・札幌のコンベンションセンターでの支部大会に参加.富良野は完全な雪景色だったのだが,札幌付近ではまるで雪が積もっておらず,拍子抜けといった感じである.昨日の天気では“辿り着けるのか?”という雰囲気だったが,全くの杞憂であった.先日のブログにも書いたが,今回は木材学会との共同開催ということで基調講演も盛況である.
・支部大会では発表件数はさほどではないのだが,聴講者の人数は想像以上に多く,会場はどこも満員に近い状態であった.発表はしないが情報は得たい人達(当方もその一人)は,こうした地方の大会などでは多いわけで・・・.しかし,立ち見が出るほどの賑わいながらも意外と質問は出てこない会場が多いのが少々残念.座長をしていると,質問が出ないときに苦し紛れにする座長質問が辛いので,皆さん積極的に質問しましょう.
・限られた時間で聴講できた発表の中で気になったものをいくつか挙げてみよう.まず,ニセアカシアの発芽生理に関する発表だが,ニセアカシアはマメ科の硬い殻を持った種子で,長期間土壌中に埋土できることが知られており,一般には表面に傷がついたりしないと発芽しないと考えられてきたが,最近では(物理的傷害を受けなくても)埋土中に何らかのきっかけで休眠が打破されて発芽すると予測されている,らしい.発表は,2母樹から種子を採取し,針葉樹林と広葉樹林の樹冠下にそれぞれ冬期間に埋蔵した後,光条件を変えて発芽試験を行った,というもの.
・面白かったのは,おそらく発表者としては“予想外”だったのだろうが,樹冠の環境や発芽試験の光条件というよりも,母樹によって全く応答反応が異なったことだ.一つの母樹は傷をつけなくても結構発芽し,埋土期間中に何らかのメカニズムによって休眠打破が行われたことが示唆されたが,もう一つの母樹ではほとんど発芽せず,おかげで発表者が立てておいた2つの作業仮説はどちらも何ともいえない,ということになってしまった.
・この結果を自分なりに考えてみると,樹上種子の段階でも種子の生理状態は刻々と変化し,いつの段階で採種されるかによって応答反応が異なるのではないだろうか,という感想を持った.そして,母樹,あるいは地域によって生理段階の進み方の違いがあるので,同時期に採種した2個体間でこれほど明確な違いが出たのではないか,という解釈はどうだろう.これを検証するには,1個体から時期別に採種して実験するというのと,地域数,母樹数を増やしてこの現象が一般的かどうかを見ることが必要だろう.
・もう一つは,知床のカラマツ人工林を天然林に誘導したいということで,レーキによる掻き起こし,クワによる地がき,ササ刈り,無処理といったいくつかの地表処理が林床の環境に与える影響を調べたもので,いくつかの重要な知見があった.環境因子としては,樹木の天然更新に影響すると思われる5因子として,土壌表面で測定した相対光量子密度(%),土壌硬度(mm),土壌含水率(%),リターの蓄積深さ(mm),ササの幹密度(1m2当たりの本数密度)である.
・掻き起こし区では,林床は明るくなり,土壌が硬く,含水率が高くなるが,リターの蓄積は少なく,ササはほとんどない,という状況となった.この結果は,当機関からのT君の発表とも関係し,しかも土壌硬度と含水率に関しては同様の結果だった.しかも,掻き起こし区では,機械による締め固めで土壌が硬くなり,土壌の孔隙組成が変化する(すなわち,排水が悪くなる)ために含水率が高くなる,ときちんと考察されており,二人で顔を見合わせて「そうか,そういうことだったのか・・・」と納得.この発表をもう少し前に聞いておきたかったところだが,ともかく参考になった.
・彼女(北海道大学の学生さん)の発表はここまではしっかりしているのだが,環境が実生の定着に及ぼす影響評価で“あれれっ”と予想外の展開になる.というのも,天然更新稚樹がそもそも少ないということで,アオダモ,イタヤカエデを100粒ずつ,ダケカンバを3000粒ずつ各試験区に播種し,発芽数を実生定着の評価としているわけだが,アオダモしかまともに発芽しなかったということで,結局,アオダモの発芽数がその指標になっている.山への播種がいかに難しいかを体感している当方としては,この結果は“さもありなん”である.本人も気にしていたように,アオダモだけで結論を出していいのかという問題もあるが,人工播種したときの発芽率と天然更新というのはそもそも全く次元の違う話だと思うわけで・・・.
・さらに印象的だったのは,「クワによる地がき」が一番良いという結論となっていたことだ.本当に,クワによる地がきをするつもりなのだろうか・・・などと,色々と気になってしまう発表だったわけだが,これだけ引っ掛かりがあるということは,それだけ面白い発表だったといえるのかもしれない.
・ポスター発表では,太平洋側のブナと日本海側のブナの葉の生理活性を調べたものが気になった.当方も,樹木園に設定されたブナ産地試験で今春,フェノロジーと葉のサイズや形を調べていたわけで,まさしくタイムリーな話題である.彼の発表では,太平洋側のブナは乾燥に適した葉を持つDryブナ,日本海側のブナはWetブナと呼ばれていた.光合成活性などを調べて,葉を「しおれにくくする」メカニズムが分布地によって異なり,脱水回避性と脱水耐性のどちらをとるか,といったところでトレードオフが働くという話だった(と思う).
・印象的だったのは,供試個体数を聞いたときである.予想外なことに,いずれも供試個体数は1であった.実験的,あるいは時間・金銭的な制約があるからなのだろうが,生理分野では“個体差”はあまり考えないということなのだろうか・・・.個体変異=“命”,みたいな育種研究者にとっては大いに異論があるところだが,葉の地域間変異(サイズだけでなく,厚さ等の個葉の細胞学的なところにもあるようだが)が“しおれにくさ”という選択の結果で生じている,などというメカニズムが分かってくると,適応的な遺伝子に迫る違うアプローチが考えられそうで興味深かった.
・最後に,幾寅天然林で択伐と無施業地の腐朽度別の倒木量と更新量の比較を行っていた発表が気になった.彼の発表では,1回くらいの択伐では倒木量はあまり変わらないだろう,という前提に立って研究を進めていたのだが,そもそもその前提がよく分からない.時間がなくて質問できなかったが,択伐地と無施業地の沿革によって状態は大きく異なると思うのだが・・・.
・結果では,彼の予想通り,倒木の腐朽度,量ともに無施業地でも施業地でも変わらなかった.彼としては予想通りかもしれないが,当方としてみれば全くの“予想外”である.倒木は直径10cm,長さ1m以上を全て“倒木”と定義しているので,収穫後の枝の一部も含まれているのだろうが,腐朽度が同程度ということは昔からあったということになる.一方,エゾマツとトドマツの更新量はというと,いずれも無施業地の方が多く,特にエゾマツは圧倒的に無施業地に多く,択伐区に少なかった,ということである.
・一見するとこれは普通っぽいが,実はかなり妙である.倒木の量も腐朽度も同じならば,エゾマツの更新量も同じになっても良さそうなものだ.これについては質問したところ,乾燥で枯れたのではないかということだが,枯死原因の特定と環境条件の測定はしていないらしく,残念ながら具体的な情報は得られなかった.また,トドマツではプロット全体では倒木よりも圧倒的に地表で更新しているらしい.これは,岩魚沢での当方の結果とは大きく異なる.倒木への依存度は,林床の状態(ササの厚さ)や林冠のうっぺい度(すなわち,光や乾燥の程度),斜面の傾斜などによって大きく変動するということなのかもしれない.いずれにしても,施業と更新の関係は,なかなか一筋縄ではいきそうにないようだ.
・支部大会では発表件数はさほどではないのだが,聴講者の人数は想像以上に多く,会場はどこも満員に近い状態であった.発表はしないが情報は得たい人達(当方もその一人)は,こうした地方の大会などでは多いわけで・・・.しかし,立ち見が出るほどの賑わいながらも意外と質問は出てこない会場が多いのが少々残念.座長をしていると,質問が出ないときに苦し紛れにする座長質問が辛いので,皆さん積極的に質問しましょう.
・限られた時間で聴講できた発表の中で気になったものをいくつか挙げてみよう.まず,ニセアカシアの発芽生理に関する発表だが,ニセアカシアはマメ科の硬い殻を持った種子で,長期間土壌中に埋土できることが知られており,一般には表面に傷がついたりしないと発芽しないと考えられてきたが,最近では(物理的傷害を受けなくても)埋土中に何らかのきっかけで休眠が打破されて発芽すると予測されている,らしい.発表は,2母樹から種子を採取し,針葉樹林と広葉樹林の樹冠下にそれぞれ冬期間に埋蔵した後,光条件を変えて発芽試験を行った,というもの.
・面白かったのは,おそらく発表者としては“予想外”だったのだろうが,樹冠の環境や発芽試験の光条件というよりも,母樹によって全く応答反応が異なったことだ.一つの母樹は傷をつけなくても結構発芽し,埋土期間中に何らかのメカニズムによって休眠打破が行われたことが示唆されたが,もう一つの母樹ではほとんど発芽せず,おかげで発表者が立てておいた2つの作業仮説はどちらも何ともいえない,ということになってしまった.
・この結果を自分なりに考えてみると,樹上種子の段階でも種子の生理状態は刻々と変化し,いつの段階で採種されるかによって応答反応が異なるのではないだろうか,という感想を持った.そして,母樹,あるいは地域によって生理段階の進み方の違いがあるので,同時期に採種した2個体間でこれほど明確な違いが出たのではないか,という解釈はどうだろう.これを検証するには,1個体から時期別に採種して実験するというのと,地域数,母樹数を増やしてこの現象が一般的かどうかを見ることが必要だろう.
・もう一つは,知床のカラマツ人工林を天然林に誘導したいということで,レーキによる掻き起こし,クワによる地がき,ササ刈り,無処理といったいくつかの地表処理が林床の環境に与える影響を調べたもので,いくつかの重要な知見があった.環境因子としては,樹木の天然更新に影響すると思われる5因子として,土壌表面で測定した相対光量子密度(%),土壌硬度(mm),土壌含水率(%),リターの蓄積深さ(mm),ササの幹密度(1m2当たりの本数密度)である.
・掻き起こし区では,林床は明るくなり,土壌が硬く,含水率が高くなるが,リターの蓄積は少なく,ササはほとんどない,という状況となった.この結果は,当機関からのT君の発表とも関係し,しかも土壌硬度と含水率に関しては同様の結果だった.しかも,掻き起こし区では,機械による締め固めで土壌が硬くなり,土壌の孔隙組成が変化する(すなわち,排水が悪くなる)ために含水率が高くなる,ときちんと考察されており,二人で顔を見合わせて「そうか,そういうことだったのか・・・」と納得.この発表をもう少し前に聞いておきたかったところだが,ともかく参考になった.
・彼女(北海道大学の学生さん)の発表はここまではしっかりしているのだが,環境が実生の定着に及ぼす影響評価で“あれれっ”と予想外の展開になる.というのも,天然更新稚樹がそもそも少ないということで,アオダモ,イタヤカエデを100粒ずつ,ダケカンバを3000粒ずつ各試験区に播種し,発芽数を実生定着の評価としているわけだが,アオダモしかまともに発芽しなかったということで,結局,アオダモの発芽数がその指標になっている.山への播種がいかに難しいかを体感している当方としては,この結果は“さもありなん”である.本人も気にしていたように,アオダモだけで結論を出していいのかという問題もあるが,人工播種したときの発芽率と天然更新というのはそもそも全く次元の違う話だと思うわけで・・・.
・さらに印象的だったのは,「クワによる地がき」が一番良いという結論となっていたことだ.本当に,クワによる地がきをするつもりなのだろうか・・・などと,色々と気になってしまう発表だったわけだが,これだけ引っ掛かりがあるということは,それだけ面白い発表だったといえるのかもしれない.
・ポスター発表では,太平洋側のブナと日本海側のブナの葉の生理活性を調べたものが気になった.当方も,樹木園に設定されたブナ産地試験で今春,フェノロジーと葉のサイズや形を調べていたわけで,まさしくタイムリーな話題である.彼の発表では,太平洋側のブナは乾燥に適した葉を持つDryブナ,日本海側のブナはWetブナと呼ばれていた.光合成活性などを調べて,葉を「しおれにくくする」メカニズムが分布地によって異なり,脱水回避性と脱水耐性のどちらをとるか,といったところでトレードオフが働くという話だった(と思う).
・印象的だったのは,供試個体数を聞いたときである.予想外なことに,いずれも供試個体数は1であった.実験的,あるいは時間・金銭的な制約があるからなのだろうが,生理分野では“個体差”はあまり考えないということなのだろうか・・・.個体変異=“命”,みたいな育種研究者にとっては大いに異論があるところだが,葉の地域間変異(サイズだけでなく,厚さ等の個葉の細胞学的なところにもあるようだが)が“しおれにくさ”という選択の結果で生じている,などというメカニズムが分かってくると,適応的な遺伝子に迫る違うアプローチが考えられそうで興味深かった.
・最後に,幾寅天然林で択伐と無施業地の腐朽度別の倒木量と更新量の比較を行っていた発表が気になった.彼の発表では,1回くらいの択伐では倒木量はあまり変わらないだろう,という前提に立って研究を進めていたのだが,そもそもその前提がよく分からない.時間がなくて質問できなかったが,択伐地と無施業地の沿革によって状態は大きく異なると思うのだが・・・.
・結果では,彼の予想通り,倒木の腐朽度,量ともに無施業地でも施業地でも変わらなかった.彼としては予想通りかもしれないが,当方としてみれば全くの“予想外”である.倒木は直径10cm,長さ1m以上を全て“倒木”と定義しているので,収穫後の枝の一部も含まれているのだろうが,腐朽度が同程度ということは昔からあったということになる.一方,エゾマツとトドマツの更新量はというと,いずれも無施業地の方が多く,特にエゾマツは圧倒的に無施業地に多く,択伐区に少なかった,ということである.
・一見するとこれは普通っぽいが,実はかなり妙である.倒木の量も腐朽度も同じならば,エゾマツの更新量も同じになっても良さそうなものだ.これについては質問したところ,乾燥で枯れたのではないかということだが,枯死原因の特定と環境条件の測定はしていないらしく,残念ながら具体的な情報は得られなかった.また,トドマツではプロット全体では倒木よりも圧倒的に地表で更新しているらしい.これは,岩魚沢での当方の結果とは大きく異なる.倒木への依存度は,林床の状態(ササの厚さ)や林冠のうっぺい度(すなわち,光や乾燥の程度),斜面の傾斜などによって大きく変動するということなのかもしれない.いずれにしても,施業と更新の関係は,なかなか一筋縄ではいきそうにないようだ.