しさに心を打たれたのですわ」
「もうあの演説の話はやめて下さい」
「だけど花には目がないとおっしゃったわね。私本当だと思いましたわ」
「そんな話をするとあなたの碁の話をしますよ」
「ようございますわ。私、あの時のあなたの演説のこと、もっともっと饒舌りたいのですわ」
「困った人ですね」
「あの時ね」
「もうその話をすると怒りますよ」
「怒って下さってもちっとも怖くはありませんわ」
「僕が本当になって怒ると怖いですよ」
「そしたら私泣きますわ。私なくと怖いのですよ」
「いやな人ですね」
「本当にいやな人なのよ。出来るだけなおしますから、いやな時はおっしゃってくださいね。叱らないで」
「あなたはいやな人では絶対ありませんよ。僕は怒ったりしませんよ」
「私だって泣いたことなんか、本当にありませんわ」
「でもあなたの泣き顔見ましたよ」
「嬉しくってでしょう」
「あなたは中々へらず口ですね」
「いけません」
「大いによろしい。でも僕の母にはその癖を出しては駄目ですよ」
「あなた以外には出しませんわ」
「それなら本当によろしい」
「いろいろ教えていただきますわ。野島さまのお母さま、本当に偉い方なのですってね。
私お気に入られるかどうか心配ですわ」
「大丈夫ですよ。無邪気に甘えさえすれば」
「甘える事なら私 お手のものですけど、あまり甘えてもね」
「堅すぎるのですから、甘える方がいいのですよ」
「そうお、それならよろしいわね」
「碁を打つことはあまり好かないかも知れませんよ。その点だけが心配です」
「碁なんか打ちたか御ざいませんわ。第一そんな暇はございませんわ」
「他で打つならかまわないですが」
「私、碁はそう好きじゃありませんのよ」
「好きでないのにあんなにうまくなったのは不思議ですね」
「それは若い時は好きだった時もありますけど」
「年よりになったら嫌いになったのですか」
「いやな方。兄を呼んできましょうね。兄は気をきかせすぎていますわ。
これからいつでも二人だけになれますからね」
「本当に呼んでいらっしゃい。僕もその方がいいのです」
「あの時の話をされないですみますものね。私は又碁の話をされずにすみますからね」
正子は出かけてゆきました。
しかし出てゆく前に私は一寸呼びとめました。
「正子さん」
「何に」
「野島正子さん」
「はーい」
そう言って逃げてゆきました。
まもなく宮津は笑いながら正子と入って来ました。
正子は言いました。
「ねえ お兄さん。私野島さんの演説を聞いて感心したのは本当ですわね」
「それは野島本当だよ。あの当時君のことばかり聞きたがるので閉口したよ」
「嘘ばっかり」
「それで君の声色をやったものだ」
「そんなことおっしゃるなんて、藪蛇だわ。お兄さんはどっちの加勢なさるの」
三人は笑いました。私は幸福でした。
人生にとってかげのない喜びの日がもしあるとすれば、それは稀有なものと思われます。
私は少なくもこの日はその稀有な日だったと思います。
一生の間、私はこの日のことを何度も思いだし、その度に清い喜びを感じるでしょう。
実際私は幸福でした。
この日を前から楽しみにしていたのは事実ですが、大概のことは期待通りにゆかないものです。
ところがこの日はわりに虫のいい期待はしていたのですが、
事実期待していた何百倍もの喜びが待ち受けていてくれたのです。
私が喜んだのは尤もです。
正子も喜んでくれました。
よき宮津も心から喜んでくれました。
二人だけだったら、この喜びは清い美しいものだけとして終わったかどうか、私には自信がありません。
宮津がいてくれたので、
私は自制が出来その自制が喜びを一層深い内面的のものにし反省と感謝の念を起させてくれました。
昭和49年(1974年)20才の青年になる直前、19才に出遭った小説である
19才の私は多感であった
そして、自分を磨きたかった
男として 「三島由紀夫」 に倣おうとし、女の 「正子」 を探し求めていた
二・二六事件の青年将校に深く感銘を受け
フォークのチェリッシュの悦チャンが唄う 「古いお寺にただひとり」 に、聞き惚れた
この、両極端のアンバランス
これこそ、私の 「青春のひとこま」 と謂えよう