質問14:「緑の福祉国家」ビジョンの作成は科学者の合意に基づいているとのことですが、どのような科学者(団体)なのかなど、もう少し詳しくお教え下さい。
「緑の福祉国家」というビジョンは、「環境に十分配慮した福祉国家(生態学的に持続可能な社会)を実現する」ということです。特別の科学者団体がスウェーデンにいるわけではありません。
環境問題がどれほど切羽詰まった事態にあるのか、その現状と今後50年の展望は、これまでに公表された国際機関からの報告書からあきらかです。権威ある国際機関が90年代以降に発表した主な報告書には、つぎのようなものがあります。
①「世界環境報告 1972~92」国連環境計画(UNEP)、 1992年
②「地球環境概況 2000」UNEP、1999年
③「IPCCの第三次評価報告」気候変動に関する政府間パネル(IPCC)、2001年
④「2020年までの環境見通し」経済協力開発機構(OECD)、2001年
⑤「地球環境白書」UNEP、2002年
⑥「生きている惑星の報告」世界自然保護基金(WWF)、2002年
なかでも、国連環境計画(UNEP)の「地球環境概況 2000」は、21世紀に人類が直面するであろう環境問題についての最も権威ある評価報告書といわれています。この報告書のポイントを挙げておきましょう。
①地上の淡水資源は、今後数十年間の需要増には対応できそうにない。
②温室効果ガス排出増による地球温暖化の防止はおそらく手遅れ。「京都議定書」 (1994年3月に発効した、地球温暖化防止のための「気候変動枠組み条約」を具体的な実施に移すために作成され、1997年12月に京都で開かれた第三回締約国会議=COP3で採択された議定書)の目標も達成が難しい。
③熱帯林の破壊は既に取り返しがつかない状態。失われた森林の回復には多くの時間が必要で、森林とともに失われた文化は永久に回復できない。
④ほ乳類の四分の一が絶滅の危機にあるなど、かつて地球上に存在した生物多様性を保つことは既に手遅れの状態。
⑤2050年には、20億人が極度の水不足に悩むことになり、世界の二酸化炭素の排出は2.4倍になる。有害物質の排出は地球全体では現在の3倍、途上国では5倍近くになると予測される。
⑥天然漁業資源は乱獲の影響で、現在年間8800万トンで頭打ちだが、2050年の需要は1億7000万トンに達すると予測される。
⑦目先の経済的な利益のためにしばしば無視されてきた環境問題を、財政、貿易、農業、投資、研究開発などに関する意思決定の中心に置くことが重要。(東京新聞1999年9月20日付)
また、2002年7月に公表された世界自然保護基金(WWF)の「生きている惑星の報告」では、「いまの勢いで天然資源の消費が続けば、2030年までに人類の発展は下降に転ずる。資源節約やエネルギー転換など緊急の対策をとらなければ、発展を続けてきた人類の福祉や経済は2030年までに下降に転ずる」と予測し、警告を発しています。
過去15年間に世界の自然科学者の間で地球規模の環境問題(とりわけ気候変動、日本では「地球温暖化」という)の危機的な状況についての合意がなされており、すでに自然科学者の現状把握の段階を経て、政治的行動の段階に至っています。 これらの情報は公開されたものですから、日本政府をはじめ日本の関心のある人々には入手可能なものばかりです。
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